魚、魚、魚!
春の柔らかい日差しの中、野山を歩いて食材を探し、じっくりと包丁の基礎を練習する…穏やかだった4月から一転、5月は緊張感ある仕入や調理の実践が始まりました。朝8時集合の日も船が早めに帰ってきたと連絡が入ったら、ダッシュで校舎に向かってクーラーボックスを積んで大敷へ!朝ごはん中も臨戦態勢です。
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私が島食の寺子屋で料理を学びたいと思った理由の一つは、自分で漁港に行き、魚を仕入れるところから経験できるということでした。前職は食品の宅配会社で、食材とレシピをお届けする献立サービスなどを担当していましたが、ここ数年、献立に使う食材の値上げや仕入の難しさに頭を悩ませていました。売価の上限と原価率が決まっているサービスでは、仕入値が上がるほどメニューに組み込める食材の種類と量が減り、お客さまの満足度に大きく影響します。特に魚は、家庭料理で一般的によく食べられている魚種の確保が年々難しくなり、食味の近い他の魚を提案いただいたりしながらしのいでいました。それでも「仕入の希望価格に幅を持たせておかないと、必要量を用意するのが難しい。」と、じわじわと価格は上がっていく一方。水揚げ量や競りの状況次第で、という大まかな状況は伺ってはいたものの、実際に仕入の現場で、そしてその先の海で何が起きているのか、自分の目で見てみたい!と思っていた私にとって、魚の授業は待ちに待った時間でした。
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朝、大敷に向かうと漁師のみなさんが手際よく、船からおろされる魚を種類別に水槽に仕分けています。この1か月の間にも、水揚げされる魚の種類や大きさは変化していて、一昨日はこれまで見た魚の中で一番の大物、マグロに遭遇!暖かい南からの海流に乗ってやってくる大きな魚が、これからの季節は定置網にかかりやすいとのことでした。魚に触れるようになってから、陸からは見えない深い海の中でも確実に季節は進んでいて、魚たちも、その命をいただく私たちも、大きな自然の時間軸の中で生かされていることを日々実感します。
「魚が足りない」 仕入れの失敗から学んだこと
「60gの切り身を25枚、2セットつくってほしい。」その日、大敷で恒光さんから指示を受けました。普段は「〇g以上の魚を〇尾」という指示のもとみんなで魚を集めて一斉にさばいていきますが、その日は最終形態の指示から自分で必要量を計算し、仕分けの水槽から魚を選んで加工までを担当することに。魚は内臓や頭、骨を除くとだいたい1/2の重さになる、と以前習ったことをもとに少し余裕をもって合計約8㎏のハマチを仕入れました。しかし、いざさばいてみると、半身が240g以下になってしまうものがでてきたり、形をきれいに揃えるならそもそも半身から60gの切り身は3枚しか取れなかったり…仕入量が足りなかったことが判明。結局、翌日に追加の魚を入れて、納品も1日延期していただくことになりました。納品先の方やその調整で恒光さんにご迷惑をかけてしまったことがとても心苦しく、猛反省したできごとでした…
前述の献立サービスで、私たち担当から仕入先の方にお願いしていた内容は「〇gカットの切り身を〇月に〇セット売りたいです。」というもので、まさに恒光さんからいただいた指示と同じでした。今回、必要量を自分で考え、魚を選んで、やってみて「仕入の希望価格に幅を持たせておかないと、必要量を用意するのが難しい。」その言葉の意味が、腹落ちできたように思います。漁港では毎日入ってくる魚の種類が違うこと。同じ魚種でも、季節の移り変わりとともに身の厚みが変わっていくこと。1尾から指定重量で同サイズの切り身をつくることの難しさ。また、加工の過程で必ず出る半端な重量の切り身やアラが売れなければ、切り身にその価格が乗ってくること…寺子屋で学び始めた今なら、商品規格やメニューの工夫を考え仕入先の方に私からも提案しながら、解決策を見つけていけるかもしれない!と感じています。
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寺子屋で学ぶ期間は残り10か月。離島キッチンやまかない、お弁当など、実践の中でたくさん失敗もすると思うけれど、決して落ち込んで終わらないこと。ひとつずつ、できることを着実に増やしていけるように、しっかり振り返りながら進んでいきたいと思います。
(文:島食の寺子屋生徒 河野)