ケガの賠償は人身事故にしなくても問題なく受けられる
交通事故で判断が迷う質問の一つに「人身事故にしますか?物件事故にしますか?」というものがあります。
どういう意味で、自分または相手にどういう影響がでるのか?今回は書いていきます。
ケガをしたら人身事故として届け出るのがルール
物件事故というのは、ケガ人がでなかった事故のことです。
車同士の事故でもケガしないケースは多いです。
保険会社には、毎日たくさんの事故報告があります。
全てがケガ人がいる事故ではありません。車の安全性能が格段に上がったことからも、ケガ人がいる事故は年々減っています。
地域によっても違いますし、統計データを見て書いているわけではありませんが(以前は日本損害保険協会がまとめたものがありましたが、現在は公開していないようです)、私の感覚ではケガ人がいる事故は全体の3割程度であると思います。
ケガ人がいない物件事故は車同士以外にも、単独でモノを壊したりするのも入ります。
ケガ人がいる場合には人身事故になりますが、これは基本的にケガをした人が病院から「警察提出用診断書」というものを発行してもらい、警察に提出して受理された場合に「物件事故が人身事故に切り替わる」という仕組みです。
ケガをした人がいる場合には「警察提出用診断書」を提出するのがルールとなっています。警察は提出されると、当事者に「実況見分」をするため日時を指定してきてもらい、事故現場で調査を行い、各人から調書をとります。
警察内での手続き後、物件事故が人身事故に切り替わりますので、当事者が「交通事故証明書」の発行を依頼すると「人身事故」に切り替わっていることを確認できます。
事故状況によって実況見分を当日事故直後に行なうこともありますが、警察官からは「ケガをしいているなら、警察提出用診断書を後日〇〇警察署に提出してください」と言われます。
物件事故のままでもケガの賠償は問題なく受けられる
ケガをしたら人身事故にする(警察提出用診断書を提出する)のはルールと書きましたが、これは警察のルールです。
もちろんルールなので守るべきなのですが、それとケガ人に賠償することは全く別の話になります。
警察はケガをさせた人に罰を与える「刑事」の世界ですが、保険会社が加害者の代わりにケガ人に賠償するのは「民事」の世界です。よって、賠償を受けるために人身事故にする必要は全くありません。
自賠責保険でも規定されていて、人身事故はもちろんですが、交通事故証明書が物件事故になっている場合「人身事故証明書入手不能理由書」を提出すればいいですよ、賠償できますよと規定されています。
よって「人身事故にしないと賠償は受けられない」という人がいますが、これは間違った情報です。
人身事故にしない理由はいろいろある
刑事と民事の違いがありますし、保険会社(加害者側)の立場では、被害者に「人身事故届を出さないでください」とは言えません。「出さなくても問題なく賠償を受けられますよ、どうしますか?」と聞く程度です。提出するかどうかは、ケガをした人の自由です。
人身事故にしないという選択をする人は、どのような理由なのでしょうか?
保険会社から送られる「人身事故証明書入手不能理由書」にはあらかじめ該当する理由が書かれており、チェックすればいいようになっています。
基本的に「治療が念のための検査だけだった」とか「治療が短期間で終わったから」というすぐに治ったからという理由ですが、そのほかに「公道上の事故では無かった(駐車場内)」という理由もありますし、フリーで理由を書けるようになっています。
・ 謝ってもらったので賠償されるなら、相手に罰を与える必要はない
・ 相手が高齢でかわいそう
・ 遠方で現場や警察署に行くことが難しい
・ 忙しくて実況見分に行く時間が無い
「相手に罰を与える必要がない」「罰を与えるほどのケガではない」とか「罰を与えたくない」というのは結構多いです。
これには逆のケースもあって被害者に確認するときに「ケガは軽傷だけど、相手に罰を与えるために人身事故にする」とか「現場で相手は、すみませんの一言も無かったし態度も悪いので罰を与えたい」ということもあります。
こちらでも書きましたが、現場で謝らない人というのは間違った情報で、そういう態度をとっているのかもしれませんが、それが原因で人身事故にされてしまうということもあるわけです。
最寄りの派出所の警察官は理解していない人もいる
刑事と民事の違いはありますし、警察ではケガ人がいるなら人身事故にするのがルールのため、現場に駆け付けた最寄りの派出所の警察官から間違ったアドバイスを受けることもあります。実際にあったやりとりです。
警官 「人身事故にしますか?物件事故にしますか?」
被害者「わかりませんが、物件事故のままだとどうなりますか?」
警官 「保険会社から治療費など賠償を受けられないかもしれません」
被害者「それは困るので人身事故にします」
(事故処理車と交通課の警官がやってくる)
交通課の警官 「あれ?人身と聞いてたけど当事者揃っているじゃない」
どうやら交通課の警官は保険会社の対応は知っているのですが、派出所の警官は理解していないため実況見分の事故処理車がやってきたという結末です。警察官にもよるのですが、意外と間違った情報を与えるケースは多いですが、事故のことは一般人より警察官の方が詳しいと思いますよね?
実況見分をすると時間もかかるため、大きな事故でない場合は「ケガをしていたら警察提出用診断書を〇〇署に提出してくれれば人身事故になりますから」と言ってくれるケースがほとんどと思いますが、このように当日判断を求められることもあるので、知っておいて損は無いと思います。
人身事故届を出すとどうなるか
ケガをして病院へ「交通事故」として受診すると「警察提出用診断書」を発行してもらえます。病院によって対応は違うのですが、必要か不要か聞かずに自動的に発行する病院もあれば、聞いてくれる病院もあります。
この診断書の発行は無料ではなく費用がかかっているので、治療費と一緒に保険会社へ請求することになります。
もし警察へ提出しない(人身事故にしない)場合は、後日保険会社が原本送付を依頼するので捨てずに保管することをお忘れなく。届を出さないなら領収書と同じなので費用処理が必要となるためです。
指定された警察署に提出するのですが、すべてが受理されるわけではありません。事故状況を見て人身事故にするのが不適切と判断される場合は、受け取りを拒否されます。
警察判断なので詳細はわかりませんが、経験上「この接触でケガをしたと主張するのはおかしい」という状況のケースが多いです。その他、事故から2週間以上経過してからの診断書提出の場合も受け取りを拒否されるケースが多いです。
受理されると実況見分をしていない場合は、日時を指定され事故現場に呼ばれ調書を取られます。警察の事務処理にもよりますが、数日で物件事故が人身事故に切り替わります。
人身事故に切り替わると診断書の「全治〇日」の長さによって処分が決まります。短いもの(例えば全治10日以内)なら起訴はされず「行政処分」となり違反点数と罰金のみとなります。長いもの、重大事故は「略式起訴・起訴」されることになります。
まとめ
人身事故にするということは相手に刑事罰を与えるということであり「刑事事件」とすることです。ケガの損害賠償は「民事賠償」なので、全く別の話になります。
よって「人身事故にしなくても賠償は受けられる」ということを覚えておいてください。
もし事故に遭ってしまったら、保険会社のケガ担当がこのあたりは説明してくれると思います。被害者からすると自分の周りは皆詳しい人と考えがちですが、損害賠償については「保険会社のケガ担当」以外のアドバイスはあてになりません。保険会社でも営業や代理店の知識もあてになりません。警官も賠償に関しては「民事」のため詳しくないと考えてください。
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