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少数派の方が「影響大」?

こんにちは、本多です。お寺の住職、大学での教鞭、それからテラエナジーの創業メンバーとして取締役をつとめています。僕は小学校のとき、海外に住んでました。noteでは、日常で感じたことや考えたことをできるだけ素直に言葉化したいと思います。ゆっくりしたときに読んでもらえたらうれしいです。

安心の根拠は「まわり」?

「多数派が影響を及ぼす」というのは、当たり前のことです。しかし、その理屈だと、説明のつかない現実が立ちはだかります。僕は宗教学を教えていますが、今日誰でも知っているキリスト教や仏教は、最初は少数派グループだったからです。当時は新しい思想でしたから、多くの人にとっては当然受け入れがたいことだったことでしょう。ところがそれが徐々にひろまった。その理由を読み解くには、人間は多数派になぜ流され、少数派はなぜ影響を及ぼすのか?を知る必要があります。

こんな話をするのは、テラエナジーのインスタが最近お休みしているからです。実はインスタは当初想定していたほど大きな影響を及ぼさなかったという理由で、一旦休憩しています。つまり、多数派に影響が及ばないので、ちょっとお休みというわけです。テラエナジーは小さな会社ですので、投稿を続けるのは会社の体力的にもけっこう大変です。何もインスタだけではありません。テラエナジーが発信するSNSや勉強会も、さほど多くの人を集めません。それでも何とか継続しています。

あまり多くの人に影響が及ばないのになぜ続けるのか?そこはちゃんと考えなくてはならない壮大なテーマです。マーケットやポリティックスは多数派に影響を及ぼそうとする。しかし特定の組織が多数派となった以降は、ダイナミックな変化は望めません。政治に変化を求める人は多いが、多数派を動員できた後の政治変化は限定的です。どの組織もそうです。しかも一度大きくなってしまえば、一人では舵取りが効かなくなる。一方、大きな組織に身を置く人は「大きいから大丈夫」と安心し切ってしまう。となれば、さらに変化は起こらない。

まずは「他人が行動しないと自分もしない」という人間心理を見てみましょう。ある実験です。

インタビューの名目で2~3人の学生を部屋に集め、アンケートに記入してもらう。ほどなく、通気口から室内に煙が流れ込んでくる。実は学生のうち本当の実験参加者はひとりだけで、残りはサクラである。サクラの学生は煙が室内に充満しても、とくに気にした様子もなく、平然とアンケートを記入し続ける。この状況のとき、参加者は煙のことを研究者に報告するだろうか?

学生が参加者一人(自分)だけの場合、55%の人が2分以内に煙のことを研究者に報告したが、サクラ一人または二人と一緒にいた場合だと2分以内に報告したのはわずか12%だった。

Latane & Darley, 1968

煙が充満するというのは異常事態です。それにも関わらず、他人が行動しないことでたいした事態ではないと人は考えやすいのです。

大きな船が転覆しようとしている。船体が傾くので、船に乗る人は全員危険だとわかるはずです。ところが、まわりは何もしていない。まわりを見てそれに歩調を合わせて、船から逃げることはしない。逆からいえば、まわりが逃げれば自分も逃げる。

あるいは、会社の経営は赤字で深刻である。しかし、まわりが落ち着きはらっているから自分も何もしない。

安心の根拠が「まわり」(多数派)になっているのです。

多数派の影響は実は表面的

続いて、少数派の影響がどう行使されるか?ということを検討します。

これを理解するには、多数派と少数派では「影響の性質」が異なることを知る必要があります。それらを同じ土俵で扱えば、当然多数派が優勢になります。多数派優勢の理由は「魅力があるから」というよりも、「仲間外れにされたくないから」がほとんどです。さきほどの実験結果からもうかがえます。

アメリカで行われた実験を見てみましょう。

同性愛に関する討論の内容を読ませたうえで、意見を聞く。討論では同性愛者の権利擁護に4人が賛成、1人が反対した。

実験条件は2つある。半分の被験者に対しては、彼らの名前と回答が公表されると告げ、残りは無記名で答えてもらい、彼らの意見は誰にも知らせないと保証する。

結果を見ると、自分の意見が公にされると思った被験者は多数派の主張に賛意を見せ、匿名性が保証された被験者は少数派の意見に近づいた。

Mass & Clark, 1983

匿名であるかないかで答えが異なる。少数意見に同意することを公表するのは躊躇するけれども、内心では受け入れていることがわかります。多数派の影響は表面的な効果に留まるけれども、少数派の影響源は、無意識に至る深い影響なのです。明らかに「影響の性質」が違います。

多数派だと真の影響は行使されない

続いて、少数派の影響は無意識に及ぶことを証明した実験結果を見てみましょう。長いので、実験の流れと結果だけ紹介します。(Moscovici & Personnaz, 1980.  小坂井利晶, 2013)

暗い部屋で白いスクリーンに青色のライトを投影する。投影を止めると、人間の脳には残像色が知覚されます。青色の場合、オレンジ色、緑色の場合、赤色と決まっています。

参加するのは12名。それを2つのグループAとBに分けます。1グループは6人。それぞれのグループが受ける実験は同じです。実験は三段階あります。

第一段階では被験者6人は暗室に入れられ、投影されたスライド色と残像に残った色を無言で解答用紙に記入してもらう。スライドに投影されるのは青色である。つまり、残像色はオレンジ色になる。

第二段階では第一段階を経た被験者が、再度、暗室でスライド色を見る。この時、参加者が順に口頭で見えた色彩を解答する。この際、グループAでは青色であるスライド色を「緑色だ」と間違って答える人が4名いる。実はこの4名はサクラである。残りの人がサクラに影響されるかどうかを確かめるためである。一方グループBには2名のサクラを忍び込ませて、同じように「緑色だ」と言わせる。

さらに第三段階では、第一段階と同じ手順で実験をおこなう。つまり、被験者が本当に見た色がここでわかることになる。

このことで第二段階でサクラの答えに影響されたかどうかがわかります。結果はどうだったでしょう?

グループAでは、被験者のサクラにつられて「そう言われれば、少し緑がかっているような気がする」「今度ははっきり青緑に見える」と答えるなどの影響が見受けられる。一方、グループBではそうした影響がまったく見られません。ここまではおわかりのとおりです。何色を見たかという色彩判断において、多数派の影響は当人の意識に及ぶ。

ところが残像色についてはどうでしょう?残像色は当人の無意識に潜在する色になります。つまり、当人の中ではっきりと「この色だ」と自覚された色になる。

サクラが多数派のグループAではオレンジ色(青色の捕食)の残像を知覚しますが、サクラが少数派のグループBでは反対に、被験者は何と赤色(緑色の捕色)の残像を見たと言い出すのです。多数派影響源の場合にはほとんど影響効果が表れないのに、少数派影響源の場合には顕著な影響効果が出るのです。

影響源が少数派の場合、多数派のような意識的な知覚変化は起きないことは簡単にわかります。ところが、無意識の次元では反対に、多数派だと真の影響は行使されないのです。

多数派のサクラは意識的な影響を起こすが、少数派のサクラは無意識のレベルに影響を及ぼす。無意識への影響というのは、自分では「どうしようもない」ことです。ですから、自分が無意識に影響されていても、その事実に気付きません。しかもそれは少数派の影響においてより顕著だということです。

少数派の影響は、時間を経て行使される

多数派の影響は「その場で影響が行使される」わけですから、すぐに効果を表します。一方、少数派の影響は時間を経て行使されます。少数派の場合はすぐに効果は現れないことが多い。しかし、時間の経過とともに徐々に影響効果が浸透してゆく。だからこそ、不可避的にその人に影響を及ぼし、当人の価値や行動を規定する。

そういえば、こんなことを僕は経験しました。僕の同級生の多くは宗教に関心がない。しかし、聞いてみると「祖父母の家にいったら仏壇の前で手を合わせる」「宗教的なことについて家では時に話したりもする」という同級生もいる。しかし、表だって宗教的な言葉を発することはまずありません。そんな友人が祖父を亡くした後での出来事です。

友人が祖父を亡くした。後日、その友人と2人で飲みに出かけた。祖父との別れを言葉にしながらふりかえってる。ひとしきり思い出を話した後、友人が不意に「そうだよな、この世は諸行無常だからな・・・」と言った。本人も自分の口から出た言葉にその場の空気が変わる。

若い頃、祖父から聞いた言葉が、時間を超えて不意に出てきたのです。祖父は熱心な仏教徒でした。その祖父が「この世は諸行無常」「形あるものは必ずなくなる」とよく言っていた。その言葉は、社会という多数派が形成する価値には馴染まない言葉、少数派の言葉です。ところがその少数派の影響が、ずいぶん後になって友人をとおして影響を行使したのです。

少数派の影響力は、時間が経過してから行使されます。影響源に出会った時は「それは違う」「その論理は社会で通用しない」と反発しても、無意識にそれは潜在していたりするのです。

「年をとると親に似てくる」と言われたりしますが、若い頃に仲の良くなかった親子関係でも、子供が年を重ねると親のしぐさや発言内容が似てくることがある。親子関係の良し悪しは別として、僕の場合、最近クシャミの仕方が父親によく似てきたなと感じます。

少数派は長い年月を経て影響を行使します。これは「まわりに合わせる」とはまったく異なる影響の質です。さらには無意識に及んでいますから、年月を経て少数派の影響が行使されたときには深い頷きがともないます。少数派による影響は、そのくらい人間の深いところで当人を規定する。少数派から受けた影響の方が、長期的に見れば影響力は大きかったりするのです。

では最後に、少数派による影響がなぜこれほど甚大なのでしょう?

それは、影響源が一貫性をもって意見や判断を主張し続けるからです。ですから、権力や権威を持たずとも影響は行使できる。大事なことは、影響源の主張や判断が一貫したものであるかどうかということになる。

テラエナジーは小さな会社です。少数派だからこそ、こういう捉え方を根っこのところで大事にしたい。少数派として続けることには、大事なメッセージが隠されていそうです。

本多 真成(ほんだ しんじょう)
1979年生まれ。大阪八尾市の恵光寺住職(浄土真宗本願寺派)。龍谷大学大学院を修了し、私立大学の客員教授をつとめる。院生時代は「環境問題と仏教」の思想史研究。専門は宗教学。TERAEnergy取締役。

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