ハワイ島での記憶、夜の海

あれは今から数年前、別れたショックを少しでも癒せたらと思い、自由人作家の高橋歩が主催するハワイ島ツアーに申し込んだ。別れなければ絶対に申し込むことはなかったと思う。

当時は40〜50万はわりと大金で、振り込むときは正直ビクビクしていた。でも変わりたかった。ハワイ島に行くことで何か新しいキッカケをつかめる気がしたのだ。

日本人がよく行くのはオアフ島だが、僕らが向かったのはハワイ島。大自然しかない。いや、大自然があると言った方がいいのだろうか。僕は当日ミスったら嫌だなと思い、数日間だけ前乗りをした。レンタカー屋で莫大な額を請求されるなどの詐欺まがいなこともあったが、左ハンドル右車線の道をなんとか自力で運転し、エアビで予約した家に到着した。ホストファミリーと最低限の会話を済ませてチェックイン。それからテンションが上がり、ハワイ島を駆け巡った。窓を開けると風が無限に入り込んできた。

壮大な海にも行ったし、謎のコンビニ的なお店や、現地のデニーズにも行った。時間が経つのを待っていた。そろそろツアーが始まる。憧れるの高橋歩にも会えると思うとなんだか現実味がなかった。

高橋歩は、「やぁ、元気？」と友達のようなノリで登場した。高橋歩は本当に不思議な人で、彼がそこにいるだけで場の雰囲気が変わってしまう。なんというか、高橋歩色になってしまうのだ。そのツアーには日本から女性5,6人が参加して、僕だけが男だった。わざわざみんな面倒な手続きを経てハワイ島にまで来るような人間たちだ。それぞれ何かを抱えているに違いない、と思った。

それからは非現実的な日々が流れた。笑ったし泣いた。イルカ500匹と泳いだり、絶景カフェで昼からお酒を飲んだり、高橋歩を中心に特別な時間が蓄積されていった。参加者のみんなも本当に素晴らしい人たちだった。直感的に好きだなと思えるメンバーたち。一期一会だなと思った。

夜中、海を前に僕らは大の字で寝た。大きな月が妙に白く輝いていた。波の音と風の音が混ざり合い、なんだか夢心地だったと思う。ふと、高橋歩が服のまま海にダイブした。それをみて、一番静かで一番そういうことをしなそうな「さっちゃん」という女性が声をあげながらダイブした。横顔が力強かった。

結局、みんなも僕も1人ずつ夜の海にダイブして、最後はブルブル震えながらワゴン車で帰った。全身濡れていて気持ち悪いはずなのになぜか心地よくて、どこか笑えてきた。その時、さっちゃんはどんな表情をしていただろうか。

あれからもうだいぶ時が経った。みんなとも全然会っていないが、当時のLINEグループはそのままあるし、きっと誰も抜けないのだと思う。それは御守りみたいなもので、LINEグループを眺めるだけで心のエネルギーが湧いてくるのだ。

あのハワイ島ツアーで僕は全てを乗り越えることはできなかった。しかし希望をもらった。愛をもらった。ありがとうとしか言うことがないのだ。