フランスのタクシーステーション

フランス、イギリス、ベルギー、イタリアなどへ行く直前、僕はかなり憂鬱だった。

その時はたしか日本、西新宿のホテルにしばらく滞在していたのだが、直近でいろいろなことが起きすぎた。

まず元スタッフの子から懇願された貸したお金が返ってこないことが判明した。その人のことは人として好きだったし、まぁ今でも好きなのだが、だから飛ばれた時には結構ショックだった。あぁ、海外に飛び立つ前にブルーな気持ちになるなぁと思っていた。

加えて、信頼していた先輩に授けた300万が多分返ってこないことも判明した。いわゆるオイシイ投資案件はほとんどが嘘だ、と今なら思う。さらに、FX系のEA(自動売買)で一晩で100万以上を溶かす。合計でいくらかもう分からないが、短期で数百万が消えている。

また、ミラートレードと言われるやつにも手を出していたのだが、これも数十万が返ってこない事態になった。おそらくポンジスキームだったんだろうなとフラットに俯瞰できる今ならわかる。

おまけに、その西新宿のホテルでデリヘル詐欺というものにあった。僕はゲイなのでデリヘルには無縁だが、その時はノンケの連れ(TikToker)と一緒にいて、深夜のノリで3Pができるデリヘルを探し、ホテルに呼ぼうとした。

僕はプレイに参加せず、そばで傍観していようと思った。結果、10万くらい詐欺られたのちに、HPに掲載されていた美女ではなく、120kgくらいの女性が到来した。全身真っ赤の服で、目がうつろだった。こんなこと言っちゃ悪いが、クスリでもやってるんじゃないかと思った。

短期間で色々なことが重なり、半ば傷心気味で国外に旅立った。フランス、イギリス、ベルギー、イタリア、すべて素晴らしい場所だった。世界遺産に触れては写真を撮った。世界で評価されているような五つ星ホテルにも泊まった。

たしかフランスに宿泊していた時の深夜、僕はいつまでもタクシーを捕まえられず、このまま朝まで帰れないんじゃないかと不安に襲われた。日本にいる間にタクシーのアプリをインストールしなかったせいで、フランスやイタリアではインストールできず、自力で街中で捕まえるしかなかった。

その日、ホテルからはタクシーを使ってやや遠くのゲイサウナに向かったのだが、帰りのことを全く考えていなかった。なんとかタクシーステーションには到着したものの、待てど待てどタクシーは来ない。

やがて雨が降り出した。当然傘なんて持っていない。近くにコインランドリーがあって、おばちゃんが軒の下に立っていた。僕は「タクシーが来る間、しばらくここにいていいですか?」と英語で聞こうとしたが、ペラペラと喋ることができず、結局何も話しかけないまま路上で待ち続けた。

やがて痺れを切らし、一般車に「チップをあげるからホテルバルザックまで送ってほしい」と交渉しようとした。スマホの翻訳機能を使い、その画面を運転手に見せるわけだ。しかしまた、話しかける勇気と異国で他人の車に乗り込む勇気がなく、脳内の妄想のまま終わった。現実の僕は路上に立ち、雨に打たれながらタクシーが来るのを待っていた。

もう何分待ったか分からない。歩いて帰った方が早かったかもしれない。記憶は曖昧だが、あれからタクシーがやってきて、僕は興奮を抑えながら乗り込んだ。勝った、と思った。勝利。終わりよければすべて良しという言葉がある。でも、誰に勝ったというんだろう?誰に勝ち続ければいいんだろう?とも思った。

結局、現実世界の僕はいつまでもビビりで、異国に来ても本質は変わらないんだなと思った。タクシーの中で日本で起きたことを思い出す。遠い昔話のように感じれなかった。全てはつい最近起きたことだ。「まぁ仕方ないよね」とも思えなかった。完全に引きずっていた。心はブルーで、どんな世界遺産を見てもあまり弾まなかった。気づいたらタクシーはホテルに着いていた。安堵が溢れてきた。雨はやんでいたのか、降り続けていたのか、もう全く覚えていない。


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