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夏の灯籠流し



私の地元にはお盆の最後の日に、仏様の魂を見送る灯籠流しが行われる。

子供の頃は、何をやっているのか、どんな意味があるのか、おぼろげにしかわからなかった。


灯籠流しは、海に面した大きな公園が会場に。
しかも、チラホラと屋台も出ている。

追い討ちに夏休み中にある行事とあって、子供の私はちょっとしたお祭り感覚だった。

「てらちゃーん、こっちだよー!」

おばあちゃんの兄弟も、灯籠流しには駆けつける。
おばあちゃんは6人兄弟なので、その家族も集まると大変な人数。

私はおばちゃんと、おばちゃんの妹のおばちゃん2人と一緒に公園の中を移動した。


公園の入り口を入ると、たくさんの屋台。

「たくさん人が並んでるねー。
 帰りにでこまん買ってかえらいやい。」

おばあちゃんとおばちゃんたちが話している。

でこまんは、私の地元にしたかないお饅頭。
七福神さんたちを象った人形焼き。
あんこも何も入ってないから、シンプルで食べやすい。

灯籠流しに七福神。
お盆の最終日にはもってこい。

屋台が終わると、灯籠流しの受付のテントがある。

「てらちゃん、受付してくるけん。
 ここで待っとってね。」

おばあちゃんはそう言うと、おばちゃんたちと受付の列に並ぶ。
受付で申し込みをすると、海の向こう側から灯籠を流してもらえ、お坊さんがお見送りする仏様の戒名を読み上げてくれるのだ。 

待ち時間に退屈した私は、2つの世界の境界にいるみたいだった。

受付のすぐ先には、数年メートルはあるロウソクと線香をお供えする台。

さっきまでの屋台が並ぶ道の活気は薄れ、暗闇のロウソクと線香が仏様を見送る準備をしている。

「てらちゃん、お待たせ。
 これでおじいさんとおばあさんのお見送りができるわあ。」

受付を済ませたおばちゃんは、ホッとした表情だけど、声はどこか寂しそうだった。

ロウソクと線香を超えると、10段ほどの階段。

その階段の向こうには、灯籠を見つめるたくさんの人たちが見える。

そして、階段を登り海へ向かって少し進むと、真っ暗な海にオレンジ色の光が散らばっている。

「あの光が灯籠?」

「そうだよ。
 灯籠は仏様の船だけんねえ。」

私が聞くと、おばあちゃんはやっぱりさみしそうに答えた。

「どこに行くの?」

「お盆に帰ってきた仏様が、お空に帰っていくんだがん」

子供の私にはぼんやりとしか伝わらず、ふーん…。と流れる灯籠を眺めていた。

「あ〜あ、またお別れかあ。
 次に会えるのは、来年だわあ。」

おばあちゃんとおばちゃんたちは、ひいおじいちゃんとひいおばあちゃんの懐かしい思い出を語り合っていた。

いつも優しい私のおばあちゃんが、姉妹で戯れる子供のように話している様子は、おばあちゃんも昔は子供だったことに気付かせてくれる。

いつかおばあちゃんやおじいちゃん、両親もあの灯籠に乗る日がくるのかと思うと、胸がザワザワした。

おばあちゃんのさみしいそうな表情の意味が少しだけわかった小学生の夏休み。

もう会えなくなってしまった仏様に、1年に1度会えるお盆。

大切な仏様をお見送りする灯籠流し。

もう会えないあの人を思う気持ちが、少しだけ報われる日なのかもしれない。

それでも、向こう岸から仕切りに流れてくる灯籠は、夜の海とは思えない幻想的な彩りだった。


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