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バレーボール男子日本代表~強さの源は、思考の共有と浸透(Week1) #VNL2023

(写真FIVB)

バレーボールネーションズリーグ2023
日本代表男子登録選手

FIVBバレーボールネーションズリーグ(Volleyball Nations League)は、FIVB(国際バレーボール連盟)が2018年から開催しているバレーボール国際大会です。
かつての国際大会、男子の「バレーボール・ワールドリーグ」と女子の「バレーボール・ワールドグランプリ」を発展的に統合した大会となります。
毎年行われ、男女共通の競技方式で、男女それぞれ16チームが参加します。2023年大会では、各チームが12試合を戦い、その結果に基づいて順位を決定します。予選ラウンドでファイナルラウンドの二段階方式で行われ、ファイナルラウンドには予選ラウンド上位8チームが出場、ノックアウト方式のトーナメント戦で優勝チームが決まります。VNLは、バレーボールのトッププレイヤーが集まり、高いレベルの競技が展開される国際大会です。また、VNLはバレーボールの普及と発展を促進するための重要なプラットフォームにもなっています。


みなさんに観てほしい!強くなってきたバレーボール日本代表男子チーム。ワクワクします!

FIVBネーションズリーグ2023、男子は、WEEK1を終えて日本が単独首位。この大会での開幕4連勝はワールドリーグ時代から含めて史上初なのだそうです。スケジュールや地理的要因から、フルメンバーではない、若手や育成選手中心で編成するチームもあるとはいえ、それでも国際的な経験豊富な強豪チームからの勝利は、今の日本代表にとっては、貴重な経験と財産になること間違いなしではないでしょうか?

日本のバレーボールを・・・長年ウォッチしてきた人も、ちょっと前から観るようになった人も、そして今から出会うであろう人たちも・・・これからのバレーボール日本代表男子、さらには代表選手を輩出しているバレーボール国内リーグであるVリーグの試合を是非たくさんの人に観て楽しんでもらいたいです。

みんなで、これからの日本のバレーボールを観て応援して楽しみ盛り上がりましょう!

平成期の日本のバレーボールは、国際大会においてなかなか結果が出せず、暗く長いトンネルの中にあった状態とも言えました。結果に比して、バレーボールのゲーム内容も海外チーム、海外選手からは大きく溝を開けられ、観る側にとっても力の差が大きく感じられました。しかし、東京2020オリンピックとそれに向かう強化時期を含めた、この4、5年の間で、日本の男子バレーは飛躍的な進化を遂げてきています。東京2020オリンピックでは、日本男子バレーとしては29年ぶりの五輪8強で7位になり、そして今回のネーションズリーグの4連勝。東京2020オリンピック金メダルであるフランス代表は、主力メンバーがそろっていたわけではないですが、それでも終始対等にさらに安定的に力を発揮した日本が勝利するなどの活躍が続いています。

今こそ、多くの人々に、日本のバレーボールを観てほしい。そして日本だけでなく世界のバレーボールを楽しんでほしい。選手個人へのフォーカスだけでなく、チームの魅力を観てほしい。そう願います。

平成期までの、バレーボール男子日本代表と、今の日本代表は何が違うのか。なぜ現在、日本は世界と対等に戦えているのか?個人的には、以下のポイント(視点)でみなさんに注目していただきたいです。

・ボールがノータッチでフロアに落ちない確かなディフェンス
  
⇒トータルディフェンスとよばれている組織的機能の実現 
・個人と組織双方の力を兼ね備えつつある堅実なブロック
  
⇒世界のブロックシステムの定着と世界の戦術の標準装備
・多彩な攻撃と迫力満点の決定力
  
⇒ラリー中、どこからでもパワフルなスパイクを叩き込む
・何かを起こしてくれる予感があるサーブ
  
⇒サーブは、「ゲームチェンジャー」。多彩なサーブ。
・出る選手みんなが活躍する頼もしい面々
  
⇒それぞれの個性やキャラが光るプレーに注目

そして、みなさんには、日本の男子バレーが、30年間以上の停滞を乗り越え、まさに今、世界に向かって羽ばたこうとしています。ぜひ、みなさんで日本のバレーボールを、そして世界のバレーボールの魅力と醍醐味をウォッチしていただければと思います。


強さの源は・・・世界の潮流に乗っていること

ここ4~5年間の間で、バレーボール男子日本代表のプレーや戦い方が進化してることはみなさんもお分かりのことと思います。今回のネーションズリーグでも、海外経験を通してレベルアップした石川選手、西田選手、そして髙橋藍選手や宮浦選手などが活躍するだけではなく、コートに立つ選手すべてが活躍しています。

まずはサーブとブロックに注目しよう

日本代表のバレーボールが世界と互角に戦えるようになってきている要因はいくつもあり複合的なものとなっていますが、サーブとブロックに注目するとよいと思います。
かつては、海外勢の強烈なサーブに日本が失点を重ねたり、逆に日本のサーブがいとも簡単にボールコントロールされたりしていました。しかし、今の日本代表は西田選手のパワーサーブはもちろんのこと、強弱の変化や打ち方にハイブリッドをもたせたサーブや、これまでサーブ力が不足気味だったMB(ミドルブロッカー)陣のサーブでも得点や効果が期待できるようになってきました。
ブロックでは、かつては海外勢のオフェンスシステムに日本が対応できず、ブロックの組織性がばらばらに寸断され、相手スパイクの餌食になっていました。しかし、現在の日本代表は、リードブロックをベースに、データを生かしたポジショニングやゾーンの分担やマークを駆使して海外勢のシステマチックなブロックに近づいています。

分業特化システムから、オールラウンド・ハイスペック勝負へ

現代バレーは、コート上の6人の選手の攻守の分業における明確なボーダーがなくなってきました。一昔前ですと、レセプションなどの守備から外れて攻撃に特化する選手やポジションの役割分担などがありましたが、今はサーブやオフェンスのオプションが多様化している中、レセプションやディグに加わる人員が増えてきています。つまり、みんなが守備やセット(トス)できるような、オールラウンド性が求められてきており、得意不得意の傾向がある選手がコート上にいる分だけ、不利な状況になってしまうわけです。

チームの翼の勝負から、チームの背骨の勝負へ・・・

バレーボールのオフェンス(スパイク)では、アウトサイドやオポジットなどレフト・ライトの両翼からの打数や得点が多くなる傾向が強い中、近年はMB(ミドルブロッカー)からのスパイクや、コート中央部からのバックアタックなどの中央攻撃も重要な得点源となってきています。
特にMBは、クイック攻撃がラリーのフィニッシュや1つのセットのクライマックスなどで発動することが珍しくなくなりました。トータルディフェンスの起点ともなるブロックシステムにおける中心でもあり、1つのゲームを崩すことなく機能させていくうえでは、MBの粘り強いブロックも重要となります。
また、近年ではショートサーブを用いた相手オフェンスの分断をねらうため、MBがショートサーブのターゲットになってきました。それゆえ、現在はMBがレセプションすることも珍しくなくなり、以前のバレーボールよりもMBの選手の攻守における役割の重みが増してきています。
OH(アウトサイドヒッター)やOP(オポジット)の機能は、当然のこととして維持しながら、これからの勝敗の分かれ道は、MBの選手がいかに攻守、サーブでチームに貢献するかが試金石になってきています。

新戦力の育成の機会もしっかり見据えながら

FIVBバレーボールネーションズリーグは、毎年開催されている国際大会です。バレーボールにおいて、皆が目指す世界のビッグタイトルは、4年に一度のオリンピックとなっています。他にも「4年に一度の世界一決定戦」がありますが、どの国も「オリンピック」を見据えた育成や強化のプランを構築し、ピリオダイゼーションを図りながら代表強化をしているはずです。

バレーボール日本代表は、なかなか国際大会における、「期分け」や「ピリオダイゼーション」が見えにくかったと個人的には感じていました。各種国際大会では、ロスタ―やスターティングメンバーが固定されていることが多かったり、新旧や若手ベテランの起用にフレキシブルさが欠けていたことが多かったように思います。一部のベテランやスター選手に依存する傾向も強かったのではないでしょうか?
バレーボール日本代表の今は、若い選手だけではなく、これまでよりも出場機会が増えている新しい顔ぶれが出始めています。お馴染みの選手だけではなく、高橋健太郎選手、宮浦健人選手、大学生の甲斐優斗選手・・・その他楽しみな選手がたくさんいて、コート上での活躍が楽しみです。 

選手の発掘よりも育成を。選抜型短期集中の強化以上に、長期計画に基づく下のカテゴリを巻き込んだ幅広い育成を。それが、多様な選手の登場につながり、チーム強化は持続可能なものとなっていくはずです。


選手層の厚さは、「誰が出ても活躍できる」こと。数ではなく、思考や判断の構造的な仕組みの共有と浸透

今回のネーションズリーグでの日本代表男子チームで印象的なのは、出場する選手みんなが活躍しているという点です。新しい戦力として高橋選手、宮浦選手などの活躍も目覚ましく、セッターが変わってもゲームが崩れず、バレーボールが機能しています。

個人技の概念が変わったバレーボール日本代表男子

チームスポーツにおいて、個々人の能力や特性をどのように組み込み生かすのか。強みを最大限生かし、弱点は補い合う・・・これも鉄則の一つであるかもしれません。ただ、先述したように、これまでの日本のバレーボールは分業という概念がベースで、選手個人をパズルのピースのようはめていくチーム編成が主流だったように思います。ですから、コート上にいる選手の顔ぶれによって戦い方やパフォーマンスが大きく変わることも珍しくなかったわけです。

しかし、思うに2021年の東京2020オリンピックの前後の日本代表男子チームは、当時の中垣内監督のマネジメントのもと、名将フィリップ・ブランをスタッフに招聘し、海外経験のある選手のエネルギーも取り入れながら、チームのアップデートをはかってきました。さらには代表の下に続くカテゴリとの連携もはかり、目指すバレーボールの戦い方や求められるプレー技術の共有をはかってきたわけです。多くの人材と共有するためには、主観的な感覚に依存したものではなく、構造的なものとして合理的に示すことが必要だったわけで、世界の知見を積極的に導入したことで、日本の男子バレーボールの進化を一気に進めた感じがします。

個に依存する、スペシャルな個人の登場を待つチーム作りから、現代バレーの現状把握から求められるゲームの戦い方や考え方を明らかにし、それを成立させるために必要な技術や知識を、拡散し共有していくことで、それらを取り入れれば、誰が出ても目指すバレーボールの戦い方を具現化できるようになる。
これが、今、バレーボール男子日本代表チームが、少しずつ成果を出しつつあるのではないでしょうか。


バレーボール日本代表男子の可能性はまだまだこれでは終わらない

とはいえ、先日勝利したフランス代表戦も、フランスはフルメンバーには遠く、世界ランクが日本よりも上のチームとの力の差も縮まってるとはいえ、まだ楽観できない差があるように思います。

・リベロからオーバーハンドによるセットの供給で、攻撃(スパイク)の数的優位を生み出す。

・利き手による得意不得意の溝を埋め、ローテーションの弱点を埋める

・サーブによる攻め方の多様性

・レフティ(サウスポー)の台頭と順応化

・ブロックシステムの試行錯誤と探究の継続

・ハイセットの能力とスパイク決定力の向上

ブロックシステムやサーブ戦術、トータルディフェンスの練度など、たくさんの要素が、東京2020オリンピック以降も向上、進化しているように思います。ディフェンスでは、ブロックタッチをしているか、フロアディフェンスのディガーがボールタッチしているかを維持し、ノータッチでフロアにボールを落とすことが減っています。ハイブリッドサーブやフェイクセットも当たり前の技術として定着しています。
 一方では、それでもそれぞれの精度や熟練度が足りなかったり、選手のオールラウンドなスキルにまだ凸凹がありミスやエラーの発生につながるなどの課題もあるように思います。

 とにもかくにも、これからもバレーボール男子日本代表のこれからの活躍が楽しみだけではなく、国際大会での勝利や海外勢を相手に対等に戦えるエキサイティングで面白い試合展開をみなさんに楽しんでいただきたいです。


個人的に思う「ニッポン・オリジナル」

日本という国や国民性みたいなものは、ともすると、アップデートやイノベーションが起きるまでには時間がかかってしまう傾向が強いのかもしれません。しかし、愚直で勤勉で、規律正しいと称される日本人の特性を考えると、きっかけや糸口を得た後の進化は、どこよりも目覚ましく急速なものになっていくのだと感じています。それが、今のバレーボール男子日本代表、そして国内リーグであるVリーグ男子のバレーボールなのだと感じています。

かつての男子日本代表は長きにわたって、「ニッポン・オリジナル」=「海外と同じことをしては勝てない」という思考をベースに、世界のトレンドとは一線を画した技術や戦い方を追い求めていました。しかし、その世界のトレンドとかけ離れたコンセプトは、ゲームでは対戦相手にはフィットせず、最後までその成果は出なかったと言えます。
しかし、この4、5年という数年間が、30年間以上続いていた停滞を打ち破ったのは、実は「海外と同じことをしては勝てない」に答えがあったわけではなく、「海外がやっていることを知り、取り入れてからの勝負」がキー(鍵)だったということです。それを体現したのが、2019年のワールドカップであり、2021年に行われた東京2020オリンピックであり、今のネーションズリーグの男子日本代表の姿になっています。

世界をまたにかける挑戦が日本のバレーボールを突き動かしていく・・・柳田選手が火をつけ、石川選手や西田選手がフロンティアとなり、髙橋藍選手や宮浦選手などが続々と羽ばたいていく。

「やることは、世界と同じ。そのやり方(アプローチ)はジャパンスタイルで。」

伝統的な日本型バレーボール概念の負の側面の呪縛から解き放たれ、水を得た魚のごとく、現代バレーボールの世界の潮流に乗って、生き生きと勇猛果敢に、そして楽しそうにプレーする日本の選手の姿があるように見えます。
技術や戦術は、世界(対戦相手)と同じようなプレースタイルやシステムをしている中に、愚直で勤勉で、チームのためには自己犠牲も厭わない。チームの輪・和を大事にする、そんな選手像やチームスタイルは、確かなテクニックと感情に流されない冷静な思考判断を維持することにつながっているはずです。そこから試行錯誤して生み出されていく、バレーボール男子日本代表の戦い方は、今後の立派な「ニッポン・オリジナル」になっていき、何かが生まれてくるのだろうと期待しています。

フィリップ・ブラン監督をはじめ、コーチやアナリスト、他のスタッフの探究と研究、献身的なサポートも、忘れてはいけませんね。そして、会場を盛り上げる演出や裏方の方々も、日本のバレーボールを世界へと押し上げつつあることに敬意を表したいです。

(2023年)

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