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再発防止につながる!?ハムストリング肉離れに対するL-protocolとは?

陸上選手やサッカー選手に多く発症し、再発率の高いハムストリング肉離れ。その原因に短すぎる復帰期間不完全な状態での競技復帰など以前の記事でまとめました。

こちらの記事では、再発防止につながる良い状態についての定義やその確認方法についてまとめています。ご興味ある方はぜひご覧ください!(ためになったと感じたらスキもください!笑)

怪我した直後のキズの程度(深さ)によって復帰までに要する期間が異なりますが、それまでに整えておきたい状態は以下のように定義しました。

スプリント動作では大きなストレスに晒されるハムストリング
そのストレスに耐えるためにもさまざまな負荷に耐えられる状態に戻す必要がある

今回のnoteでは、この状態に導くために必要なリハビリについてその一例をご紹介していきたいと思います。


|ハムストリング肉離れに対するリハビリのセオリー

スプリント動作においてハムストリングはlate swing phase足を大きく振り出す時に普段以上に引き伸ばされるといわれています。

late swing phaseでのハムストリング(大腿二頭筋長頭・半膜様筋はんまくようきん半腱様筋はんけんようきん)の伸張率は以下の通りといわれています。

・大腿二頭筋長頭:110%
半膜様筋:107.5%
半腱様筋:108.2%

参考文献「予防に導くスポーツ整形外科」

このような背景があるため、ハムストリングの柔軟性改善は必須といわれています。

しかし、それと同等に重要となるのが筋力の改善です。
これは、効率よく走るために必要な体の使い方にハムストリングの筋力が欠かせないからです。

スプリント動作においてハムストリングはそれぞれ異なる役割を担っていると考えられています。

適切な着地位置でスプリントするためには半腱様筋の機能が欠かせない
大腿二頭筋は着地時に股関節や膝関節を固定(安定)させることでスムーズな重心移動に貢献する

スプリントスピードを速めるためには、適切な動作を行う必要があります。そのためには、ハムストリングの機能は欠かせないものであり、肉離れ後に引き起こる柔軟性や筋力の低下は必ず改善させなければなりません。

|ただ単純に力が入るようになればいいわけではない

筋肉の力の入り方はさまざまなパターンがあります。
肉離れへのリハビリでキーワードとなるのが求心性収縮きゅうしんせいしゅうしゅく遠心性収縮えんしんせいしゅうしゅくと呼ばれるパターンです。

遠心性収縮は過度な関節運動を制御する役割を担う
スプリント動作において体重が加わる際に股関節・膝関節の過剰な動きを制御するため働く

遠心性収縮の力以上の物理的な力(体重や遠心力など)が加わることで肉離れにつながるといわれています。
スプリント動作の中では、late swing phaseやearly stance phase前脚が着地する時でハムストリングは遠心性収縮による筋活動をしていると考えられています。

前述したようにlate swing phaseでは半腱様筋の遠心性収縮によって足が大きく前方へ振り出されないようコントロールされています。
また、early stance phaseでは大腿二頭筋の遠心性収縮によって着地時に足を固定してスムーズな重心移動につなげています。

このように効率的なスプリントフォームにはハムストリングの遠心性収縮が欠かせないため、肉離れから競技復帰を目指すリハビリにおいて遠心性収縮に対するトレーニングは必須項目となります。

|復帰までの期間短縮・再受傷率の軽減につながるトレーニングL-protocolとは

「痛みが消えれば力も入りやすくなるっしょ」と考えている人も少なくないですが、これは安直に考えすぎなので考え直しましょう。

遠心性収縮の力は遠心性収縮をするようなトレーニングを行うことで初めて鍛えられます。患部の状態に応じて復帰までにしっかりとトレーニングしていく必要があります!

今回紹介する「L-protocolエルプロトコル」は、ハムストリングの柔軟性や遠心性収縮能力にフォーカスを当てたトレーニング3種目で構成されています。
海外の文献では、このL-protocolにそってトレーニングすることで競技復帰までの期間短縮や再発率の軽減に貢献すると報告しています。

参考文献「Acute hamstring injuries in Swedish elite football: a prospective randomised controlled clinical trial comparing two rehabilitation protocols」

前述したようにL-protocolはハムストリング柔軟性改善・遠心性収縮能力改善・動的安定性改善を目的に「The Extenderエクステンダー」「The Diverダイバー」「The Gliderグライダー」と呼ばれる3種目のトレーニングで構成されています。

|The Extender

ハムストリングの柔軟性を改善するためのトレーニング
痛みの状態を確認しながらゆっくりと動かしていきます。経過をみて徐々に運動速度をあげたり、反復回数を増やしていき柔軟性改善を図ります。

|The Diver

ハムストリングの筋力強化と体幹安定性向上のためのトレーニング
ハムストリングへの負担軽減を目的に体幹機能への介入を行います。

前にかがむ際、猫背にならないよう一直線に体幹を保ち、両腕を頭上へ伸ばしながら足を可能な限り後方へ伸ばしましょう。また、この際支持側のひざは伸ばし切るのではなく軽く曲げた状態で姿勢を保つようにして、ハムストリングの筋力と体幹の安定性を改善させます。

|The Glider

ハムストリングの遠心性収縮による筋力の向上を目的としたトレーニング
スプリント動作時に求められるハムストリングの遠心性収縮能力に対して介入していきます。

滑りやすい床の上もしくは乾いたタオルの上に片脚を乗せて立つ。壁やベッドなど固定されたところで支えながら、痛みのない足をゆっくりと後方へ伸ばしていきます。この時、前足に全体重を乗せ痛みの出ない範囲で動かしましょう。
元に戻る時は足に力を入れず、支えている手の力で戻るようにしましょう!
状態に応じて伸ばす距離とスピードを変化させ、よりハムストリングの遠心性収縮による筋力を強化していきましょう!

実際に行う際は、運動の難易度やハムストリングへの負担量を考慮するとThe Extender→The Glider→The Diverの順が好ましいと考えています。
痛みがなくできる範囲からゆっくりと行っていきましょう!

|まとめ

今回は、再発防止を考慮しながらハムストリング肉離れにリハビリ内容の一例(L-protocol)をご紹介しました。

スプリント動作におけるハムストリングは、接地位置のコントロールをしてオーバーストライドを防いだり、下半身を固定(安定化)させてスムーズな重心移動を実現させるために機能していると考えられています。

そのどれもが半腱様筋や大腿二頭筋の遠心性収縮によって行われており、肉離れから復帰する上で遠心性収縮を取り入れたL-protocolのようなトレーニングが非常に有効であると考えられています。

しかし、ハムストリング肉離れに対するリハビリに関する研究は全世界においてまだ少なく、明確な科学的根拠が明文化されていないのが正直な現状です。今回紹介した内容はあくまでも手段の一例であるためこれが全てではないと言うことを読者の皆さんには理解していただきたいです。

L-protocolのような遠心性収縮トレーニングはそのほかにもさまざまあります。今後どこかのタイミングで紹介できたらと思います。

最後に重要なのでもう一度。
ハムストリング肉離れは再発の多い怪我です。
痛みが消えたからオッケー!もう全力でサッカーやるわ!」と考えず、リハビリの段階から再発防止を念頭に置いて遠心性収縮による筋力強化を図るトレーニングを(状態に応じながら)積極的に実施していきましょう!

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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