見出し画像

肉離れの再発防止-サッカー選手のハムストリング肉離れ-

サッカー選手においてハムストリング肉離れは決して少なくないケガの一つであると思います。

そして、このケガは非常に再発率が高いとも言われています。

初回受傷時の筋の修復状態などが関係しているとされていますが、前シーズンにハムストリングス肉離れを発症した選手は11.6倍再発する確率が上昇すると言われています。

しかし、実際の現場では競技復帰のために必要な患部の諸条件が整っていない状態で復帰しようとするケースも少なくありません。

再発率の高いケガだからこそ、適切なフローでアプローチをおこない、競技復帰に必要な身体機能へ整えていき、段階的に復帰していく必要があります。

肉離れからの競技復帰 (17)

今回のnoteでは、上図のようにハムストリング肉離れのから段階的に競技復帰するためのリハビリテーションの流れをご紹介したいと思います。

中でもジョギング開始までについてを中心にお話ししていきたいと思います。

あくまでも一つの考え方ですので、参考までにしていただけたらと思います。

ハムストリング肉離れの病態

ハムストリング肉離れの簡単な概要は以下の記事をご覧ください。

ハムストリング肉離れ重症度判定(JISS分類)|

肉離れの重症度判定とそれによる予後予測は従来MRIを用いた奥脇の分類が提唱されています。

<奥脇の分類と予後予測>
タイプⅠ|
筋線維部(筋膜・筋間を含む)の損傷。
理学所見に基づいて通常2週以内に再発せずに復帰可能。
タイプⅡ|
腱膜部の損傷。
6-8週間後にMRIで腱膜が十分修復されているか確認してからスプリント系のトレーニングを行うことで再発を防止できる。
タイプⅢ|
坐骨付着部または腓骨・脛骨付着部の損傷。
ハイアスリートでは受傷後2週以内に手術的治療が必要な例があるので、すみやかに MRIで診断する必要がある。
(引用:仁賀定雄「ハムストリング肉離れ」)

さらに奥脇は、MRIにて横断像を撮影し、腱膜のダメージの程度で損傷度(グレード)分類を追加してJISS分類を提唱しています。

<JISS分類>
1度|
わずかな損傷(腱膜の輪郭が保たれている)
2度|
部分断裂(腱膜の一部が断裂している)
3度|
完全断裂(腱膜がすべて断裂している)
(引用:仁賀定雄「ハムストリング肉離れ」)

中でもタイプⅠの2度損傷やタイプⅡの2度損傷は多くのアスリートが肉離れの再発に苦しんでいるとし、タイプⅡの2度および3度損傷は受傷後6-8週間後に再度MRIによる評価を行い、競技復帰の判断をするのが好ましいとされています。

ハムストリング肉離れの治癒過程

治癒過程|

画像1

筋損傷後は、瘢痕形成を伴った修復過程(上図)があり(中略)この修復過程を最適なものにするためには、組織の再生のために適度な刺激を加え修復に必要な期間を短くし、瘢痕形成を最小限に抑える必要がある。
(引用:「予防に導くスポーツ整形外科」)

これらの治癒過程を念頭に置き、適切な治癒過程を経て競技復帰していくためにも、患部の状態を詳細に把握し、運動療法の負荷を適切に設定していく必要があります。

治癒過程に合わせたリハビリテーションの流れ|

画像5

ハムストリングの治癒過程に合わせたリハビリテーションの考え方の1つは上図のようになります。

また、競技復帰を目指す場合は下図のように段階的に運動強度を高めながらトレーニングを行なっていくと思います。

画像5

冒頭でもお話ししたように、再発防止を念頭に置きながら競技復帰までサポートするためには、身体機能を整え、条件が揃ったことを確認した上で運動強度を上げる許可をするべきと考えています。

画像5

このように、軟部組織の治癒過程と身体機能面の両者を揃えながらサポートしていくことで、再発率の高いハムストリング肉離れからの競技復帰および再発防止のためのリハビリテーションを提供できると考えています。

介入の初期段階から選手へこのようなリハビリの過程を説明し、納得してもらうことで、約1ヶ月半から2ヶ月かかる長期的なリハビリに対しても高いモチベーションを保ち続けることができるのではないでしょうか。

ハムストリング肉離れへのリハビリテーションの実際

では、実際にハムストリング肉離れから競技復帰・再発防止のためのリハビリテーションの流れについてお話ししていきます。

今回は、受傷後の病態解釈と予後予測やジョギング開始およびスポーツ復帰までの流れについてまとめていきます。

受傷後の病態解釈と予後予測

受傷後すぐの病態解釈を適切に行うことは、予後予測および競技復帰時期の類推において非常に重要なものとなります。

冒頭でもお話ししたように、医師と連携を取りながらMRI上での所見および身体機能を適切に評価することが求められます。

この時期での主要なチェック項目は以下の通りです。

肉離れからの競技復帰 (6)

圧痛が坐骨結節に近くなればなるほど、肉離れのダメージがひどいと類推することができます。

部位だけでなく、どの範囲で圧痛が確認できるかも合わせて評価を行うことが重要となります。

伸張時痛の評価の1つとして有用なのは、active knee extension testでの膝関節伸展角度の左右差とされています。

肉離れからの競技復帰 (6)

また、収縮時痛の有無は膝関節の動きだけでなく、股関節の動きも含めその所見を評価していくことが重要となります。

内出血および血腫の有無や大きさなどの評価は、受傷後に骨化性筋炎につながるリスクを評価する上で重要なものとなり、視診だけなく画像検査(超音波検査など)なども有効に使い、把握しておく必要があります。

可能な限り、早期から身体所見やMRIおよびエコー検査による病態の解釈が競技復帰までの予後予測を正確に行うために必要とされます。

ジョギング開始までのリハビリテーション

ジョギング開始は段階的な競技復帰までの道のりの中で、大きな第一歩となります。

この時期までに、患部機能(疼痛所見および柔軟性・筋力の改善)だけでなく、患部へストレスをかけるような患部外の機能不全を明確にし、早急に改善させる必要があります。

ジョギング開始までに目指す身体機能は以下のようになります。

肉離れからの競技復帰 (18)

患部の病態評価|

ここから先は

3,633字 / 31画像
気になる有料記事が2本以上ある場合は、こちらのマガジンを購入していただいた方がお得になります!運動器疾患やサッカー選手の怪我について学びたい方にオススメです。

『硬くなっているところをほぐす。』 『とりあえず筋トレをする。』 スポーツ外傷は繰り返し行われる【代償運動】が原因とされています。 こ…

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?