非特異的腰痛の原因を探る理学療法評価
『謎の腰痛』非特異的腰痛とは?
臨床では、いわゆる腰痛に対するアプローチを行うことが非常に多いと思います。
ここ日本において腰痛の有訴率は40〜50%、既往歴は70〜80%といわれ、それだけ日常生活において腰の症状に悩まされている方が多いわけですが、腰痛の中でも85%は『非特異的腰痛』であるとされています。
この非特異的腰痛は原因のわからない謎の腰痛を総称して呼ばれることが多いと思います。
しかし、非特異的腰痛とは本当に原因のない『謎の腰痛』なのでしょうか?
というのも、非特異的腰痛とは謎の腰痛ではなく
非特異的腰痛とは、red flags(※)と下肢症状のない腰痛のみの症状を呈する場合の総称である。
(引用:「極めるアスリートの腰痛」)
と定義されていて、本来の意味はso called low back pain(画像診断を急ぐ必要のない腰痛)のこととされています。
※基本的に急いで確定診断を行い診断に基づいた治療を必要とする病態が示される所見のこと。(癌・ステロイド治療・HIV感染の既往、胸部痛、広範囲に及ぶ神経症状など)
したがって、腰痛治療において一番最初に大事なことは、目の前の症状が特異的腰痛なのか非特異的腰痛なのか判別することです。
この非特異的腰痛には椎間板や椎間関節、靭帯、腰背部筋といった腰椎周囲の組織にストレスがかかることで発症するような、椎間板性腰痛や椎間関節性腰痛、成人腰椎分離症、仙腸関節痛などが含まれます。
そのため、いわゆる非特異的腰痛に対する治療において重要なのは患部の腰部にどのようなストレスがかかっているのかを把握すること、そのストレスの原因が患部局所および患部外の機能不全からくるものなのか適切に鑑別する必要があります。
脊柱の解剖・運動学
みなさんご存知のように脊柱は、頚椎と腰椎が前弯していて胸椎が後弯しています。
この脊柱における重心線は、頚椎と腰椎の後方、胸椎の前方を通過し、このようなアライメントと重心線の関係性によって脊柱に負荷される圧迫力を頚椎・胸椎・腰椎で部分的に支持されます。
また、頚部筋や体幹筋の活動によって能動的に制御および関節包や靭帯など結合組織が伸張した際の緊張によって受動的に制御されます。
なかでも腰部多裂筋の深部線維や腹横筋は腰椎などの安定化に大きく貢献しているとされています。
仙腸関節においては、腸骨に対して仙骨が前傾することで関節の圧迫力が高まり安定性が向上します。
通常、体重がかかることで仙骨は腸骨に対して前傾運動が生じ関節の安定性が向上しますが、その要素以外にも仙骨の前傾運動が生じ仙腸関節周囲の靭帯が緊張することで張力が増大し、関節の圧迫力が高まり仙腸関節は安定します。
また、背部の筋活動によって仙骨は前傾し、腹部の筋や股関節伸展筋群の活動によって腸骨が後傾することにより腸骨に対する仙骨の前傾運動が促され、仙腸関節の安定化につながります。
なお、腹横筋の下部線維も胸腰筋膜を介して仙腸関節を安定させるとされています。
また、腰椎の運動は股関節や骨盤帯とも密接に関係しています。
立位における前屈動作では股関節屈曲(骨盤前傾)と腰椎屈曲が同時に行われ、この運動は腰椎骨盤リズムと呼ばれています。
骨盤前傾に対して腰椎屈曲は60−120%の割合とされており、前屈動作における前半は腰椎屈曲が優位にとなり、後半は股関節屈曲(骨盤前傾)が優位となります。
立位姿勢と腰痛
先にもお話ししたように、立位姿勢における脊柱のアライメントと重心線の関係性は、脊柱にかかる負担からみて非常に重要な要素となります。
臨床において腰痛で悩む患者さんの特徴的な立位姿勢としては、脊柱の後弯あるいは腰椎の過度な前弯姿勢です。
脊柱の後弯(胸腰椎後弯や骨盤後傾、下部胸郭閉鎖など)は、椎間板へのストレスがかかりやすく、椎間板ヘルニアが発生しやすいと言われています。
さらに、過度な腰椎の前弯は椎間関節への荷重負荷(軸圧)が下関節突起を通って椎弓へより伝達されます。
したがって腰椎が過度に前弯位になっている場合、腰椎への荷重負荷それ自体が関節突起間への負担になり痛みに繋がると考えられています。
これらのメカニズムはのちほど腰椎の運動と腰痛の章でお話ししていきます。
また、このような不良姿勢は、動的な姿勢制御にも大きな影響を与えると考えられており、姿勢の違いにより歩行における筋活動の違いについて研究したものがあります。
スウェイバック姿勢は骨盤中間位と比較し、表層の筋群(腹直筋、縫工筋、大腿直筋)の筋活動が優位に増大し、その反面深層筋である内腹斜筋や腸腰筋の活動が低下したと報告しています。
(参考文献:「不良姿勢が歩行に与える影響 脊柱-骨盤の筋活動比較から-」)
このように普段の何気ない姿勢からも腰痛に関わるような機能低下などが助長される可能性があります。
腰椎の運動と腰痛
|腰椎屈曲
腰椎の屈曲運動は椎間板への負荷量と関係するとされています。
もともと椎間板は外側に線維輪、内側には髄核という軟骨組織で構成されていて腰椎の可動性と支持性を両立するための機能を有しているとされています。
この椎間板へかかる圧力(椎間板内圧)は、腰椎の屈曲運動により増大するとされていて、姿勢によっても椎間板内圧は異なり、立位姿勢より腰椎前屈位となる座位のほうが高まります。
繰り返し屈曲動作を行うと、椎間板でも特に線維輪への負荷が集中してこの部位の剥離を助長すると考えられています。
屈曲動作の繰り返しで、線維輪の剥離が進行し同時に圧縮負荷がかかることで、髄核がこの剥離部分に流入して痛みに繋がると考えられています。
さらに、側屈や回旋動作が加わることで椎間板への剪断力が生まれ、線維輪の剥離と対側後方への髄核の脱出が助長されてしまいます。
なお、長時間の屈曲位の保持(同一座位姿勢の保持)では剥離部分への髄核の流入は認めたが、線維輪の剥離を引き起こすことができなかったとの報告もされています。
このことから、座位姿勢は椎間板損傷を引き起こさないが、繰り返しの屈曲動作が原因で一度線維輪の剥離が起こると座位で椎間板性の腰痛を引き起こされるリスクがあると考えられます。
|腰椎伸展
腰椎の伸展動作では、椎弓や関節包上部などに負担がかかります。
これは、腰椎伸展時に下関節突起下端部が下位腰椎椎弓部に接触するため、軸方向への負荷は下関節突起を通して椎弓へと伝達され、関節包上部への張力は屈曲時よりも伸展時に増大するとされているからです。
また、腰椎の関節面は胸椎よりも矢状面に近いため、屈伸運動に対して比較的有利である一方、回旋運動は制限されています。
腰椎伸展運動だけでなく回旋や側屈運動などの複合運動では、椎間関節周囲への応力が増大し、特に回旋と反対側の椎間関節にストレスが集中します。
なお、伸展動作と回旋動作で椎間関節にかかる応力を比較すると、回旋動作の方が応力は増大し、仙骨の側屈を伴うような動きではさらに増大するとされています。
屈曲型腰痛に対する理学療法評価
屈曲型腰痛で代表されるのは、腰椎椎間板ヘルニアや椎間板性腰痛です。
これらは、先述したように繰り返しの腰椎屈曲動作によってメカニカルストレスが集中した結果、椎間板の損傷などが原因となる腰痛です。
なお、椎間板性腰痛は椎間板ヘルニアによる神経根障害などの明らかな腰痛の原因があるものを除いたものを指します。
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