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経済効果は75兆円!? 日本の技術シーズが飛躍するカギは「経営人材」にあり

TEP Deep Tech Journal

日本の大学や研究機関には、数多くの技術シーズが眠っています。こうした技術シーズがビジネスとして花開けば、世の中には新たな価値が創造され、日本の国際競争力も上がり、今とは違う未来がやってきます。

どうすれば研究技術の事業化は活発になるのでしょうか。シリコンバレーでの起業経験もある、TEP代表の國土が語ります。

國土晋吾 / TEP代表理事
1984年にインテルジャパンに入社し、半導体技術と市場開発における豊かな経験を蓄積。1997年にNuCORE Technology 社を米国シリコンバレーで共同創業し、同社副社長兼日本法人代表に就任。2007年より株式会社S&C Associates代表取締役、 2011年よりNSマテリアル株式会社取締役を務める。これまでに、海外ベンチャー企業の取締役会アドバイザーや技術アドバイザーなど、 ベンチャーの経営戦略に携わる。2014年よりTEP代表理事。

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日本に眠る技術シード。経済効果は75兆円!?

──日本に眠る技術シードの可能性について教えてください。

日本の科学技術力は高く、大学の研究室や研究所に眠るシーズはたくさんあります。ノーベル賞受賞者も多く輩出されていますし、国内の特許出願件数は約31万件にも上り、世界3位とトップクラスです。一方で、Global Entrepreneurship Monitorが毎年発表している起業活動指数(TEA)は他国と比べてとても低い。つまり、日本では起業しようと考える人の比率が世界的に見たときに低いし、起業の環境も整っていないのです。技術シードの豊かさに比して、世界で通用するスタートアップがでてきていない。TEPの活動には、このギャップを埋めなければいけないという問題意識があります。

──眠れる日本の技術シーズがビジネスになると、経済効果はどのくらいあるのでしょうか。 

一概にはいうのは難しいですが、特許の活用率の比較で考えてみましょう。2012年頃の調査ですが、日本の大学で出願された年間6,500件ほどの特許のうち、スタートアップ企業で利用されたのはわずか31件という推計があります。0.5%も活用されずに死蔵されている。同じ時期にアメリカの大学では年間12,000件の特許が出願され、その15%の1,800件がスタートアップで活用されています。その特許活用率の差は30倍です。

上場している国内の大学発スタートアップは2020年1月時点で65社あり、その時価総額はおよそ2兆5千億円でした。もし大学発ベンチャーの数がいまの30倍になり、上場する企業数も30倍になれば、単純計算で75兆円の時価総額になるでしょうか。もちろん、特許活用率がアメリカと同じ水準になったとしても、それがそのまま単純計算で企業価値につながるわけではありません。しかし、日本では起業の絶対数が少ないことや、特許技術がほとんど産業創出に向かっていないことは確かです。

「プロ経営者」が必要 ディープテック躍進の鍵は経営人材にあり

──なぜ日本では技術シーズがビジネスにつながらないのでしょうか?

事業化を担う人材が少ないことが、大きな理由だと思います。研究者は研究に対するモチベーションは高いですが、ビジネスに関心がある人は多くありません。優れた技術をビジネスにブーストさせるためには、研究者だけでなく経営人材の存在が不可欠です。

海外には「プロ経営者」と呼ばれる人が当たり前にいます。豊富な経営経験を有し、社外から招聘されて企業のトップに就任するような人材のことです。日本の一番の課題は、こうしたプロの経営人材が少ないことにあると私は考えています。

つまり、技術開発の次のステップを担える人材ですね。ビジネスを軌道にのせるには、製品の開発や事業計画の設立、顧客の開拓、知財戦略や資本政策、人材の確保……。本当にたくさんのノウハウが必要です。

──ディープテックにつながる技術を持つ研究者と、それをビジネスに導く経営人材のマッチングが必要なのですね。

たとえばソニーは技術者の井深大さんが一人で創業したわけではなく、経営の才覚を持った盛田昭夫さんがいたからこそ成功しました。ホンダの本田宗一郎さんも藤沢武夫さんと出会ったことで世界的な会社になりました。いまの大学発ベンチャーには、そうしたチームビルディングが足りていないと思います。

ただ、人と人の相性の問題など、チーム作りは簡単ではないことも事実です。シリコンバレーでも相性を「Chemistry」と表現して経営幹部採用の重要な事項として検討されます。

──経営人材を増やすためにはどんな取り組みが必要なのでしょうか。

TEPでは筑波大学におけるEDGE-NEXT(次世代アントレプレナー育成事業)をはじめ、さまざまな団体や企業、行政と連携し、技術シーズをビジネスにブーストさせるための人材育成を支援しています。EDGE-NEXTは受講者のもつ技術シーズを事業化するためのメンタリングから、ビジネスモデル構築やビジネスプラン作成の指導を行い、起業家を輩出することを目的とするプログラムです。

画期的な技術にはものすごいプラスの特徴がある反面、大きなマイナスの特徴があることも多い。事業に活かせる強みを見極めるセンスや能力が必要なのです。

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国を上げたディープテック支援が不可欠

──その他に、日本の技術シードを活用するためにはすべきことは何があるでしょうか。

TEPは今年5月に関係各省に対し「提言書」を提出しました。コロナ禍によるディープテック・スタートアップの投資環境の悪化に関して、国からの支援をより強めるべきという内容です。

私は国の支援がなければディープテックは立ち行かないと考えています。

基幹技術をベースにするディープテックは、研究開発から製品化までの時間とリソースが膨大にかかります。IT関連サービスと比べてディープテック・スタートアップのビジネスが軌道に乗るまでに必要とする開発資金は、およそ20〜50倍です。時間が長くかかるのも特徴です。IT関連スタートアップなら創業5年以内に上場する企業も少なくないですが、ディープテックだと10年以上かかる企業も珍しくありません。

ディープテック・スタートアップには中長期的な支援が不可欠です。資金回収の見通しが立たないような創業初期の段階では、VCはお金を出してくれません。国がしっかりと支えなくてはならないのです。

──日本におけるディープテック支援について教えてください。

ヨーロッパに比べたら不十分な部分もありますが、日本にも様々な支援制度があります。支援の種類は2つにわけて考える必要があるでしょう。

ひとつは、国や地方自治体などの提供する助成金や補助金です。直接スタートアップにお金が回るものです。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)やJST(科学技術振興機構)が提供している助成金が代表的ですが、ほかにも様々なものがあります。詳しくはこちらのnoteも見てみてください。

いうなれば助成金・補助金は「無利子・無担保・保証人無し」で使える究極の資金源です。申請はハードルが高いと考えられがちですが、起業家は積極的に使うべきです。

こうした補助金・助成金をはじめ様々な制度がありますが、国をあげたスタートアップ支援はより強化されるべきだと考えています。たとえば、コロナ禍において先進各国はスタートアップにたいして多額の財政出動を行いました。フランスは5000億円、ドイツは2500億円、韓国は2000億円のスタートアップ専用融資枠を設定しています。これらに比較したとき、日本の支援額は大きく見劣りするものでした。

あるいは、オランダはナノテクノロジー分野のスタートアップだけで、年間400億円の支援額を用意しています。自国の得意な領域に特化して支援をしているわけです。こうした支援の仕方も、日本が見習うべき点だと思います。

──支援額や、どういう分野にフォーカスして支援していくかという点も、まだまだ日本は改善の余地があるということですね。

もうひとつ、補助金・助成金といった支援策のほかに、技術シーズを事業化するための取り組みもあります。この取り組みも、近年増えてきました。さきほど紹介したEDGE-NEXTをはじめ、NEDOのSAA(高度人材育成プログラム)やJSTのSCORE(社会還元加速プログラム)といったプログラムが代表的です。

こうした枠組みには大学や地方自治体に予算が割り当てられていますが、注意しなければいけないのは、国からの支援額をただ増やせばいいというものではない点です。たとえ予算がついても、成果に結びつくプログラムを構築できる人材が全国の大学や自治体にいるとは限らないからです。

──ここでも「技術シーズを活用できる経営人材の育成」を実行できるプレイヤーが必要なのですね。

繰り返しになりますが、いくら優秀な研究者と価値ある技術、その成長を支えるVCや国があっても、「どう事業化するか」を考えられる経営人材がいないと、眠れる技術はビジネスにならないのです。

日本にもディープテックのエコシステムを

──TEPのミッションは持続可能なディープテック・スタートアップのエコシステムを作ることです。

まだ日本にはシリコンバレーのようなエコシステムがありません。シリコンバレーには非常に分かりやすいルールがあります。それは起業のエコシステムに参加した人はみな、メリットがあるということです。享受できる利益がはっきりしている。エンジェル投資家の数もとても多いですね。かつて自身が起業して、その企業をバイアウトしたり上場したりして巨額の資金を得た人が、次に起業する人を支える側に回り、資金だけでなく、自分たちの経験を提供しています。トップティアのエンジェル投資家から最初に出資を受けると、CEOやCTOといった人材紹介も含め、芋づる式に支援を受けられる。そんなエコシステムがシリコンバレーにはできています。

──日本にはいつエコシステムができるのでしょうか。

この数年で潮目は変わってきているように感じています。私が講師をしているNEDOのSAAにも、少し前までは大企業や行政の受講生がほとんどだったのが、年々大学関係の人が増えています。大学としても研究成果を事業化しようとしている流れを強く感じます。

近年、大学の意識が大きく変わったと思います。TLO(技術移転機関)の設立による産学連携の取り組みを聞くことも増えてきました。「東京大学エッジキャピタル(UTEC)」という、東大のさまざまな研究成果を事業化につなげる支援をしているVCがあり、著しい成果を出しています。

現在は東京大学のほかにも、京都大学、大阪大学、東北大学といった主要国立大学がVCファンドを持っています。これらは2014年の官民イノベーションプログラムによって設立され、上記4大学で計1000億の政府出資を受けています。

この10月の頭にも、政府が大学の研究や若手の育成を支援する最大10兆円規模のファンドを創設することを発表しました。

──各大学が自身の研究成果を活用し、新しい産業を生み出すべく取り組みをはじめているのですね

一番大切なことは、ディープテック分野での大きな成功例を1日でも早く生み出すことです。成功例を見た研究者や学生が「自分もやってみよう」と起業する。エンジェルがそこに出資して、プロ経営者がうまくハンドリングする。新しい起業家があとに続く。

シリコンバレーのエコシステムも30年以上かけて作られました。日本で同じだけ時間が必要だとは思いません。TEPとして、世界に羽ばたくディープテック・スタートアップを支援することで、エコシステムの構築に貢献していきたいと思っています。

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【「J-TECH STARTUP 2020認定企業」募集中。11/15〆切】
TEPが主催する「J-TECH STARTUP2020」の認定企業を募集中です。
「J-TECH STARTUP」は、今後グローバルな成長が期待される国内のディーープテック・スタートアップを選定する取り組みです。

応募頂いた企業の中から認定企業を選出し、2021年2月開催の「第5回 J-TECH STARTUP SUMMIT」イベントにて認定証が授与されます。認定企業はイベントを通して、メディア掲載や投資家とのネットワーキング、専門家によるメンターやグローバル展開へのサポート支援などを受けることができます。

過去認定企業には、J-TECH STARTUPの認定後に大型の資金調達を行った企業や、業界やメディアから注目されている企業も多くあります。

ご興味のあるスタートアップの方は、ぜひご応募ください。
詳細は下記より。※応募〆切は2020年11月15日まで
https://www.tepweb.jp/event/j-tech-startup-2020/

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TEPはディープテック・スタートアップのエコシステムビルダーです。技術をビジネスへブーストさせるため、さまざまな研究機関や企業、行政と連携しています。
お問い合わせはこちらから。 https://www.tepweb.jp/contact/



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TEP Deep Tech Journal
「TEP Deep Tech Journal」は日本のディープテック・スタートアップのエコシステム強化を目指して情報を発信していきます。 【運営:TEP(TXアントレプレナーパートナーズ) https://www.tepweb.jp/