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TEPサポート会員が語る「伸びるスタートアップの特徴」。技術系スタートアップに必要な視点とは

最先端の研究や技術開発の成果をもとにビジネスを立ち上げ、産業を底支えするテクノロジーを扱うスタートアップ。

私たちTEP(テップ)は、そんな技術系スタートアップのエコシステム構築を目指す組織です。

TEPにおいて、「技術」と「経営」双方の視点をもった専門性の高い「サポート会員」の存在は不可欠です。今回は、ビジネスプロフェッショナルであるサポート会員のお二方に、技術系スタートアップが抱える共通の課題や、今後伸びるスタートアップの特徴、ビジネスを成功させるための秘訣をうかがいました。

田村 良介:
TEPサポート会員。弁理士。大学卒業後、化学メーカーにてポリマー関連の研究開発に従事。その後、特許事務所に入所し、2003年に弁理士登録。新規事業開発のコンサルティング会社を経て、2007年にライトハウス国際特許事務所を設立。2013年に法人化。化学、ソフトウェア、ビジネスモデル関連の特許を得意とする。

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市村 慶信:
TEPサポート会員。大学卒業後、業務を通じて電子機器のサプライチェーンの理解を深める。その後2007年から家業である電子部品商社に移り、経営の立て直しを行いながらベンチャー企業への技術提案や経営支援を実施した。2014年に株式会社プロメテウスを創業しこれまでの経験を活かし国内外で非メーカーのプロジェクトの立ち上げ・経営サポートを行っている。

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聞き手:後藤良子(TEP理事)

「どうやって売るか」という視点。技術系スタートアップに共通する課題とは

ーーまずはじめに、お二人のバックグラウンドを教えていただけますか?

田村:僕は今、自身が代表を務める特許事務所で弁理士として、主にソフトウェアや化学、ビジネスモデルの特許を扱っています。元々は大学で化学を専攻した後、新卒で化学メーカーの研究開発に就職して、そこで特許のことに興味を持ったのがきっかけでした。

その後会社を辞めて浪人し、1年後に弁理士試験に合格しました。特許事務所に入った後、今度はビジネスのことを勉強したいと思い、いったん事業開発・商品開発のコンサルティング会社に入り直しました。そこで3年ほど仕事をしてから独立して、今年で14年になります。

市村:僕は株式会社プロメテウスという会社を立ち上げて、ものづくりベンチャーを支援しています。親や親戚がみんな自分で会社をやっていたので、小さいころから自分も将来は社長になると思っていましたね。

新卒では電機メーカーの半導体販社に入り、営業企画を5年半やっていました。その後、ゆくゆく会社を継ぐつもりで家業である電子部品の商社に入りました。ところが、代表に就任したものの、改革を急ぎすぎて、当時会長だった父や経営陣と折り合いが合わなくなり退任したんです。

それで1年後、今度は自分で会社を起こしました。おもしろいものや便利なものがどんどん世の中に出るサポートをしたいと思い、ベンチャー支援をしています。

ーー有難うございます。お二人ともかなり貴重な経験を踏まれているのですね。そんな中で、何をきっかけに、どのような目的で、TEPのスタートアップ支援にご参画いただいたのでしょうか。またTEPに入ってみた感想もお聞かせください。

田村:きっかけは知り合いの方のご紹介です。入ってみてよかったなと思うのは、TEPを通じて、スタートアップのビジネスモデルや最先端の技術に触れることができることですね。

また、ビジネスプランの相談に乗るときは、普段の仕事とは違う頭の使い方を要求されるので、私自身もすごく刺激になっています。TEPに参加している一番の意義だなと。

他のサポート会員さんとの交流も盛んなので、楽しさを感じることも多いですね。こうした仲間に恵まれているので続けられています。

市村:僕も同じく紹介をきっかけに3年前に参加しました。

当時、自分の幅が狭いな、経験が不足しているなってことをすごく感じていたんです。新卒の会社から家業を継いで社長になり独立して、仕事のステージは変わっていたものの、半導体や電子部品といった業界しか知らなかったんですね。

それで、TEPで最先端の技術を扱うシーズオーナーさんや、さまざまなバックグラウンドを持った他のサポート会員さんの話を聞くことで、仕事の経験を積む良いきっかけになるかな、と思ったのが参画した目的です。

もうひとつは、サポート会員としてセミナーに登壇するというのは、これまでの自分の経験をアウトプットする良い機会になるかなと思ったことですね。

実際入ってみて、本当に自分が成長するチャンスをもらえたなと感じています。自分の会社だけだとお客さんの属性や幅もある程度偏ってきてしまうのですが、TEPでまさに普段の仕事ではあまり会う機会のないいろんなスタートアップの方と出会えて、幅が広がりました。

また、先程田村さんもおっしゃっていましたが、シーズオーナーさんとのつながりだけでなく、他のサポート会員との横のつながりもあるのが嬉しいです。それこそ田村さんとお話させてもらって、「特許っておもしろい世界だな」と知ることができましたからね。

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ーー現在は、TEPではどのような支援にご参加頂いていますか。

田村:今は主に3つ参加していて、ひとつは茨城県との連携によるビジネスプラン構築研修での講師・メンターです。特許の専門家として、特許や商標等、知的財産についての講義を担当し、個別企業のメンタリングもしています。

もうひとつは、TEP主催のビジネスプラン作成セミナーのメンターとして、受講生の方のビジネスプランの作成を支援しています。特許とビジネスプランの支援は全く異なるもののように思いますが、実は似ていまして。「課題があって、それをどうやって解決するか」をロジカルに考えていくという共通項があるんですよ。仕事柄ロジカルに考えることを得意としていますので、それを活かしてサポートさせていただいています。

最後は、TEPの定例プレゼン会での支援です。これは、エンジェル投資家とスタートアップのあいだに入って、橋渡しをしている感じですかね。

というのも、エンジェル投資家はその立場上、どうしても出資前提でフィードバックするので、スタートアップに厳しい言葉がかけられることもあって。そういうときにあいだに入ってフォローすることを意識しています。

また、技術者による起業の場合、いかに優れた技術をつくるかに考えが集中していて、「どうやって売っていくか」という視点が足りないときがあるので、その点を考えてもらうように質問を投げかける、ということも意識しています。

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市村:僕も同じく、茨城県とのビジネスプラン構築研修の講師と、メンターとして参加しています。研修では「こういうことが技術的にできるんだけど」というアイデアを、新規事業につなげていくための考え方やフレームワークをお伝えしています。

メンタリングでは、シーズオーナーさんが持っている事業のコアや技術の強みを、よりスピーディにサービス化するための打ち合わせを行っています。

両方を通じてお伝えしているのは、先程田村さんもおっしゃっていた「どうやって売るか」ということの大切さですね。「いいものをつくる」という考え方は、起業という最初のアクションを起こすには欠かせませんが、一方で、それだけでうまくいくことはほぼありません。

アメリカの起業家、ピーター・ティール氏の「差別化されていないプロダクトでも、営業と販売が優れていれば独占を築くことはできる。逆のケースはない」という有名な言葉があるんですが、まさしくその通りだなと思っています。

ーーそれは、TEPを立ち上げた背景に通ずるものがありますね。当時、どのようにスタートアップを支援していくかを考えるにあたって、最先端の研究をしている方たちに話を聞いてみたのですが、みなさん「この技術は世界一なんです」とおっしゃるんですね。
もちろんその技術は素晴らしい。でも、その続きがないと、せっかくの日本の最先端技術が、広く社会に還元されない。そこが上手く繋がれば、日本経済の発展にも通ずるはず、という想いからTEPは生まれたんですよね。

伸びるスタートアップは「質疑応答」でわかる。成長するために欠かせない姿勢

ーーお二人が支援頂いている中で、技術系スタートアップ/企業の支援で留意されている点や、支援の早い段階で「この企業は面白い!」と思う際の勘所のようなものはありますか。

田村:事業のアイデアや計画性ももちろん大事ですが、自分が知らないことははっきり「知らない」と認め、人の意見を聞く素直な姿勢や柔軟性がある経営者の方でないと、伸びないのではないかと考えています。

例えば、TEPのプレゼン会で経営者の方からプレゼンを聞くとき、僕はプレゼンの中身もそうですが、その後の質問に対する受け答えをよく見ていますね。答えられない質問をされたときに、はぐらかしたりするのではなく、「わかりません」ってはっきり言えることが重要だと思うんです。

市村:よくわかります。メンターとしてピッチトレーニングをするとき、質疑応答まで一緒に考えるんですが、質問に対する答えを持ってない場合は、「これまで考えてなかったので、改めて考えて後ほど資料に追加します」とはっきり言うだけでも印象が違う、とよく伝えています。

田村:そうそう、考えてないことを「考えてない」ってはっきり言える方は、次のプレゼンにそれが盛り込まれるはずなんですよ。

市村:わからないことは素直に認める。そういう姿勢に欠かせないのが「Unlearn」です。技術系スタートアップはみなさん、その研究においてはプロフェッショナルですが、一方ビジネスを始めるときは、それが邪魔をすることもあります。これまでの知識や経験をいったん忘れて新しいことを吸収するというのは大切な能力ではないでしょうか。

ーーおっしゃる通り、ディープテックの起業家さんは、その分野においてはトップまで行かれた方です。それをいったん捨てて、ビジネスで0からスタートするというのは、難しいところもあるのではないでしょうか。

田村:その気持ちはよくわかります。人間誰しも、一度達成したことを捨て去るのは難しいですから。

だからこそ、経営者になったときに必要なのはバランス感覚だと思います。技術的なことにおいては、「私はこの分野のプロである」と譲らない一方で、経営に関しては、「私は駆け出しだから、教えてください」とまわりを頼る。このスイッチのオンオフができるバランス感覚や柔軟性が大切だと思います。

相談できる存在、スキルを持ったチーム作りを

ーーそれでは最後に、まさに今頑張っている、シード・アーリー期の技術系スタートアップに向けたメッセージをお願いします。

田村:ビジネスを成功させるには、サービス開発だけでなく、営業やマーケティング、財務等、やることが多岐にわたります。だからこそ、チームづくりは非常に重要ですね。

一人でなんでもやろうとせず、勇気を持って自分にない強みをもっているパートナーに頼ってほしいです。

市村:社内だけでなく社外の人とも、チームづくりをする視点を持っておくと良いですね。

というのも、個々の技術やサービスが違っても、スタートアップが壁にぶつかるときには、同じ原因が存在していることが多い。専門家の力や、先人の知恵を借りることは非常に有効です。

田村:TEPのサポート会員には、僕たちのような士業やコンサルタントをはじめ、いろんな分野の方がいます。経営陣や社員の方だけでは足りない部分を、TEPのサポート会員がピンポイントで補っていけたら、と思います。

ーーここまでお話をうかがってきて、スタートアップに対して本当に親身になってくれているんだなと感じました。私がお聞きするのもなんですが(笑)、どうしてそこまでできるのでしょうか?

田村:ベースに“リスペクト”があるからではないでしょうか。

ディープテック系スタートアップは、これまで世になかったものを新しく生み出し、提供していくという、ものすごくリスクの高いチャレンジをされている。誰にでもできるわけではありません。だからそうした挑戦をされている方を、僕は非常に尊敬しています。

市村:僕も起業家さんをプロとして尊敬しているので、どんなアイデアやプランに対しても実現できる前提で話を聞くようにしていますね。

なかには一見、実現が難しそうと感じるものもあります。ですが、その道のプロができると信じて、長い時間をかけて取り組んでいることに対し、外からぽっと入った僕が「それは無理じゃない?」と言うのは違うなと。それを言っていたら、イノベーションなんて絶対起こりませんから。

ーーなるほど。一緒に起業しているわけではないけれど、スタートアップもサポート側も、イノベーションを目指しているのは同じであり、ひとつのチームになっているんですね。これからもご一緒にスタートアップを支援し、イノベーションを加速していければと思います。ありがとうございました。



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