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スタートアップの支援は、まだまだ足りないだらけ

スタートアップ創出元年として起業やスタートアップへの注目が上がってきている中、今回はTEP 副代表理事を務めながらスタートアップから大企業まで多くの事業を支援し、現在は筑波大学でも客員教授として活躍される尾﨑 典明さんに、お話を伺いました。

――尾崎さんのご経歴と現在やっていることを教えてください。

尾崎:まず生まれも育ちも九州で、地元で大学院まで進みました。当時は、工業系の大学院からはメーカーに就職し、研究所か工場に勤務するのが一般的なルートだったけど、僕は、5年くらいで起業するつもりだったので、当時としては珍しかったんだけど、工業系の大学からコンサルに行ったんです。小さいコンサルで現場から管理からいろんなことを学び、5年間働いて30歳で独立しました。
 
今というか昔からやっていることは、平たく言うと事業の支援。大企業や中小企業、スタートアップ、自治体、大学、NPO……いろんな組織が事業をするわけでしょう。その事業をお手伝いする。だから岩手県の牧場から、会津地域、筑波大学、宇宙開発などなど。その事業がうまく回るようにするというのが僕の仕事ですね。

その中で、主にやっているのが中小企業とかスタートアップの支援です。国を挙げてスタートアップを推そうっていう中で、ダイレクトにスタートアップはもちろん、大学、国研、行政や地方自治体のプログラムでお手伝いをしたり、あとは国のスタートアップ施策の委員だとかグラントの審査員とかもやっています。

肩書でいえば、エスファクトリーという屋号の個人商店と、TEP の副代表理事、筑波大学 客員教授、それからNEDO(経済産業省の外郭団体)の委員とかほんといろいろで、NEDOでは補助金審査やハンズオン支援に加えて、川崎市と一緒にやっている川崎NEDOイノベーションセンター(K-NIC)の運営にも関わっています。さらにいえば、中小企業基盤整備機構、JAXAのアドバイザー。加えて異色ですが、特許庁、INPITの仕事なんかもやっています。

――幅広い活動をされてますが、なぜここまでご自身の事業範囲を拡げられたのでしょうか

尾崎:それはぼくのフットワークの軽さと愛嬌(笑)。
スタートアップ支援の文脈でいえば、独立してからが圧倒的に増えました。TEPができた2009年に僕も独立して、すぐにTEPに入りました。TEPの立ち上げメンバーから「尾崎さんみたいな人にボランタリーでTEPに入ってもらわないと多分立ちゆかない。入ってくれませんか?」ということで声がかかって。いわゆるサポート会員というかたちで、テック系のスタートアップのお手伝いをすることになりました。

次の時代を担うディープテックスタートアップを支えるエコシステムをつくりたい

――TEPにはなぜ参加したのでしょうか

尾崎:2009年当時はリーマンショック直後で、ベンチャーキャピタルや銀行からもお金が出てこないという冷え込んだ時期だったんです。でも、そんな状況でもスタートアップって生きていかなきゃいけないでしょう。

IT分野では既にDeNAやグリー、楽天などいわゆる「ジャイアント」と呼ばれるような企業が出てきて、エコシステムという意味でも揃いつつありました。だけどテック系、特にディープテックと呼ばれる分野は時間もお金もかかるし、飛びぬけた「ジャイアント」がまだいないって状況で、人材も流動的ではなく、お金も全くと言っていいほど今よりも回っていなかったんです。

そんな中、真っ先に金融系とか手を引いていきますよね。時間のかかる分野に、この状況で投資できませんから。だからこそ、そこを少しでもTEPで応援していきましょうと。それから、つくばエクスプレス(TX)沿線上のエリアには研究開発機関が集積しているし、全国的にみても特異的でポテンシャルがある。ここが元気になれば日本全体が元気になるよねという思想があったんです。それは、すごく意味があることだなと思って参加しました。

――もともとスタートアップ支援への興味はあったのですか?

尾崎:スタートアップに限らずですね。大企業だって中小企業だって全部事業だから、事業をもっとよくするとか、社会をもっと良くしたいと思ってたんです。中小企業とか大企業とかスタートアップ、自治体とか大学、それぞれに持ち味というか役割があるから、その持ち味を活かせるような事業をやっていく必要があるわけです。

一方で、スタートアップについてお話しすると、今ってこれだけ閉塞感がある世の中で、大企業でさえ明日も分からないような状況ですよね。そんな中で、スタートアップは次の世代を担っていく一つのビークルなんですよね。仕組みとして、ちゃんと資本家とプレイヤーが分かれている。大企業だってその構造ですが、ガバナンスや多くのステークホルダーの存在もあり構造的に硬直化してしまう部分も大きい。日本の大企業の多くはオーナーではないサラリーマンが社長になっていくから、強気にジャッジできないことも増えます。

サラリーマン社長は率直にいえば中継ぎの印象が強く“短期政権”で、株主やステークホルダーの顔色を伺わざるをえない。それで長期的な計画が立てられず、次の世代を作っていくような思い切ったことができなかったりするわけです。だから、多少のリスクはあってもこれからチャレンジングで新しいものを仕掛けていくためにはスタートアップというビークルが一番いいだろうなと。これは世界の潮流でもあったし、日本もスタートアップがどんどん生まれるような社会にしていかないといけない、という認識でしたね。

幅広い事業支援の実績から、大学で産学連携関連のアドバイザーに

――現在は筑波大学の客員教授に就任されていますが、その経緯を教えていただけますか?

尾崎:TEPのアドバイザリーボードに筑波大学に入ってもらっていて、コミュニケーションを取っていく中で、筑波大学の方から「私たちもスタートアップを推進していきたいんです」というお話がありました。だけど、大学ってこれまでそういう役割を持っていなかったから、学内にはノウハウがないと。そこで「ぜひ一緒にやれませんか?」という声がけがありました。それが7年ほど前、2015年ごろでした。

TEPのなかでも「僕に」となったのは、僕がいろんなところで活動していたというのもあったからでしょうか。それまでいくつか個別のプログラムもお手伝いしていましたが、JST(科学技術振興機構)のEDGE-NEXTプログラム※というものがあって、筑波大学がそのEDGE-NEXTプログラムに採択され、本格的にプログラムが走るときに、そのディレクションを任せていただいたのが最初ですね。

※次世代アントレプレナー育成事業(EDGE-NEXTプログラム):学部学生や専門性を持った大学院生、若手研究者などが起業など、将来の産業構造の変革を起こす意欲をもつようになるための支援プログラム。https://www.jst.go.jp/shincho/program/edge-next.html

――現在は、客員教授になられたんですね

尾崎:まずは2016年くらいに産学連携の准教授として呼ばれて、2年後ぐらいに国際産学連携本部というところで教授職、2022年春から客員教授になりました。Facebookとかでも「教授になりました」って言ったら、おめでとうと言われたりもしましたが、僕からすれば一クライアントなんですよね(笑)。昇進とかでもなんでもなくて。ただ活動するのに便利だから称号みたいなのをもらっていたというだけの話で、今はそれが「客員教授」という感じ。やることは変わらないですね。

学生へのアントレプレナー教育から、研究者向けの起業支援まで

――大学ではどんなことを行っているんですか?

尾崎:まずEDGE-NEXTプログラムからはじまったのですが、筑波大が面白かったのは、地域にある他の国研等の参加も認めたことです。筑波大が採択されているんだけど、筑波大の事業としてほかの国研もスタートアップやりたいならおいでよ、とお招きしたんですね。そしたら周りの国研の皆さんがこぞってやってきてくれて、そこで一緒になって勉強してくれた。さらにそこから生まれたスタートアップがどんどん出ていくという状況になっています。

EDGE₋NEXTは2021年度で終わってしまいましたが、年度の途中から大学推進型SCORE(社会還元加速プログラム)に筑波大が採択されて、現在でも事業シーズを持っている先生や研究者を対象に、スタートアップとして社会実装していくための事業支援をやっています。

さらに大学内部については、学生向けの講座があって、TCCB(筑波クリエティブキャンプベーシック)やTCCA(筑波クリエイティブキャンプアドバンス)、次世代起業家育成講座についていえば大学の1年生が150人ぐらい受けるもので、そこでいわゆるアントレプレナーシップについて学んでもらっています。大企業に行こうが中小企業に行こうが公務員になろうが、マインドとしてアントレプレナーシップを持つのはすごく大事だよということを伝えています。

TCCBに関しては、これは1年から4年、大学院生がきても構わないもので、具体的に「こういうのがあったらいいのでは」みたいなアイデアを学生がぶつけてきて、そこでチーミングして一定期間そのモデルについて揉んで、事業プランを作っていくというようなことをやっています。次世代起業家育成よりも高度なことをやっていますが、そのさらに高度なものがEDGE-NEXTという位置づけでした。さらにそこに大学推進型SCOREというのがあって、JSTから1チームあたり500万円ぐらいずつ予算がついて、いわゆるギャップファンドのような感じで事業をさらに加速させる……ということをやっています。

――筑波大学では、スタートアップ創出に向けて複数階層を用意しているのですね。
尾崎:これが結構重要。SCOREは先生方がやっておられる研究シーズをスタートアップというアプローチで成長させていくためのプログラムです。でも、そんなに毎年毎年大学の先生たちが起業していくなんてことは難しいですよね。こんなことをずっと7年ぐらいやっているわけで、最初のうちは起業したくてうずうずしていた人たちが参加して実際に起業して……というのが多くありました。ところが続けていくうちに、その“うずうず人材”はもう起業しているし、弾がなくなってくる。「起業ってどうなの?」「スタートアップってどうなの?」、そもそも起業なんて選択肢になかったという研究者が相手になるんです。でもその人たちにしっかり情報を伝えていって、研究シーズを社会実装するためには起業とかスタートアップというアプローチもあるんだよ、としっかり伝えて掘り起こしていかないとだんだんと弾がなくなっていくんですよね。

だからボトムラインを上げていくために、学生向けだけではなく産学連携のコーディネーターとかと一緒に研究室回りをやって、先生たちが何やっているのか、先生のマインドがどう向いてるのか。「そういうのがあるならチャレンジしてみたいな」となるのか、それとも「俺はもうアカデミアで生きていくんだ」という人なのかを把握して、チャレンジしたい人は積極的に応援していくということをやらなきゃいけないことに気づき、今はその掘り起こしもやっています。

――待っているだけじゃなくて、自ら研究室を回られているんですね。

尾崎:そう。プッシュしないと。こういうプログラムやってます、と貼り紙をして待っていても来ないんです。意識していない人はその情報にたどり着かないんですよね。だから押しかける(笑)。意識していない人に、こういうのがあるんだよ、ということを伝えなきゃいけない。ネットも同じで、自分が掘りたいからその情報を辿っていくけど、自分の興味ないところは遮断してしまうでしょう。同じ構造で、情報をしっかり届ける、意識していない人に届けるって極めて難しいけど重要なことで。それで僕らが今とっているアプローチとしては、実際に研究室を回っていくというようなことをやっています。


学内に眠っている事業のタネを掘り起こす仕組化と、スタートアップと目線を合わせるための体制づくり

――筑波大学がスタートアップ創出について一歩進んでいる印象があるのは、このような活動があるからなのでしょうか。

尾崎:かもしれないですね。他の大学でも「うちでもやってる」というところもあります。だけどやり方の問題で。産学連携コーディネーター、URA(University Research Administrator)といって、大学の先生を助けるような役割の人たちもいるのですが、いわゆる事業を作ったことがないような人や、仕組みで動くというよりは属人的に、仲がいい先生とだけコミュニケーションを取っているとか、そんな感じになっていることも多い。

だけど、これをしっかり方法論に変えていかなきゃいけないだろうし、大学として先生たちを網羅的に見て、企業とかの外部から問い合わせがあったときに「これだったらこの先生がいます」とすぐに反応できるような機能を大学は持たないといけない。大企業からすれば、大学のホームページを見ただけではどこに何をしに行けばいいかも分からないし、情報が見える化されていないんですよ。

少なくとも、産学連携などの部門に来てくれたら「その研究だったら、この先生なら面白く事業組み立てるかもしれませんね」とつなげたり、「このグラントがあるから一緒に出せませんか?」という動きをサクサク進めるためには、まず先生の研究について把握すること、それから先生方とのコミュニケーションができていて人となりが分かっているということが結構重要なんですよね。現状はそこまでやれていないケースが多いのだと思います。

そういうことをやれてないっていうのが大学の現状で、機能としてはみんな必要ですというのは分かっているんだけど、具体的な方法が体系化されていないというか。僕らだって厳密に体系化しているとはまだまだいえません。人で動いていて、それを掘り起こしているというのが実際ですからね。

カルティベーションすべきだということと、そこから実際にやる気になった人たちをちゃんと受けとめられる相談先やプログラムが走っているかということ。さらにそれが中の人材だけではなくて、プロ人材が有機的に学内外と関わりながら事業を推進していける体制があるかどうか。

これは学内だけでやっていても難しくて。やはりノウハウがありませんし、視野が狭くなってしまいやすいんですよね。だから学外組織を上手に使っていく。アメリカだってそういうアクセラレーションプログラムも外部のVCとかをどんどん使っていたりするわけですから。外とのコミュニケーション、ネットワークということと、外部の人を上手く大学内に入れるような仕組みはすごく重要ですよね。

――スタートアップ創出に向けて柔軟性も必要になりそうです。

尾崎:そうですね。スタートアップと付き合うわけだから、考え方がスタートアップに合っていないといけないと思いますね。スタートアップ支援をする人間が杓子定規なルールに縛られていてはいけない。頭でっかちになって「これがルールだ」「これやっちゃダメ」なんて言っていたら、スタートアップややる気のある人たちの時間を無駄にさせているだけになってしまいます。

例えば大企業とか大学も然り、「スタートアップと連携します、支援します!」といってうまくいかないケースは、ルールだとかやり方にこだわったせいということも。もちろんこれまでやってきた上手なやり方なのかもしれないし、そのほうが調和ができるかもしれないけど、スタートアップがやろうとしていることって、圧倒的な成長スピードで世界を変えてやろうということへのトライなわけだから、そこにこれまでの論理を持ち込むと、スタートアップの良さが消えてしまうんですね。

スタートアップを支援する、彼らと付き合うという立場からは、そのスタートアップがやろうとしていることをしっかり考えて、彼らがどういうふうに成長していくかにコミットしなきゃいけなくて。そのためにはルールというものを、全部を全部変えるという話ではないにしろ、少なからず弾力的に運用できるような体制にする必要があるんです。

スタートアップの事業を成長させるための適切な支援を

――外部人材は大学に入れたほうがいいという話もありましたが、なぜ外部人材が必要なのでしょうか

尾崎:僕の場合は、もちろんほかの知見というか、事業を実際にどんどんやって立ち上げたということもあります。だから、いろんな事業を見てきているというのが強くて。スタートアップだけをやっているわけでもなくて、中小企業とか大企業とか商売、いろいろやっているから、そのスタートアップが目指そうとする問題解決の課題の状況を把握していたりもする。いろんな業種、業態のネックになっていそうなところを現場でしっかり見ているからこそ、スタートアップが「この問題を解決したい」と言ったときに「その問題って本当にあるかな?現場では違う感じよ?掘り下げてみて!」という話になったりもするし、逆に、あそこの業界でその技術が活きるかも、とスタートアップ側が思っていなかったところに展開できる可能性もあるんです。

だから、いろんなところを見てるっていうのはすごく強くて。スタートアップだけを見ているわけではなく、ましてやアカデミアだけでもない、もっと広くいろいろな事業を見ているというのが求められるからなんです。

――さまざまな業界の知見や経験をもった方が重要なんですね。

尾崎:もう一つには、ベンチャーキャピタルとTEPの差みたいなところもあって。ベンチャーキャピタルにはどうしても利益相反がつきまといます。ベンチャーに出資したとき、VCのポートフォリオというのは、スタートアップが儲かれば一緒に儲かるけど、とはいえ、苦しいときなんかベンチャーキャピタル側も自分たちの会社をを壊すわけにはいかない、さらにベンチャーキャピタルがお金をもらっているパートナーとの関係性もあります。応援する立場ではあるけど、純粋にスタートアップ側に立った支援かというと濁ってしまう場合もある。

ただ、TEPやとりわけ僕の場合はどちらかというと、スタートアップが成長できる環境を作るため、もっと社会を面白くするためにスタートアップを応援しています。なんなら大企業とかベンチャーキャピタルとかの間に入って、何か変なことをやろうものならスタートアップ側に入ってそこを調整したりするわけです。僕自身、出資するときはあってもスタートアップからはまるでお金を取っていないから、利害が絡まない純粋な支援ができるんですよね。

人材、教育、制度と、スタートアップをとりまく環境は、まだ“足りない”

ー-尾崎さんが2009年にTEPに入られて、スタートアップ環境は変化したでしょうか

尾崎:当初から比べたら環境は年々良くなっています。もちろん今は円安やアメリカの市況、ウクライナとロシアとの問題といった外部環境によって難しい部分はあるにせよ、ある程度近い環境においては、法律の整備だとか、お金の出し手やプレイヤーが増えたり、そこから成功した人たちも出てきていて。政府の推進もありますし、どんどん良い環境にはなっているといえるでしょう。

ただ、実情をいえばまだ“足りない”だらけ。というのは、まだまだ予算も税制を含めた法律も、変えなきゃいけないというところはあります。例えば日本の公道で電動キックボードが走れるようになるまでには、ナンバープレートの要否やヘルメットの要否、さらにサイドミラーは?……など、道路交通法に関わるさまざまな議論が行われたはずです。Airbnbにしても「自分の所有する空き家をそのままとりあえず貸そう」というようなことは消防法上難しい。こういった“やりにくさ”はいろいろなところに残っています。サンドボックスとかもあるけど、そういったルールや“融通の利かなさ”もどんどん変えないといけない。

それから教育もですよね。少なからずアントレプレナーシップ、言い換えるとしたら自分の頭で考えて、世のため人のために行動することができる人間が育つような教育方針にしていく必要があるし、そういったことも含めて“足りない”だらけですね。

今後力を入れていきたい分野についていえば、テック系をずっと応援してきて、大学や研究機関発のベンチャーがどんどん出てくるようなかたちにはなってきていますが、それを担える人材というのも課題。経営人材やCXO人材が足りないという問題があって、国やVCなんかでも人材にフォーカスして取り組んでいるところもあります。とはいえ、やはり「スタートアップをやろう」という人たちがそもそもまだ少ないとも思っていて、掘り起こしの部分をまずやっていこうと。どちらも並行してやる必要があるのですが、眠っている研究や技術がもっと出ていくような仕組みが必要ですよね。そこにあわせて人がいて「それを担います」となればそれでいいし、全てを並行してやらなきゃいけないという感じでしょうか。

――やることが盛り沢山ですね。

尾崎:盛り沢山ですよ(笑)。機関投資家からのお金や、ベンチャーキャピタルももっとダイナミックになってほしいし、国の施策だってまだまだどんどん良くしていってもらいたいし。エンジェル投資家みたいな人たちもあまりいませんしね。IT周りではわりといるんだけど、ハードテックのほうではまだなかなかいないんですよね。税制の整備が追いついていないのも一因でしょう。「エンジェル税制」というのもありますが、使おうとすると労力がかかるわ金額に制限があるわで利用しづらいんです。そんなとこも変えないといけないですよね。


それぞれが担うべき役割を全うすることで、スタートアップのエコシステム構築に貢献できる

――この事業を応援したいと思う要素はなんですか

尾崎:まず「人」で、その人が未熟でも全然いいんですよ。ただ素直であるとか、真摯であるとかいうのは結構重要なポイントだったりします。その姿勢があれば必ず伸びますしね。

それで、人をどんどん巻き込める人じゃないと事業ってうまくいかないので、その人とかチームはしっかり見ますね。テクノロジーの切り口とか考え方、つまりビジネス自体の切り口というのもすごく大事なのでもちろん見ますが、応援したいと思う人かどうかとか、この人がやっていることが社会を変えるなと感じたら「これは手伝おう」と思ったりします。

世の中に波紋を広げたいんですよね。世の中をもっと面白くするための“石”を投げ込んでいるような状況だから。そんな計画通りに行くことはないから、やっぱりピボットするにしろ方向転換するにしろ、人やチームの柔軟さとか真摯さとか素直さというのが重要になってくるんですね。例えば資金調達するときだって、嘘つくやつとか、言い訳ばかりするやつに金出そうとは思わないないでしょ(笑)。でも生意気でもかわいいやつとかいてね(笑)。その根本の人間性みたいなものは、コミュニケーションを取って共感するかしないかの線引きになりますよね。

――ありがとうございます。最後に、TEPの副代表理事の尾崎さんとして伝えたいことはありますか?

尾崎:みんなそれぞれの「持ち場」でちゃんとやろう、ということでしょうか。「一燈照隅、万燈照国」という言葉がありますが、「一つの灯火は隅を照らすことができる。でもそれが万の灯火になれば国を照らすことができる」という感じの意味です。一つの灯火がもっているのは小さな力かもしれないけど、でもみんなやれば国を照らすことができるという話ですよね。おのおのが自分の持ち場でやるべきことがあって、みんなでその世界を作っていかなきゃいけない、と思って仕事をやっているんです。だから僕は僕にできることをしっかりやっていく、という感じですね。

――ありがとうございました!

AEA2019 ネットワーキングパーティにて


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