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なななななな、なななな。

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ままならぬ感情や個性を持て余す歯車たち。 ないならないで手持ち無沙汰、あったらあったで持て余す。 激しく、時に凪ぐ“感情”について描いた掌編、短編集。
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#ブックショートアワード

都市伝説のホスト -零-

都市伝説のホスト -零-



 新宿歌舞伎町、眠らない町。街灯と電子看板の明かりに煌々と照らされた路地には、たとえ真夜中を過ぎても多くの人がいる。
 しかし少し奥まった路地に入ると突然薄暗くなり、人気がなくなる。メイン通りほどの賑やかさはない。雑居ビルの中にはそれでも無数の細かい店やスナックはあるが、どこかわびしい風情が漂う。
 そんなうらぶれた通りに不似合いなスーツの優男が通りかかった。
 上品に形よくセットされた髪、

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人を殺したかしら

人を殺したかしら

 みんなは私の顔を見て、ひどく驚いた、というか、面白いオモチャでも見つけたような顔をした。女の子たちはあっという間に私を取り囲んで、口々に「似てるよねえ」「スゴーい」「そっくりぃ」と繰り返し言っている。女の子たちの間で何がやりとりされているのかわからなくて、私は少し腹を立てたりもした。
 やがて女の子たちのボスみたいな子が「あなたにそっくりな人がいるから、あわせたい」と言い出して、今まで以上にザワ

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スプラッシュ

スプラッシュ

 今日も全くかからなかった。竿はピクリとも動かず、小さく見えるウキが波にあわせてプカプカと揺れている。
「はぁー、なにもかからない……」
 堤防の向こうを見ると、同じように竿を突き出した数人の男たちがいる。そちらはどうだろうかと目を凝らしてみたけれど、釣れているのかどうかはよくわからない。
 海は澄んでいて綺麗だが、底が見えるほどではない。堤防のそばの浅い箇所には小さな雑魚がうろうろしている。
 

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Cinderella shoes

Cinderella shoes

 はじめて行くファッションビルは好きだ。何もかもが新しくて、店舗のスタッフも初々しくて、やる気に満ちている。
 新品のペンキや什器の匂い好きだ。
 〈できたて〉という感じがするからだ。
 目新しいショップが並んで、見ているだけで飽きない。
「靴が欲しい」
 フロア二階にわたって広がる真新しいシューズショップで足をとめた。
 布、ゴム、皮、エナメル、プラスティック、色々な素材の匂いがする。シューズシ

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