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なななななな、なななな。

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ままならぬ感情や個性を持て余す歯車たち。 ないならないで手持ち無沙汰、あったらあったで持て余す。 激しく、時に凪ぐ“感情”について描いた掌編、短編集。
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2021年3月の記事一覧

Glosbe

Glosbe

「お母さん。僕は旅に出るよ」
 そう言った僕を、母はいつもと変わらない目線で僕を観ていた。藍染めの布を縫製しながら「あら、そう」その一言。頼りにならない父親は焼きがまがある山荘に閉じこもっている。僕について、何も考えていないのだろう。母はは少しスタンスは違うが、僕のいう子ことにNOは言わない。昔からそうだ。
 高校生になったばりの息子があてのないたびにでるというのに心配しない親がいるだろうか。母親

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the (River) Styx

the (River) Styx

 起きるのが億劫だった。やることはたくさんあるのに、何も思い出せない。ただぐったりとベッドに横たわって、目を開けることもできない。
 今日は何日だろう。何曜日だろう。何時だろう。どうでもいい、もう少し眠りたい。
「起きろ」
 男の声がする。僕は目を腕で覆って、その指示を無視した。そうするしかなかった。僕に起き上がる力などないのだから。
「起きろ」
 また男の声が指図する。僕は無視を決め込む。それが

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SAYAKO

SAYAKO

 山口紗矢子。彼女の名前を思い出したのはずいぶん久しぶりだった。強烈な個性を放っていた彼女はその釣り上がった目でじいっと僕と見つめて、煙草を吸っていた。紅く塗られた唇から紫煙がゆるゆると漏れて出る。それは彼女がまるで仙女のように見せたが、やはりするどい目つきでそれが幻想だと思い知らされるのだ。
 僕は喫茶店でぼんやりと本を眺めながら、昔彼女が座っていたソファを意識した。彼女は今でも座っているかのよ

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人を殺したかしら

人を殺したかしら

 みんなは私の顔を見て、ひどく驚いた、というか、面白いオモチャでも見つけたような顔をした。女の子たちはあっという間に私を取り囲んで、口々に「似てるよねえ」「スゴーい」「そっくりぃ」と繰り返し言っている。女の子たちの間で何がやりとりされているのかわからなくて、私は少し腹を立てたりもした。
 やがて女の子たちのボスみたいな子が「あなたにそっくりな人がいるから、あわせたい」と言い出して、今まで以上にザワ

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スプラッシュ

スプラッシュ

 今日も全くかからなかった。竿はピクリとも動かず、小さく見えるウキが波にあわせてプカプカと揺れている。
「はぁー、なにもかからない……」
 堤防の向こうを見ると、同じように竿を突き出した数人の男たちがいる。そちらはどうだろうかと目を凝らしてみたけれど、釣れているのかどうかはよくわからない。
 海は澄んでいて綺麗だが、底が見えるほどではない。堤防のそばの浅い箇所には小さな雑魚がうろうろしている。
 

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Cinderella shoes

Cinderella shoes

 はじめて行くファッションビルは好きだ。何もかもが新しくて、店舗のスタッフも初々しくて、やる気に満ちている。
 新品のペンキや什器の匂い好きだ。
 〈できたて〉という感じがするからだ。
 目新しいショップが並んで、見ているだけで飽きない。
「靴が欲しい」
 フロア二階にわたって広がる真新しいシューズショップで足をとめた。
 布、ゴム、皮、エナメル、プラスティック、色々な素材の匂いがする。シューズシ

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ショッキング・ピンク

ショッキング・ピンク

ショッキング・ピンクの髪を逆立てた隣人は不老処置も施さず今では珍しい老人という姿だ。
 つまり皺がより、皮膚は弛み、シミがあちこちにある。
 しかし彼女は誰よりもパワーとエネルギーに満ちあふれ、何より音楽を愛していた。
 しかもパンクロックだ。
 今は誰もきかない、攻撃的で激しい音楽だ。
 息子と孫は素朴で「いい人たち」といった風だが、彼女だけは違った。
 感情が高まるとドラムを一心不乱に叩き、叩

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レモン

レモン

「レモンってどう思う?」
 不意打ち。ちょうどそう考えていた時に彼女に言われて、僕は牡蠣の殻を掴んだ手をとめた。
「レモン?」
「ええ、レモンよ」
 彼女はそう言って、レモンを搾って、生牡蠣をちゅるりと吸い込んだ。そして恍惚の表情でゆっくりと咀嚼する。
「レモンよ」
 牡蠣をじっくりと味わって飲み込んでから、彼女が改めて言った。
 僕は牡蠣をすすって舌の上で転がしながら、鼻から抜ける潮の香りを楽し

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