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労働学生日記(2週目)

最近気づいたこと。
このnoteを読んでくださる方の中には、人類学を勉強していた方や人類学に興味がある方が何人かいらっしゃる。とても興味深く、うれしいことだ。
理論的なことが何もわかっていないので、人類学1年生にもわかりやすいウェブサイトや本があったら教えてやってくださいませ。

月曜日

朝からプレゼンの準備をする。

クラスが始まる1時間前にグループで集まり、最終打ち合わせをすることになった。

電車が定刻に来ない。

これでは打ち合わせに間に合わない。

少し遅れる旨、グループのメンバーに連絡をする。

カルロス「はいよ。今、昼ご飯食べてる」

ロシオ「わかったわ!」


電車を降り、小走りで学校へ。

「もう着くから!」

メッセージを送る。


カルロス「あと10分で向かうよ!」

ロシオ「私、今〇〇公園」


15分遅れで待ち合わせ場所に着いた。


2人ともまだ来ていなかった。


そうだ、忘れていた。
ここはアンダルシアだった。

「着きましたんでね、待ってますよ」


廊下に誰もいなかったのをいいことに、パワーポーズをしてみる。

カルロス「今から階段あがる」

ロシオ「駐車場探してる!」


仕方がないので、ボカディージョを食べる。
今日はツナマヨネーズにトマトを挟んだ。

日本から持ってきた大事な栄養ドリンクを飲む。
昭和生まれには、ときどきこういうものが必要に思う。
幼いころ聞いたような気がする「24時間戦えますか」を懐かしく思い出す。


待ち合わせ時間より30分遅れてカルロスが登場した。

「やあやあ!あそこに席をとったから、行こう」

そういって、私のリュックを持って行ってくれる。


「唐草、プレゼンでは何を話すか大体頭に入ってるかい」

そんなことを言いながら、彼は私の準備した資料に目を通すのに忙しい。まるで今初めて目にしたかのようだ。

私は思い出した。

カルロスは週末ずっと海にいた
事前に準備したプレゼン資料を見ているはずがない。

「何にも準備してないじゃないか」

そういいたいのをこらえ、こちらの準備はできていると答える。


待ち合わせ時間から40分ぐらい経って、ロシオがやってきた。
もはや、何のための「事前」集合かわからなくなった。


ところで、2人とも教育学修士を持っているらしい。

私が今回は教育学を専攻せずに、人類学にしたのだというと、
来年やればいいじゃないかと2人が言う。
ただし、公立学校で働くにはスペイン国籍を持たないといけないから、そろそろ変えておいた方がいいんじゃない、国籍?というアドバイスとともに。
電車のチケットを変更するぐらいの気軽さに、笑ってしまった。

クラスが始まるので教室に入る。

結局、打ち合わせはひとつもしていない。
何のための事前集合だったんだろうか。


「ともかく、僕は君がプレゼンしている間、隣に立っているから」

何も準備をしていないが、気持ちは一緒だよという意味だろうか。

カルロスにお礼を言って、席に着く。


なんと、先生がやってこなかった。

1時間半ほど待った後、皆帰ることにした。

なんやこれは。

私の大切な栄養ドリンクをどうしてくれるのだ。

パワーポーズまでやったのだ。

その後わかったことによると、先生は具合が悪く、家に帰ったらしい。

クラスがあるのを忘れていて、連絡できなかった。
クリスマス前に補講しましょうね。

というメッセージが届いた。


火曜日

事前に資料を読んでおく必要があった。

ピエール・ブルデュー

フランス人であるこの方が書いたものを、私はスペイン語で読まなければならない。しかし、全くわからない。


「これ全然わからないんだけど」

ロシオにメッセージを送る。

「私もわからん」

心強い返事が届いた。

クラスに早めに行って、ほかのクラスメートに聞くことにした。

エクアドルから来ている大人の男性がいる。
大変頭がよさそうだ。
彼に聞いてみよう。


「うん?読んでない」

じゃあ、今一緒に読んでくれたまえ!

ひひひと笑って読み始めた彼は、「まあさ、わかるけど、これは難しいよ。僕に難しいってことは、君にはもっと難しいってことだ」と言った。

大学の時に人類学を専攻していたスペイン人たちに聞いてみる。

「ああ、ブルデューはああいう書き方だからいいの。心配しないで」

そうなのか。

ちょっと安心して席に着く。


火曜日の先生は素敵だ。

今日も私はよく考えないままに何やら発言したが、先生は優しかった。

参加することに意義がある。せっかくなら、マイノリティであるアジア人の声も聞いてもらおうじゃないか。
そう思い、毎日前列に座り、言いたいことがあれば手を挙げ、めちゃくちゃなスペイン語でとりあえず思いつくまましゃべってみている。

この日、授業の終わりに先生に聞いた。

自分の研究テーマの候補を話し、アドバイザーになってもらうことはできるだろうかと。

「面白いテーマじゃないの」

先生が言った。

自分かもう1人の先生の専門領域だから、どっちかとやればいわねという。

人類学をこれまで学んでないのなら、少しでも本を読んでおくといいとのアドバイスとともに。

ロシオは今週から授業の内容をパソコンでタイプしたものを私にもシェアしてくれるようになった。それも、毎日である。ロシオに足を向けて寝られない。クリスマスまでの第一学期を生き延びられたら、日本料理をふるまうと彼女に宣言した。

帰りの電車が定刻に来た。
車両の番号も合っていた。
喜ぶ。

水曜日

祝日。

こんなに祝日が嬉しかったことはない。

今週末締め切りの課題に取り組む。
先日のカンフェレンスの内容を受けての考察レポートだ。
カンフェレンスの内容はちっともわからなかったが、2時間の録音をもう一度聞く時間はない。このままだと、1科目にかける時間がとてつもない量になり、毎日の宿題をこなすことができないからだ。

かろうじて少しばかりとったメモを頼りに、大体こういう話だろうと狙いを定めることにした。その合っているかどうかすらもわからない情報を頼りにああでもないこうでもないと述べる。

木曜日

今日はあまり食欲がなかった。

昨日ゆっくり休めていないからだろうか。

いや、違う。叔父から相続関連のメールが来ていて、今月のどこかで大使館に行ってくれという指示があったためだ。叔父がてんやわんやしている。しかし、今の私が平日に学校を休んで大都会マドリードに泊りがけで行くことはなかなか難しい。

そんなやりとりをしていたら、あっという間に学校に行く時間になった。

外に出ると、台風のような風に迎えられた。埃も舞っている。
こういう風が吹く日は、アンダルシア人の気持ちもどんよりしている。


学校に着いて、ボカディージョを食べる。

中学校の教師をしているクラスメートに会ったら、案の定だ。
ずいぶんと長い間、風のことをぼやいていた。


木曜日のクラスはやっぱりわからない。

人類学とどう関係があるかどうかもわからない。

そうはいっても、質問があったので手を挙げる。
最初はなんでそんなこと聞くのとでもいいたげな顔をした先生だったが、結果的に15分ぐらいかけて、きらきらした目で話してくれたのでよいことにした。ほかの学生さんからも私の質問に関連した意見が出ていたのでよかった。

その後、プリントが配られ、これを今読んで討論をしようと先生が言う。

スペイン語で書かれたアカデミックな文書をその場でささっと読み、内容を咀嚼したうえで、自分なりの考えをまじえながら討論することは、私にはまだ難しい。わからない技術的な用語もある。

読み出したが、数分後にあきらめることにした。
私はこういうときの自分のいさぎよさは嫌いではない。

しかし、結果的に討論に参加できなかったことにはかわりない。
残りの時間はくちびるをとんがらせながら、白紙のノートとにらめっこをして過ごした。

ちょっとだけみじめになった。

「唐草、どうだい今日は」

カルロスが帰りに話しかけてきたので、ちょっと疲れたと答える。

金曜日

朝から課題を読む。
来週水曜日のディベートに備えるためだ。
大変興味のある内容で、マイノリティとしても自分の意見をしっかり言いたい。

学校に着いて、ボカディージョを食べる。

この日は、先生がスペインの法律についてしゃべりまくった。
途中で先生の似顔絵をかこうかなと思ったぐらい、先生はアンダルシア男子の顔をしていた。授業については、それぐらいしか覚えていない。

休憩時間に、コロンビアの女の子が話しかけてきた。

「ねえねえ、スペインではさ、いつvosotros(二人称複数)を使うの?」

コロンビアでは使わないからわからなくて、という。

私に聞くのか。

そう思いながらも説明を試みる。

ほかの学生さんからも珍しく話しかけられたが、なぜか私の住んでいる町に対する質問が多く、日本についてはひとつも聞かれない。これからは、もう少し日本をアピールしていきたい。

帰りの電車は50分ほど遅れてきた。
待っているときに、全然違う場所に行く電車が同じホームにやってくるので、気をつけなければならない。

「だまされたらあかんぞ!これは違うとこ行くぞ!」

そんな声がまわりからも聞こえる。
私も気が抜けない。

その後、やっと来た正しい電車に乗ったら、1つの座席に2人ずつ予約されているという現象が起こっていた。

「私の席、178なんだけど」

「え、私も178よ!?」

そんな会話がいたるところで始まっていた。

毎日何かがあるなあと思いながら、電車に揺られる。日本の電車に乗っているときみたいに、うとうとした。多分少し寝た。

しかし、途中で気が付いた。

今日の電車は、車内アナウンスがない。

車内表示には、「駅に着いたらメガフォンでお知らせします!」みたいなことが書いてある。

メガフォンのお知らせなどひとつもないまま、電車がどこかの駅に気まぐれに(そう思えた)とまっては、1分ぐらいするとまた動き出す。

外は真っ暗だ。
さすがに心配になる。

その日の電車により、停車駅の数も違う。

いつ、どうやって、どこで降りるのだ私は。

しかし、そこはアンダルシアだった。


「あんな、今△△駅!あと2駅停まったら、〇〇や!」

誰かが大声で話しているのが聞こえた。


その情報を頼りに、真っ暗闇の中、大声のお姉さんを信じて下車する。

当たった!

お姉さん、ありがとう!!


なんとか2週間目が終わった。

土曜日

朝、ライティングの課題を提出する。
明日が締め切りのものだ。

来週のリーディング課題を少しずつ進める。

2週間生き延びたお祝いに、ハンバーガーを食べた。

夜、学生たちのグループラインのようなところに、次々とメッセージが入る。

「ライティングの課題、カンフェレンスのスライドって大学のホームページに上がってる?」


おそらくカンフェレンスのとき、メモをとっていなかったのだろう。

そして今からやるのか。

「締め切りって、今日?明日も含まれる?」

そんなことを聞いている人もいる。

私がひいひい言いながら1週間かけてやっている課題は、スペイン人にとっては1時間ぐらいで終わるのだろう。

日曜日

ロバに会いに行く。

今日のご飯はキャベツとにんじんと大根。

癒してもらい、帰ってくる。

「ライティングの宿題ってほんまに今日が締め切り?」

そんなメッセージが、グループラインに入る。

スペイン人若者は不思議だ。

観察を続けたい。

ぺパにもらったロシオのネックレスをつけて学校にいっている。
セーターの下につけているので、外からは見えない。
しかし、ロシオと一緒に登校していることで、守ってもらっているような気がしている。

明日は朝から眼科、クラスではこないだやる予定だったプレゼンがある。

「一生懸命」

私が持っている武器はそのぐらいしかないけど、体当たりでぶつかってみよう。Fake it till you become itというではないか。
明日もパワーポーズをして。

にゃー!


ロバ三銃士!

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