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11月歌舞伎座『吉例顔見大歌舞伎』夜の部で、羽織りをウォッチング

夜の部の終演は、9時近く。一幕目の『松浦の太鼓』の小道具に羽織りが出てくるから、というわけではないけれど、館内には羽織り姿が多く、よく見ると薄手のコートだったりして、歌舞伎座に入るには帯つき厳禁というムード。あの、灰色がかったピンク地の縮緬の、肩にだけ手のひら大の葵の葉を散らした羽織りは、着物を直したものかしらと、気になる。

『鎌倉三代記』

さてさて、今回はテレビで見たことのある演目が多かったせいか、初見の『鎌倉三代記』のインパクトが強かった。三姫の時姫。出の浄瑠璃は竹本葵太夫。

入口横には大関の酒樽が!

愛する夫が手負いの姿で現れたり、「夫婦の固めの盃」を拒まれたり、狙われたかと思えば父を殺せと迫られたり。終始、切羽詰まった状態の時姫に、狂気をおびた美しさを感じるのは、梅枝丈の瓜実顔のせいか。顔も首も細い。髪に付けた銀の前ざしが大きい。梅枝丈はお父さんの時蔵丈から、時蔵丈は歌右衛門丈から、時姫を習ったとあった。梅枝丈は35歳。一幕、三幕に女方で出演中の後輩たち、仇討ちを果たそうとする兄を慕うお縫(おぬい)の米吉丈も、静御前をキリリと素敵に舞う左近丈も、自分を見つめ、自分の中に答えを見つけるのだろう。大変なお仕事だからこそ、応援したくなる。

演劇評論家の渡辺保さんが自身のホームページで、時姫について、800字近くダメだししているのを読んだのだけれど、とある場面で、座敷(二重)を横切るまでの時姫と、草履を履いて外(平舞台)に出た時姫は別な相手の事を思っていて、妻と娘、別な顔になっていなければならないのに、と書かれていた。私の趣味の長唄三味線にも、曲の中で「気を変える」というのがあって、上手く行かなくて悩んでいる。時姫の芝居と比べたら、難易度は及ばない。

『松浦の太鼓』

一幕目の『松浦の太鼓』は仁左衛門丈の持つ様々な顔を、一場面に詰め込んだ楽しい演目。南座での公演をテレビで見たけど、歌舞伎座の筆頭家老は猿弥さんになったので、顔を見ているだけで可笑しくてたまらない。松浦候もバカバカバカと、お茶目度アップ。だが、そこには武士としての厳しい顔もあって、美学だけでは収まらず、モヤモヤ。

二重でなく、平舞台だし、句会の座ったままでのやりとりなので、小津安二郎の映画に入り込んだような、これまでにない感覚を味わった。

舞踊三作品

『春調娘七草』で、仇討ちにやって来た曽我兄弟をとめようと、静御前が舞ったのは正月七日の七草の唄。恵方に向かって包丁をトントン叩く厄払い「ナズナ打ち」を「仇打ち」になぞらえてのことだった。実は知らなくて、びっくりした。和やかな歌詞にのって、ツケが大活躍。

『三社祭』は評判通りの迫力。拍手も一番大きかった。巳之助丈が上手いなと思って見ていて、だんだん、どちらがどちらか判別できなくなっていった。これはいい事なのだろうか。

『吉原雀』は長唄の演奏会でも良く聞く曲だが、印象は全くの別モノ。衣装のアイスブルーが新鮮で、歌昇丈は仮花道から飛び出して来るんじゃないかというスケール感があり、この時だけの『吉原雀』なのだとつくづく、思った。

これから、観たい演目

松緑丈の『松浦の太鼓』大高源吾は勢いにのってる感じで、松緑さんの講談の新作歌舞伎を見るか、それとも、浅草で歌昇さんを見るかで迷っている。

最後にNHKの番組『片岡仁左衛門の世界』で、インタビュー中に映像を紹介していた演目を覚え書きしておく。

「近江源氏先陣館」盛綱陣屋の場
「菅原伝授手習鑑」道明寺の場、菅丞相(かんしょうじょう)の役
「廓文章吉田屋」伊左衛門
「女殺油地獄」与兵衛
「悪役の魅力東海道四谷怪談」民谷仁左衛門
「絵本合法衢(えほんがっぽうがつじ)」の武士と町人、悪役の演じ分け
「二人椀久」でした。必見です!

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