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六月大歌舞伎『妹背山婦女庭訓』 舞台の熱気で雨は滝のよう。人生初の雨コート

先週の土曜日に初日を迎えた歌舞伎座。昼の部、中村時蔵丈と梅枝丈の劇中口上が行われる襲名披露狂言『妹背山』を3階席で、観て参りました。歌舞伎座の入口では、「萬屋」の屋号を白く染め抜いた半纏の男性陣がお出迎え。真っ赤な祝幕は千住明の滝の絵。幕が開き切る直前までは片方の腹に腕に貯めておくらしく、少しずつ、幕の開いていく側に美しいドレープの重なりが出来ていました。乱れ飛ぶ「萬屋」「播磨屋」の声。客席には紋付の着物姿を幾人もお見かけし、お祝いムード。いいですね〜

一幕目『上州土産百両首(じょうしゅうみやげひゃくりょうくび)』はスリの正太郎(獅童丈)がなんだか、頼りない幼馴染・牙次郎(菊之助丈)との再会の誓いを果たそうとする。ヒール役のスリは隼人丈です。私は正太郎の話として、観ていました。それに、菊之助さんのピュアなキャラクターが実は初めてで、年末の『嵐の夜に』もこんな感じかしら?

二幕目は長唄舞踊『時鳥花有里(ほととぎすはなあるさと)』。全体が、バランス良く、三味線は控えめ。傀儡師(種之助丈)役にはクルリクルリ、回転する度に別のお面になっている「面替え」があって、予想外に面白かったです。

この演目は『義経千本桜』の道行のひとつで、主役は義経(又五郎丈)と家来の鷲尾三郎(染五郎丈)です。ふたりは都落ちの旅路の途中にひと休み。義経を元気付けようとした三郎が、義経の武勇を舞で語ってみせる(素敵です!)と、三人の白拍子と傀儡師がふいに現れてふたりに舞を披露。実は、彼らは土地の神様のお遣いであった。という話です。結末、義経らは、彼らに教えられた次の目的地へ向かい、旅立つのでした。

いよいよ、三幕目『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)』。政岡を観た後だったので、堅い話を想像していたのですが、ちょっと違いました。ひとつめは仁左衛門丈の口上です。書き込みで、ハプニングのエピソードをちょこちょこと見ますが、私が見た日は、繋いだ手をはなそうとしない梅枝くんをニザ様、押してました。絶対に押してました。『松原の太鼓』の、馬から落ちる場面に次ぐ「私は見た!」です。

滝、別アングル!

そして、赤い長袴の官女太刀を立役が務めるという「いじめの官女」が見所があるんです。ごっつい官女が八人。全員、小川家の立役なんですって。親戚なんです。特別な配役だったんですよ。で、恋人を尾行し、御殿の庭をうろついていたお三輪(時蔵丈)がお仕えする姫君の恋敵と知るや、かわるがわるいたぶるのです。歌昇さん、今日も元気でした。床をバンバンやって、お三輪を脅すんです。

そんな最中でも、お三輪は屋敷の中に恋人・求女(もとめ・萬壽丈)の気配を探しているんです。一心に奥を覗く姿はとても、美しかった。その後もさんざんな思いをした挙句に、取り残されて「もう、帰ったほうがいい」「これで、あきらめるわけじゃないのだ」と自分自身を嗜め、花道へ。いくら、理性が促しても、帰りたくはない。わかっているけど、できない。そのリアルな感情に「ああ、こういうことあるのよね」と共感しました。

その後、話は急展開するのですが、私としてはここでもうひとつ何かが欲しかったんです。義太夫狂言は話の流れが激流で、テレビの感覚では観られません。生々しくならず、歌右衛門のように、何処かに絵空事の部分があって欲しいんです。歌舞伎らしさと納得感のハザマで、揺れています。私は歌舞伎に何を求めているの? とにかく、美しく、素晴らしいお三輪でした。#舞台感想

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