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三月大歌舞伎『身替座禅(みがわりざぜん)』で歌舞伎デビュー

着物や帯の織元さんと話すチャンスがあっても、着物の話をするには自信が必要だ。そんな私の言い訳は「三味線を習っているんですけど」。

そして、目の前に並ぶ、凝った柄の小紋(こもん)への言い訳は「着ていく場所が、三味線の発表会だけなもので。ウフフ…」

すると、北国の織元さんは笑って言う。

「私のトコは冬場、雪ばかりでしょう。着物で出かけようとしたら、近所のひとから『今日はお祝い事ですか』と聞かれてしまいますよ」

そうか、穏やかな天候だけでも、雪国の着物愛好家から見れば、贅沢なのだ。

コーディネートのハウトゥ本を見ると、着こなしに相応しいお出かけ先が、具体的に設定されている。

例えば、『秋月洋子のおでかけコーディネート帖』に登場する十二カ月のお出かけ先を箇条書きにすると、バレエ鑑賞、梅見、着物女子会、銀座のブランド店、寄席、邦楽演奏会のお呼ばれ、屋形船、歌舞伎、下町歩き、結婚披露宴、鎌倉の美術館、夜景の見えるのバーであった。

スタンプラリーのように、ひとつひとつ、お出かけしてみても良いのかも?

ちなみに、私が木綿着物で経験済なのは梅見(菊だけど)と下町歩き。ハイブランドのショップには行けそうにないけど、演奏会のお呼ばれなら、任せとけである。ドレスコードをチェックしに、国立劇場へ足を運んだ。

イベント名は『長唄協会、春季定期演奏会』。流派のお家元が勢揃いする、濃い〜い演奏会である。

客席にお弟子さんが多い中、私が気になったいくつかの和服姿は、裾に花弁を散らしたピンク系の付け下げ。刺繍や箔(はく)はなく、ヘアースタイルもショートだった。最後列に座った七十代の方はワインレッドの色無地。裾を股の間に挟んで腰掛ける仕草も、場慣れしていた。グレイヘアに「泥大島(どろおおしま)」の軽快な物腰の女性は、お太鼓に黒猫がすまして座っていた。実はニャンニャンニャンの猫の日だったのだ。

予想以上にカジュアルで、名古屋帯でいいのかもしれない。どこぞの呉服屋さんで「お琴の演奏会は、袋帯でないと」と聞いたが、同じ三味線方でも、三曲は別らしい。

それでは歌舞伎ならどうかと、東銀座にそそり立つ歌舞伎座を訪れてみた。

フツーの昼公演なので、これまたカジュアル。訪問着が多いようだけど、木綿以外はなんでもアリな感じ。ただ、いいお席は、いいお着物である。

また、舞台まで続く花道脇のお席は、上を歩く役者さんにコーディネートをアピールできる。

私の見た公演には外国人のグループが座っていて、酔った演技でやって来た尾上松緑さんが、派手にすっ転んで、脇の客席がワォ〜と盛り上がっていた。

歌舞伎には、生ならではのやり取りがあるようだ。推しの歌舞伎役者さんが、考え抜いた着物コーデに目を留めてくれたら、とても嬉しい。

なんて、道のり遠いけど、一歩前進。

歌舞伎座の三月大歌舞伎には、能狂言「花子(はなご)」を元に作られた舞踊劇『身替座禅(みがわりざぜん)』があった。

恐妻家と浮気夫の喧嘩を、代わる代わるに奏でられる常磐津と長唄にのせて、コミカルな踊りで表現する。

振り付けで情景や心情を描写をするのはバレエにもあるけれど、こんなドタバタ劇は、お笑いのコントのよう。

今回、出演者の変更があったとかで、召使いの太郎冠者を演じてきた、ひと世代の下の役者さん(尾上松緑さん)が、大名・蔭山右京(かげやまうきょう)の役を務められ、色合いの優しい衣裳や、持ち帰った花子の羽織の、丸みを強調した枝垂れ桜の刺繍がとても、お似合い。のびのびと、愉しげ。

地下二階の木挽町広場では、主役の衣裳の柄が、絵画になって展示販売されていて、ブロマイドと共にチェックして帰ったりして、楽しかった。

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