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心にもくもくと

思えば、いぬうた市の真夏の雲はキレイでした。
入道雲と言うんでしょうか?
青い空にもくもくと存在感を主張しながらも、
清らかで爽やかな印象を与える、あの雲は、
きゅん君の憧れの対象でもありました。
なので今年の夏は、暇さえあれば、
暑い自宅のベランダの日向をかいくぐって、
ぼんやりと湧き立つ白い雲を見ていました。
雲を見ていると、地上での小さいことが、
全部バカらしく思えてきたからです。
自分の心があんなすっきりとした、
白い雲だったらいいのになあ。
8月最後の今日も、きゅん君は、
そんなことを思いながら、空を見上げていました。
そこに、たまたま、ベランダ前の廊下を、
ぐーちゃんが通りがかったので、
ふと、きゅん君は、ぐーちゃんに、尋ねてみたのです。
「僕の心はあんな雲のように白いかなあ?」
別に答えを求めるでもなく、半ば軽い気持ちで、
きゅん君は聞いてみたつもりでしたが、
ぐーちゃんから返ってきた答えは意外な言葉でした。
「どうなのかしら。ぐーにはよく分からないわ。だいたい、きゅんにあの雲がどうゆう風に映っているか、ぐーには分からないし」
そんな風に、ぐーちゃんは答えたのです。
「分からないかなあ?でもあの雲は白いでしょ?」
「白いけど、きゅんが思っている白と、ぐーが思っている白が同じだなんて誰にも分からないじゃない?ぐーが言いたいのは、比較することに意味なんか、ないっていうことよ。ただ白くなりたいと思っていれば、それでいいんじゃない」
ますます、ぐーちゃんの言ったことは、
よく分かりませんでした。
だいたい本当に、ぐーちゃんが、
言っていることなのでしょうか?
目の前にいるのは確かに、ぐーちゃんに見えますが、
いつもの、ぐーちゃんと、言ってることがまるで、
真逆の難しいことだらけです。
すると、きゅん君の気持ちを読んだように、
ぐーちゃんに見える存在が言いました。
「今の、ぐーがいつもの、ぐーと同じか、同じじゃないかも、誰にも分からないわ。きっと誰も何も分かっていないんじゃないのかしら」
そう言って、ぐーちゃんに見える存在は去っていきました。
きゅん君は、全く訳が分からなくなってしまいましたが、
もくもくとした白い雲を見ているうちに、
分からないことが分かったから、それでいいじゃないか。
と、いう感情が心にもくもくと湧き立って、
気持ちはちょっとだけさっぱりとして、
きゅん君の8月は終わりました。

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