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紫陽花と河童に水を

いぬうた市は梅雨が予定より大幅に早く明け、
連日猛暑で雨が降る気配が微塵もありません。
きゅん君も、ぐーちゃんも、
朝の散歩は早く、夜の散歩は遅く行くなどの工夫により、
何とかこの暑さをしのいでいます。
今日もやっと夜になり、夜の散歩も終わり、
夕飯も食べ終えて、ほんの少しだけ涼しくなって、
ホッと一息つく時間です。
きゅん君はベランダに行って、夜風に当たっています。
さしずめ、ぐーちゃんはもう寝ているのでしょう。
家の中がやけに静かです。
ぼんやり、きゅん君が涼んでいると、
急にベランダの塀の外の暗闇の中から、ニョキっと、
顔を出すモノがありました。
きゅん君はビックリして言葉も出ません。
すると、きゅん君の恐怖に追い討ちをかけるように、
それが喋りました。
「お、お水をもらえませんか?」
きゅん君はもう怖くてどうしようもなくて、
近くにあったホースを前足で持って、
水道の蛇口をひねり、勢いよく、それに水をかけたのです。
きゅん君としては水をかける行為は、恐怖から、
それを追い出そうとして、咄嗟にやったのですが、
結果的に、それの要求に応えた形になって、
それは、
「ありがとうございます。おかげで生き返りました」
と言って、下に引っ込みました。
そんな、きゅん君の恐怖体験を翌朝、ぐーちゃんに話すと、
「ぐー分かった。それはきっと河童さんね。それさんの色は何色だった?」
ぐーちゃんの推理と捜査が始まりました。
「暗かったから、よく分からなかったけど、全体は緑だったかな?でも中心の顔みたいなのは青かったような」
きゅん君が、ぐーちゃんの質問にそう答えると、
「やっぱり!ぐーの推理通りだわ。河童さんは緑だもんね。で、顔が青かったのは、ここのところ雨が降らなくて衰弱してて、顔が青かったのよ。どう?この、ぐーの完璧なプロファイリングは?あとはこの推理を裏付ける証拠が必要ね。事件現場には必ず解決への糸口が残されているものよ。現場百遍と言う言葉もあるわ。早速行ってみましょう」
ぐーちゃんは、すっかり、きゅん君の見たモノを、
河童と決めつけて、それも犯人扱いした挙句、
飼い主にジェスチャーで頼んで、
いそいそと、ぐーちゃんの言うところの、
犯行現場の庭に向かいました。
「きゅんが2階のベランダの塀の外から出てくるというのを見た。ということは庭でいうとこの辺だわ」
と、ぐーちゃんはある箇所を前足で指指します。
すると、そこにはまだ咲いている紫陽花がありました。
「あっ!」
突然、きゅん君が何かに気付いて叫びました。
「これだ!紫陽花だ!最近、雨が降らないから、水が欲しくて、僕に助けを求めて、がんばって2階まで茎を伸ばしたんだよ!」
その、きゅん君の推理を聞いた、ぐーちゃんは一笑して、
「紫陽花さんが勝手に伸びて、喋る訳ないじゃない。ホント、きゅんは常識がないわね。それよりも証拠よ。河童さんはキュウリを食べながら犯行に及んだろうから、何処かにキュウリの食べカスが落ちているハズ」
と、きゅん君の推理を鼻も引っ掛けず、
河童犯人説に邁進して、
証拠探しに勤しんでいる、ぐーちゃんです。
さて、一体どちかの説が正しいのでしょうか?
いずれにせよ、そろそろ雨が降って欲しいものですね。

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