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夏色のサイダー

一人娘がまだ小さかった頃、休日には暗渠の上に続く細長い公園を訪れるのが私たちの定番だった。かつて川が流れていたというその場所は数キロにわたり、娘にとっては憩いの場であり、特別な冒険の舞台でもあった。
道中、娘はひらひらと飛ぶモンシロチョウを追っかけたりしながら、ご機嫌に歩いていく。道端に咲く花々や草木を興味津々に観察し、小さな手で触れたり、顔を近づけて匂いを嗅いだりしていた。時には、地面に落ちたドングリを見つけ、それを宝物のように大事に握りしめていた。そういえば、あの頃は、娘が拾った木の実や落ち葉を入れるために、白いスーパーのビニール袋を持ち歩くのが常だった。袋に詰め込む娘の姿は、まるで小さな探検家のように見えた。

公園の途中にある小さな滑り台を、娘は何度も滑り、そのたびに無邪気な笑い声が夏の空気に弾けた。そんな娘を見て、公園沿いの家に住むおばさんが庭先から微笑みながら顔を出し、「ほっぺた真っ赤にして、可愛いね」と声をかけてくれることもあった。

昼になると、近くの弁当屋で買ったお弁当を広げ、二人でピクニック気分を楽しんだ。娘はいつも「お父さん、三ツ矢サイダー買って!」とせがみ、食後には必ずその三ツ矢サイダーで乾杯するのが私たちの恒例だった。シュワシュワと弾ける炭酸の音と、娘の笑顔が、夏の暑さを忘れさせてくれた。

あの頃は大変なことも多かったが、娘との穏やかな時間は、私にとってかけがえのない宝物だ。今でも夏の暑い時期に、三ツ矢サイダーを飲むと、当時の思い出が、優しい温もりとともに、鮮やかに蘇ってくる。

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