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『流浪の月』(凪良 ゆう 著)

※ネタバレします。


【内容】
母に見捨てられた更紗は、母方の伯母の家に引き取られたが、伯母の息子から性的な虐待を受けていた。
公園で小学生からロリコンと呼ばれる19歳の文は、帰りたくないという更紗を自分のマンションに招き入れる。更紗は文のもとで2か月を過ごすが、更紗の希望で文といった動物園で通報されることで2人の共同生活は突然の終わることとなる。
その後、施設に預けられた後に一人暮らしを始めた更紗は、刑務所から出所後に隠れ家的な喫茶店をマスターをする文と再開するのだが…


【感想】
ラスト数十ページで一気にドライブが掛かり、それまでの行動の意味がひっくり返っていく…
流石に本屋大賞受賞作といったラストの盛り上がりは、普段あまりこうした本を読まない自分でも、面白く読めました。
ラストの展開とタイトルもリンクして、読み終わった時の印象が変わるのも、上手いなあと感じました。

正直、小説の中盤あたりまでは、登場人物に共感も出来ないし、色々なシュチュエーションや展開もツッコミどころ満載過ぎて、途中何度か脱落しそうになりました。

自由奔放なシングルマザーに置き去りにされ親戚の家で性的虐待を受ける8歳の更紗…
更紗を自分の部屋へと招いた奔放厳格な親に育てられた不器用な大学生の文…
不器用な2人は、互いの不足したものを補い合うように短い共同生活を始める…
どうせ禁断の恋、しかもプラトニック的な感じで、女子にとって都合の良い感じのイケメン男子が、女子をキュンキュンさせるようなシュチュエーションや行動をして行き、ラストは幸せに結ばれたり、悲劇で終わったりするんだろうなあ…などと斜に構えた見方をしていました。
まあ、半ばそういった展開といえば言えるのですが、その予想のかなり上、というか斜め上をいく展開となり、良い意味で自分の至らなさを感じられました。
自分の肌には合わないテイストの小説でしたが、それを越えて楽しめた作品でした。


あと、映画『万引き家族』も、子供の連れ去り(?)と、疑似家族の話という面では共通しているなあと感じました。
あの映画も、どこかお伽話のような現実感のなさがありましたが、役者や演出で上手くそこら辺のカバーしていたんだなあと、改めて感じたり…


後でネットでこの作家さんのことを調べたら、元々BL小説を書いていた人だとのことでした。細やかな感情表現や心の動き、人と人との些細なエピソードの積み重ねで、読ませるのはBL小説とかで蓄積された力なのかも知れないなあと感じたり…


とは言え、個人的には色々と言いたい…
頼りなさげな長身細身の繊細な大学生、そして年齢不詳な青年ということで、何か色んなものから免れているなあと…年齢不詳のイノセントなイケメンという免罪符…
自分の中の男性性の象徴が文ならば、途中出てくる悪き男性性の象徴が更紗の彼氏の亮で、暴力はするわレイプはするは…
彼も問題はあるとは思うが、ただの悪役的なポジションとなっていて書割的な感じもしたりもしていて、色々と気になったりもしました。

それから、ケースバイケースだとは思うけど、女の子に癒されるという文の部屋には、ロリコンものの写真とかポスターはないとかといったことも、作者にとっての都合の良いキャラクター造形の仕方になっているのではとも感じしました。
危うくなりそうなになると、都合の良いシュチュエーションや展開で、ある種の理想な感じになっていく…別に良いのですが、男性の自分から見ると色々と引っ掛かる部分がありました。

これ、男女逆転させると、出でくる女性はかなりな部分があって、そこは免罪されてしまうんだなあと…
シングルファーザーの男親が8歳の娘を置き去りにして、新しい彼女と一緒に出ていくとかって話にしたら、こんなに登場人物の行動は免罪されるのだろうかとか…

文のみうな細身の中性的な美男子の青年が少年院に入れられて、性的虐待に遭わなかったのか?
また、繊細な彼が心の傷が残ることはなかったのか?
最近の少年院はかなり良くなっていて、問題なかったのかも知れませんが、彼の中でその期間、その後の人生に影響を及ぼさなかったとは考えにくいのではないか?

この設定で、男性が書いていたり、漫画の青年誌だったりしたら、マッチョな展開になっていたり、エグい展開になっていくのだろうなあと思いながら読んでいました。
少なくとも、小説のあのラストの後、更紗は新たな愛を見付け旅立っていく…みたいな形が、彼女の母親や友人のやってきたことから考えると自然な形であるのだろうと思ったりもしました。更紗の母親は、更紗の成長した未来の姿であったりもするのだから…
文という存在は、更紗にとって、更紗の父親であり子供時代の更紗そのものなのだから…

物語としては、かなり酷いものとなり、本屋大賞を取るような物語ではなくなるかも知れませんが、その方が人間本来の持っている業のようなものを描けるのではないかと…
そもそも、この物語のテーマの一つである抑圧された要望の開放というテーマとして、更紗の開放の一つの形態が文との共同生活であり、それはやがて役割を終えるものなのではないか?

とはいえ、この危ういバランスで、このテイストの物語を成立させてるのが、この作家さんの腕ということなのだとは思います。このキャラクターや設定、小説の構成などが組み上がった時に、これはいけると感じたのだろうなあと思ったりもしました。

※画像は、生成AIで作成しました。

https://www.amazon.co.jp/流浪の月-凪良-ゆう/dp/4488028020?nodl=1&dplnkId=aeca9870-42d3-42bf-96b7-d765c9ca139d

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