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出るとこ出ますよ(3) 相手方からの抗弁 一般市民の民事裁判初体験記【24】自転車は空を飛ばない

ここまでのお話

隣家との争いは、弁護士同士の交渉が決裂。舞台は、ついに法廷へと移っていきました。先手はこちらから。訴状を出しました。訴状は裁判所に受理されて、相手方に当方の訴状が届きました。次は、相手方からの一手となります。

前回のつづき・・・

 隣の家に、当方からの訴状が届く。日常生活を送っているとどうしても顔を合わすことは避けられない。この書状を通して、会話をするような独特な感じ。なかなかシュールな展開であった。
 Y氏は明らかに、当方に敵意の視線を投げかけてきていた。口を開かなくても醸し出す雰囲気で分かるものである。
 Y氏にすれば、弁護士を送り込んで、一旦は妻のメールで一件落着と思っていたら、逆に弁護士を立てられて猛反撃を食らう。

 Y氏は、自分の弁護士には、スポット契約のような感じにしていたとしたら、追加対応の度に費用は発生していたのではないか。
 弁護士さんは嫌がる表現だろうが、この商売、揉めれば揉めるほど儲かるのである。着手金という形で料金を取るのなら、どれぐらい手間が掛かるか分からない案件はどうしても料金を取っておかないといけなくなる。

 うちのS弁護士は着手金20万円で引き受けてくれたが、正直、最初はそんなにするのかと思った。しかし、その後の手間暇を考えると、「よく引き受けてくださった」と私たち夫婦の気持ちも変わっていった。この事案は簡単には終わらなかった。多額の損害賠償金を取れることが見込めるのなら、着手金も成功報酬も相応に取れるのだろうが、こういう案件ではそれは望めない。ありがたいことであった。

 さて、当方の2018(平成30)年2月6日付訴状に対して、相手方から2018(平成30)年2月27日付で、答弁書が送られて来た。

 向こうが言って来たのは、

 当方
1. 被告は、原告に対し、金12万4220円及びこれに対する平成29年10月4日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え
 
 に対して、原告の請求を棄却すると来た。

2. 訴訟費用は被告の負担とする
 に対しては、原告の負担とすると来た。

 あと、請求の原因に対する答弁というのがあったが、向こうが言い返して来たのは、これまでの主張と同じで、

原告主張の修理代104,220円の修理には、本件事故以前に生じていた損傷の修理代相当の26,730円も含まれている。従って、本件事故による修理代金は104,220円から上記26,730円を差し引いた77,490円である。

こういうことであった。平行線状態を裁判所で再現する構えである。

さぁ、そういう主張をするのならあちらはどういう証拠を出して来るのかと思いきや、相手方が出して来たのは次の2つであった。
当方(原告)が「甲」なので、相手方(被告)は乙となる。

乙1号証 図面
乙2号証 概算お見積書

なんてことはない。2つとも妻がY氏に渡したものである。

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 見積書は、①104,220円のものと②32,490円の2種。①は、本件の修理代。②は従前の傷の分。①の104,220円の金額をそのままもらってもいいものを、妻は乙1号証の図面を使って説明し、重複するところはないわけではないからと無理に理屈を付けて、77,490円でいいですよと提案したのだ。

そして、求釈明として、下記の点について原告にて具体的に明らかにされたいと書いて来た。

1. 乙1号、2号の各証は、原告妻が被告に交付したものであることに相違ないか。
2. 両書面の手書きの文字は、誰が記載したものであるか。その経緯如何。

要は、「お前の嫁さんが、Y氏にそう言っただろ」と主張して来たのだ。

乙1号証の104,220円の見積書には、妻の手書きのメモ

3240+7020 10260×1/2=5130
64800×1/3=21600   △26730

104220-26730=77490

これが記載されていた。

今にして思えば、妻は前の傷の分32,940円でするから104,220円の分を今回分としてお願いしますとしておけば、こういう主張をされなかったのであろうが、気を遣って減額した。それも口頭のみで、「ご近所のよしみもありますから、10万超えるのも大変でしょうから、8万円ぐらいでお願いできますか」としておけばよかったのかもしれない。それを彼女は、お金のことだからと、相手が負担に感じないようにと理屈をつくって、しかもご丁寧に数字でメモを書いて残してしまったわけだ。もちろん、娘と一緒に行って、「重複部分がないわけではないから」と、図を使って、説明をしている。しかしながら、その説明内容をY氏は全く聞いてはなかったのだ。そして、残してしまった数字と図面を後でこのように悪用されることとなってしまった。

妻にしてみたら、まさか、こんな形で、返されるとは夢にも思っていなかった。妻にしてみれば、良かれと思ってかけた好意が全部裏返されて攻撃されるという想像もできなかった最悪の結果となっていた。

Y氏は、妻の気遣いに対して、「えっ、それでいいの?すみません」というタイプの人間ではなかったのだ。これはあとから分かったことだが、バンパーの件であったように、証拠を示さず、「当たった!」というタイプの人間なのだ。相手を見ながら、弱いと見るや、ハッタリぶちかまして、強気に出る。

私たち夫婦はまさか隣人がそういうタイプの人だとは思わなかった。まぁ、こんな人間性の深い部分はなかなか分からないことではあるのだが。

 相手の弁護士は裁判所が受け取れるように適当に書類をつくっているだけだった。原告の私が、被告のY氏に104,220円には従前の傷の分32,940円が入っていたと示していたという証拠をださないといけないのだが、この法律家はそういう努力は一切していなかった。汗をかかずに書類を適当につくるだけで、高額な報酬をもらえるのだから楽なものである。

 あれから3年経った今。この状況を見ると、Y氏も経済合理性を失っていることがよくわかる。77,490円ではなく、104,220円を素直に支払っておけば、Y氏は26,730円を追加支出するだけで済んだのが、訴訟になってしまって、多額の弁護士費用が発生している。訴訟に勝ったとしても、得られる利益は26,730円だけの話だ。弁護士費用を考えると、収支は大きなマイナスだ。

 経済合理性では何とも語れない様相を呈して来たのであった。

明日へつづく


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