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突然、弁護士がやって来た(2) 一般市民の民事裁判初体験記【10】自転車は空を飛ばない

 うっかりでやってしまった事故。誠意をもって賠償すればなんてことはなかったことでした。手前味噌ですが、相手方(つまり私ども)は、事を荒立てることはしないで、今後のご近所付き合いを大切にと思っていたタイプ。

 どこをどう考えてこうしたのか分かりませんが、Y氏が採ったのは代理人を担う弁護士に依頼して、相手方に差し向けたこと。この弁護士が、稀代の火付けの名人だった(本人はそうは思っていないが)とは、この時のY氏は露ほどにも思っていなかったでしょう。

 前回よりのつづきです・・・

 K弁護士が引き揚げたあと。その日の深夜。妻は悩んでいた。 

2017年11月9日(木)23:59
K弁護士の突然の訪問。言い掛かりに等しい理不尽な要求。その日、帰宅してからも沸々と湧いてくる怒りに耐えながら、妻の胸に去来したのは、こんなにややこしくなってきた厄介ごとを早くに収めることであったようだ。

 意を決して、妻はこの日の深夜、一本のメールをK弁護士に打った。

【メールの内容】

 ●●法律事務所
 K〇〇さま

 お世話になります。
 ご連絡させていただきます。

 ・敷地の件
 車・自転車の停める位置を変え、Yさん方にご迷惑をおかけしない
ように対処いたします。

(尚、平成25年〇月にとりかわしました覚書第4条項目(1)はさて
おきまして、(2)につきましては有効であると当方は認識しておりま
す。Yさんにもご確認いただければと存じます)

・草木の件
こまめにチェック、剪定しご迷惑をおかけしないように対処いたし
ます。

・塀の件
当方、Yさん方の敷地に入らぬように今後対処いたしますので、折
半にての塀の設置については同意のお返事はできません。が、Yさ
んの敷地内にYさんの方で設置されるのであれば当方は何も申し上
げません。

・当方の車の件
こちらの実費にて修理いたします。
修理期間中の代車の代金につきましても当方で負担いたします。

どうぞよろしくお願いいたします。

△△(妻の署名)
【メールの内容 ここまで】

 あれだけのことを言われながらも、事を荒立てずに、妻はこの事態を収めようとしていた。それにしても譲歩しまくりの回答である。

 草木の件については、誤解のないように事実関係を補記しておく。
 確かに当方の草木が伸びて、隣家のエリアに入ったことはある。しかしながら、草ぼうぼうといったようなことは断じてない。妻はこまめに気づく度に、ハサミで剪定をしていた。妻が「すいません。切りますので」と声を掛けたら、Y氏が「そんなん、ええよ」と機嫌よくそう言ってくれていた様子を私はこの目で見たことがある。Y氏側の草木がこちらのエリアに入ってきたこともあった。この件については、お互い様の精神で、これまでは問題になっていなかったのである。とはいえ、当方の草木の伸びの勢いがよすぎて、妻のこの対応でも、間に合わないことが出てきたので、2017年6月に、知人の庭師の方に来てもらい、我が家の庭の草木は、バッサリと刈り取られたのであった。

 この経緯があるので、その後半年程経った11月に、このことを材料として持ち出して来る感覚には驚いたとともに呆れた。こんな後出しジャンケンがあっていいのか。

 メール文中に出て来る覚書について記しておこう。
実は、平成25年(2013年)に、Y氏はこの住宅を売りに出そうとしたのであった。その際に、Y氏の働きかけで、私たち夫婦とY氏で、協定書たるこの覚書を締結したのであった。お互いに変形している宅地だったので、売り易くするためにも必要だったのであろう。(売却の話はこのあと、Y氏の事情が変わったのか立ち消えになったが、覚書は有効である)

 メール文中の
(尚、平成25年〇月にとりかわしました覚書第4条項目(1)はさて
おきまして、(2)につきましては有効であると当方は認識しておりま
す。Yさんにもご確認いただければと存じます)

 この文章の意味であるが、覚書には、

 第4条 甲および乙はそれぞれの所有する土地を相手方が、次の各
項に記載された権利を有することを認める。
(1) 甲および乙は、各自のカーポート利用時において自動車
乗降の際、互いに相手方の土地を利用する場合があるこ
と。 
(2)甲および乙が各自の建物内へ大型荷物搬入の際、互いに
 相手方の土地を利用する場合があること。

妻はここまでは言及はしなかったのであるが、この覚書の第5条にはこう記述されている。

 第5条 甲および乙は通行等空間確保のために、別添地図朱線部分
ブロック塀等一切の構造物を建築しないものとする。

甲2号証 - コピー (2) - コピー - コピー

   
 甲は私たち夫婦。乙はY氏である。覚書には、三者の署名と実印捺印がある。

 妻はK弁護士が帰ったあと、この覚書の存在を思い出していたのである。読者の皆さんはお気づきになられたのではないだろうか。これによると、塀を立てる要求は覚書に反するである。そう考えると、甚だ無茶苦茶な要求ではあるのだが、本人たちは、全くそう思っていない。

 これ以上あり得ない配慮の塊のような妻が送ったこのメールが、後日、裁判所に、当方がY氏に迷惑をかけ続けていた証拠書面としてK弁護士から提出されたのである。そんなことになるとは。私たちは夢にも思わなかった。
弁護士に書いたものを送ってはいけない。これが第4の教訓だった。

 弁護士に送る文書は弁護士につくってもらわないといけない。法的紛争は文章での戦いでもあるのだ。これは、私たち夫婦が後に思い知ったことだ。

つづく


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