出るとこ出ますよ(8) 第4回期日 法廷決戦・当事者尋問(1) 一般市民の民事裁判初体験記【29】自転車は空を飛ばない
ここまでのお話
原告の私と被告のY氏ははじめて直接、法廷で対峙することとなりました。いよいよ雌雄を決する最終決戦のはじまりです。
前回のつづき・・・
2018(平成30)年7月23日 第4回期日 当事者尋問
法廷はテレビドラマで出て来る法廷シーンのあの風景通りであった。
中央に裁判官が座り、その前に書記官が座っている。裁判官から見て、右側が原告席。左側が被告席。原告と被告は向き合う形になっている。
傍聴席には三人が座っていた。妻と娘と義母である。そう、K弁護
士と対峙した三人組である。彼女らはK弁護士とは2回目の対面。私ははじめてである。傍聴席にはこの三人のみであった。Y氏に応援団はいないようであった。
原告・被告と二人並んで、嘘を言わないという旨の宣誓をしたあと、
夫々、署名捺印して、夫々の席へ。
尋問の進め方は、まずは原告代理人から原告へ尋問。次に、被告代
理人から被告に尋問。そのあと、原告代理人から被告へ尋問。次に、被告代理人から原告へ尋問と進む。この工程が終わって、必要があれば、裁判官が尋問するという流れであった。
S弁護士から釘をさされていたのは、法廷ではくれぐれに静かにということであった。相手方のあまりの言い分に怒りでつい声が出てしまうということはよくある話なのだそうだ。
このことが本当であることを、この法廷で、私と傍聴人三人組は実感することになる。
答弁の方は、当日は落ち着いて臨むことができた。死ぬほどレベルまで練習をすると、体に深く染み込むものだ。S弁護士が訊いてくる前に、その問いかけの内容がスラスラと分かる。もちろん、答弁も落ち着いてできる自分がそこにいた。
ちなみに、答弁の仕方にも注意事項がある。一問一答方式ですることだ。訊かれたことに派生させて、沢山答えてしまうと、裁判官が分からなくなるということだそうだ。ついつい感情があふれ出て、「お奉行様ぁ、聞いておくんなせぇ」となってはいけないのだ。
原告代理人つまりS弁護士が原告つまり私に行った尋問の受け答え
の様子をここに再現する。なぜ3年経って再現できるかというと詳細な記録(実は準備メモ)が残っているからだ。それだけの準備をして法廷に行ったのである。
まずは陳述書の作成経緯から入る。
・この陳述書の署名押印はあなたがされたものですか
→はい
・どのように作成されたものですか
→私の話を弁護士が聞き取って内容をまとめたものです
・内容の訂正はありますか
→いいえ、ありません
次に接触に関して
S弁護士は事故発生の様子を浮かび上がらせる
・Yさんの車と○○さん(私の名)の車の接触は、いつ発生しまし
たか
→10月4日です。
・どのように知りましたか
→10月4日から9日の間に△△(妻の名)から聞きました。
・Yさんの接触の件で直接話をしたことはありますか。
→はい
・Yさんはどのように言っていましたか
→Yさんが、修理費用について、保険を使うか実費で払うか損得を考えているのでもう少し待ってと言っていました。
そして、本件核心の修理費用に迫っていく。裁判官にこちらの言い分をどう認めてもらうかの戦いだ。
・甲5号証(本件損傷の概算見積書)を示しながら、修理費用見積りはどの傷を修理する際のものですか。
→Yさんに当てられた部分の傷です。
・甲3号証(車両傷の写真)を示しながら、Yさんに当てられた傷はどの部分ですか
→黄色の枠で囲まれているところです
・○○さんの車には、Yさんが当てた以外の傷もついていましたか。
→はい。
・それはどれですか
→小さいので、この写真には写っていません。
・肉眼では見えるのですか
→はい
・どの当たりですか
→黄色い枠の外で、枠の左側です
・甲5号証(本件損傷の概算見積書)の見積りには、元々の傷の修理費用も含まれていますか
→いいえ
・なぜそのように言い切れるのですか
→Yさんによる傷と、前からの傷の分を分けて見積もりをもらっていた からです。
ここまでで、当方が請求金額に前の傷の分を入れていないことを主張した。次に修理金額についてである。
・△△さんがYさんに、77,490円を支払ってくれたらいいという提案をしたことはありますか
→あるようですが、私はその当時は金額までは把握はしていませんでした。
・少し低い額を提示するということは知っていましたか。
→はい。
・その理由はなんでしょうか?
→主婦感覚で、Yさんにとっても10万円超えるのは厳しいと思うので、今後のご近所付き合いも考えて、うちで負担して下げることで、円満に解決できると妻は考えたようです。
・77,490円という金額を知ったのはいつですか
→11月11日 Yさんに弁護士が就いて当方に来訪した報告の後で、初めて詳細な金額を聞きました。
・△△さんが提示した77,490円の根拠はどのようなものでしょうか。
→△△の説明によると、特に根拠はなく、8万円程度になるように、色々計算したようです。
・乙2号証(本件損傷の概算見積書(△△のメモが書いてある))を示しながら、計算の中で、ウィンドスロットルシール取替の費用を2分の1ずつ折半となっていますが、この費用は元の傷にも修理にも必要なのでしょうか。
→いいえ。
・必要でないということは、誰から聞きましたか
→見積もりをしたディーラーさんです。
・どうして必要ないのでしょうか。
→ウィンドスロットルシールというのは窓枠のゴムのことで、元の傷は小さいので窓枠のシールまで手を付けなくても修理出来るのですが、Yさんによる傷は大きめなので窓枠のシールまで手を付ける必要があるということでした。
・塗装費用は重複しますか。
→わずかにあるということでした。
・金額にするといくらぐらいですか。
→本当にわずかなので。数字にできるものではないという説明でした。
・○○さんは、77,490円の支払いを受けるという内容で解決する考えはありましたか。
→△△がこの話をYさんにして、その時にYさんがすんなりと払ってくれていたのであれば、それ以上は請求しなかったと思います。
・今、その内容で解決する考えはありますか。
→いいえ。
ここまでで、当方の請求金額が確かな裏付けをもとに、算出されていることを主張する。
ここからが相手の理不尽さのあぶり出しだ。
・どうしてですか。
→Yさんが塀を建てたいとか自分の車のバンパーが傷つけられた
などと言って理由を付けて支払いを拒む態度が許せないのです。
・塀の建設はなぜ許せないのですか。
→まずは修理費用を支払ってから言うべきだし、覚書にも反します。
・甲1号証(土地の越境部分に関する覚書)を示しながら、覚書はこの書面を指しているのでしょうか。
→はい。
・これの何条に反しますか。
→5条*です。
*第5条 甲および乙は通行等空間確保のために、別添地図朱線部分にはブロック塀等一切の構造物を建築しないものとする
・覚書は何のために作成したものですか。
→当時、Yさんが家を売ることを考えていたようで、次の居住者が住みやすくなるためにあったほうが良いとのことで、Yさんから提案されて作成しました。
・○○さんの家族の自転車がYさんのバンパーに当たったことはありますか。
→いいえ。
・なぜそのように言い切れますか。
→風が強い日にうちの自転車が倒れたのですが、すぐに私は、自転車を起こしに行って、周辺を確認し、Yさんの車も見て、当たっていないことを確認したのです。
・Yさんから、Yさんの車の傷を見せられたことはありますか。
→いいえ。当たったのであれば、写真なり出してもらいたいです。
Yさんは当たったと言うばかりで、誠実な態度とは思えません。
・メール(乙3号証)を送ったのは誰ですか。
→△△(妻)です。
・このようなメールを送ることを、事前に△△(妻)さんから聞いていましたか。
→聞いていません。
・このメールの存在を知ったのはいつですか。
→11月11日頃、事後報告で知りました。
・このメールを見たとき、率直にどう思いましたか。
→文字にして送るなら事前に教えてほしかったです。こんなに譲る必要はないと思いました。
・メールに書いてある内容での解決を考えたことはありますか。
→ありません。
QアンドA、そしてQアンドA、そして・・・とリズム良くこれを
重ねていった。テンポよく進行していった。かかった時間は5分ぐらいであっただろうか。練習しまくった身の上としては、「もっと、喋らせてくれぃ」と思ったが、そこは我慢である。法廷では不規則発言は厳禁なのだ。
次が、被告代理人から被告への尋問である。こちらのほうは、事前準備の様子は感じられなかった。あっけないぐらいに早く終わった。
要は、原告の請求には前の傷が入っているということを主張していた。こちらでやっていたような、説明を受けた時の描写もなければ、修理代金について言及する場面もなかった。
こちらは考えうる限りの重厚な準備。向こうはスカスカのぶっつけ本番といった印象であった。
私と傍聴席三人組が驚かされ、またまた怒りに震えさせられるのは、次のラウンドであった。
明日へつづく
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