〔連載]思春期の子どもをもつ母親への心理学講座 その6:「かみ合った会話」をするには

🔹良好な親子関係としてのキャッチボール

ふだんの親子間の会話は、よくキャッチボールに例えられる。親が直球のいいボールを投げてあげれば、たぶん子どもはナイスキャッチできるはずであるが、いきなりカーブなどの変化球を投げたら、それこそ取りそこなって、あわててしまうかもしれない。

だからといって、いつも、いいボールばかりを投げ返してあげればいいというものでもないであろう。
 
大事なのは、いい球を投げてあげることではなく、いかに親子が良好なキャッチボールをつづけられるかという点である。そのことを、ここでは「かみ合った会話」と呼んでおこう。
 
しかし、昨今では、この「『かみ合った会話』ができなくて困った」とこぼす親御さんたちが急にふえてきている。
 
その理由のひとつとしてあげられるのは、親も子もコミュニケーションの持ち方が不得手になってしまったからである。そこで、今回は親子間のコミュニケーションの持ち方を取り上げてみたい。
 
スムーズな「かみ合った会話」ができるためには、まずは子どもの心をつかもうとする能動的な聴き方に徹することから始めなければならない。
 
能動的な聴き方の“能動”という言葉を聞くと、親側が何か積極的なアクションを起こすことではないかと思われるかもしれないが、そうではない。じつは、その逆である。
 
🔹具体例1 リピート、言い換え、気持ちをくむ

つまり子どもの話をじっくり聴くということに徹するという意味での“能動”である。傍目には一見、聴く姿勢そのものは受動的でありながら、いざ話を聴く段になったら能動的に耳を傾けるという聴き方である。
 
理屈はこの辺にして、早速、実際の事例を通じて能動的な聴き方を体得していだたきたい。
 
学校から帰ってくるなり「ただいまー、お母さん、お腹すいちゃった」と我が子。それにたいして、お母さんは、通常、どのように返答しているのであろうか。
 
「帰ってくるなり、それはないでしょ」と返答するお母さん。あるいは「夕食まで待てないの」と一言付け加えるお母さん。または「間食をするとダイエットにならないでしょ」と助言するお母さん。さまざまであろう。 

そのような会話で、けっこう親子関係はうまくいっているというのなら、それはそれでさほど目くじら立てる必要はないのかもしれないが、問題は日ごろ親子関係がしっくりいっていない場合である。
 
我が子の「ただいまー、お母さん、お腹すいちゃった」という言葉を聞いて、母親が「お腹がすいたのね」と応じれば、事が荒立つことはまずないといっていい。子どもの気持ちを受けとめて、きちんと「リピート(反復」)しているからである。
 
「お腹がペコペコなのね」とか「お腹がペコペコなんだ」という返し方はどうだろうか。これを「言い換え」というが、子どもの気持ちに踏み込んだ応答である。
 
さらに「おやつが食べたいのね」という返し方はどうだろうか。「言い換え」よりも、もう一歩子どもの「気持ちをくむ」かたちの応答になっているであろう。
 
このように、子どもの発した言葉ひとつでも、さまざまな返答のバリエーションがあることがわかる。親子の会話というものは、その連続であり積み重ねであるといっていい。 
これら「リピート」「言い換え」「気持ちをくむ」といった返し方は、さらに会話の流れをつくり、子どもの言語表現を促していくという意味で、効果的な方法である。

🔹具体例2 子どもの真意をキャッチする 

もうひとつこんな事例を紹介してみたい。 
我が娘が喜び勇んで帰宅し、母親に次のように告げた場面である。
 
「お母さん、五時間並んで、コンサートのチケット、ようやく取れたよ!」
 それにたいして母親が「遅かったわねえ」といった言葉で応答したら、子どもはどんな気持ちであろうか。「せっかく並んで手に入れたチケットなのに、お母さんたら一緒に喜んでくれない。さみしい」といった萎えた気持ちになってしまうであろう。
 
こんなとき、一言「そりぁあ、よかったね。たいへんだったね」とねぎらってあげたら、子どもは自分の努力が報われたと感じて、ほっとした気持ちになるだろう。
 
以上は比較的理解しやすい事例を取り上げたが、次のような事例はどうだろう。
 
子どもが、前もって母親から頼まれていた買い物の件で「お母さん、いつまでに買い物に行ったらいいの?」と問いかけてきた場面である。
 それを聞いた母親は安易に「そう、ありがとう。ようやくその気になってくれたのね」と即答することが多いはずだ。
 
しかし、喜ぶのは早計である。「いつまでに買い物に行ったらいいの?」と問いかけた子どもの質問の裏には、じつは今はべつのことをしたいので買い物はもうちょっと後回しにしてほしい、といった願いが隠されている場合だって少なくないからである。
 
だから、子どもからの質問をそのまま額面どおりに受けとめるのではなく(とくに小学校高学年以降の子どもの場合)、その質問の意図を逆に聞き返すなどして、子どもの思いを正確にキャッチするといった努力も怠らないようにしたい。それが、ちぐはぐな親子間コミュニケーションにならないためのコツなのである。

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