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オウンドメディアについて考える(3):インタビューについて

 メディアのコンテンツとして、インタビューにはいろいろなメリットがある。実際に、Energy Shiftでもいろいろなインタビューを行ってきた。オウンドメディアとして考えると、異例かもしれないけど、競合他社の経営者や責任者のインタビューも行っている。でも、イオンのホームページにセブン&アイの社長が、佐川急便のホームページにヤマト運輸の斜塔が登場してもいいと思っている。そうしたものも含めて、考えていきたい。

 インタビューというコンテンツは、メディアの送りてにとっては、けっこうコスト効果的なコンテンツだ。
 ルポルタージュのようなコンテンツの場合、いくつもの取材を重ねていくことが不可欠だが、インタビューなら一度で済む。
 また、忙しい人に対しても、原稿執筆の依頼は難しくても、30分ほど時間をとってもらえればインタビューに応じてくれることもある。政治家インタビューや経営者インタビューなどはこの類だ。
 原稿料と比較すると、たぶんインタビューの謝礼の方が安いと思う。というか、Energy Shiftでは謝礼を払ったことがない。これは本当に、インタビュイーには申し訳ないことをしたと思っている。もっとも、謝礼が最初から不要なケースも多い。政治家や官僚はそもそも受け取らないし、経営者もたぶん不要だろう。学識者・有識者には払わなきゃいけなかったかな、とは思う。もっとも、これはぼくが業界専門誌出身ということもある。業界の宣伝をしているようなものなので、謝礼はほとんどはらっていないはずだ。一方、一般紙や総合誌などは払っている。取材した相手にも謝礼を払っている。
 まあ、ここは良識と兼ね合いかな、と思う。

 ただ、インタビューの謝礼がゼロ、もしくは低い金額でもいいということには、理由もある。政治家などの場合、自分の政策を伝えているので、謝礼よりもそちらのメリットの方が大きい。これは経営者インタビューも同様だ。メディアは使われている側でもある。
 とはいえ、メディアとしても、特定のカラーにそまらないようにバランスをとることが重要だ。
 それから、新しいメディアでインタビューをとろうとすると、相手は警戒する。どんなメディアなのか、それを確認したうえでのインタビューとなる。そのためには、親しい著名人のインタビューをとっておくといいだろう。「この人が出ているなら、自分も大丈夫」と思ってもらえるようにしたい。政治家であれば、地元選挙区の議員などでもいい。

 インタビュー相手を選ぶ基準は、会って話を聞きたいかどうか、ということが大きい。例えば、菅直人には10年前の東日本大震災の話はあらためて聞きたかった。
 でも、オウンドメディアとして考えた場合、もう1つ重要なことは、誰と関係をつくりたいかだ。将来の見込み顧客となりそうな企業の経営者や事業責任者をインタビューしていくというのは、アリだと思う。ただし、運営している会社が前面に出ないことが必要だ。
 競合他社の話も聞くことができる。これも、ニュートラルにやることが大切だ。競合他社の優れた部分をメディアを通じて伝えることができればいい。運営する会社に対して、刺激になればいい。もっとも、そうした刺激が伝わらないような会社であれば、競合他社に勝ち目はない。そのくらいの気持ちでいればいいことだ。
 それに、競合他社のインタビューが掲載されることで、メディアの中立性が外からも理解してもらえるようになる。

 一般的な話として、インタビュー原稿はインタビュイーに確認してもらっている。これは、話したことについての責任にもかかわるし、自分が話してもいないことを書かれても困るからだ。
 インタビュー原稿は、話し言葉がそのまま文章になることはない。話していることを文章にすると、意味がわからないものになる。書き言葉として整理することが必要だ。しかし、インタビュアーが相手が話していることを正確にとらえているとは限らない。また、発言を訂正したいこともあるだろう。その結果、相手の意図とは異なるインタビュー記事になってしまう。そこで、インタビュイーが確認するプロセスが必要となる。
 多くのメディアは、編集権をもとに、インタビュイーに原稿を確認させないケースは少なくない。ルポルタージュのような記事で、発言をとりあげるときは、それでもいいと思う。重要な発言が削除されてしまうからだ。
 でも、インタビュー記事はそうではない。では、重要な発言が削除されてしまうような場合はどうなのか。それは、別のところで使えばいいだけだ。
 実際にインタビューしていて、途中でインタビュイーがレコーダーを止めて本音を話すようなこともある。その発言は、いずれ別のところで使うことになる、かもしれない。

 では、Energy Shiftではどんなインタビューをしてきたのか。いくつかのケースを紹介する。
 まず、再エネ政策、とりわけFIPという制度の導入や気候変動政策にあたっては、審議会の委員に連続インタビューをしてきた。
 審議会での委員の発言は数分しかない。10人の委員で3時間の会議だとしても、最初の1時間は事務局の説明なので、残り120分を10人で発言することになるが、事務局からの返答などもあるので、1人12分というわけにはいかない。そのため、公的な場でたっぷりと話す機会が望まれている。インタビューはそうした機会だ。もちろん、政策を理解する上でも、こうしたインタビューは役立つ。
 また、エネルギー基本計画については、与野党の国会議員にインタビューしてきた。国会議員の多くは、インタビューを好意的に受けてくれるし、時間もながめにとってくれる。ロビー活動などで議員に会うのは、5分も時間をとってくれればいいだろうが、取材に対しては30分から1時間もとってくれることがある。また、話を聞くだけではなく、情報や知識も求めてくる。
 議員の仕事は政策を立案し、それを実際の政策に反映させていくことだ。そのための知識はいくらあってもいい。インタビューは半分は議員に対するレクチャーともなる。

 個人的に、やってよかったインタビューが、労働団体を対象としたものだ。
 正直なところ、連合の芳野会長については、あまり評価できないと思っている。それでも連合にはまだ良心的な人がいることもわかった。
 連合の気候変動問題の担当者のインタビューでは、気候変動問題もさることながら、組合員外の賃金の上昇も気にしていることがわかったし、この20年間、賃金が上昇しなかったことについて、どれほどくやしい思いをしているかもわかった。それを考えると、正直、芳野会長のやっていることは、労働者に対する裏切りではないか、とも思うのだか、まあ、それは別の話だ。
 このインタビュー記事はPV数は少なかったのだが、逆に言えばそれだけ労働界が注目されていないことでもあったと思う。それに、気候変動対策については、労働界が十分な知見もなく、あまり進めることができていないという現状がある。
 それでも、自動車業界や鉄鋼業界が大きく変化する中で、労働者がその変化への対策から疎外されているということは問題だし、組合の方々もそのことは強く認識していた。

 オウンドメディアであっても、担当者はもっと外に出ていろいろな人のインタビューをしたらいいと思う。それは、業界のためでもあるし、社会のためでもある、くらいに考えていい。直接、会社の利益にならないようでも、いろいろな人の意見や考え方を誰もがアクセスできる形にしておくということは、CSRとしても意味のあることだ。
 どうしても、半径5mの業界内で仕事をしがちな人は多い。でも、それだとどんなに優秀な人であっても、10年後の自分たちの姿を想像できないだろう。
 だからこそ、インタビューすること、そしていろいろな人に会うことは、とても大切なのだ。

 

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