まずはオスロ合意に戻ろう

 イスラエルがガザに侵攻しようとしている。とにかく、そうした殺戮は防いでほしいし、停戦に合意してほしいと思う。

 今回のきっかけとして、ハマスによるテロを「枕詞」のように非難してから、イスラエルは侵攻すべきではない、という言い方がなされるが、ぼくはその立場をとらない。
 イスラエルがパレスチナに不法行為をはたらく限りにおいては、第一にイスラエルに責任があるし、テロのリスクを背負ってしまうことは当然の帰結だと思う。
 ガザは天井のない監獄とよばれているし、そうした状況が改善されなければ、報復はつねに行われうる。
 元はといえば、イスラエルによるパレスチナに対する70年以上におよぶ侵略であり、生かさず殺さずという状況を作り出してきたことが問題なのだから。それに対して、一瞬ともいえるハマスの報復を、第一の原因として非難することなどできない。

 そして、こうしたパレスチナの状況を見て見ぬふりをして、イスラエルを支持してきた欧米にも責任がある。ロシアのプーチン大統領がイスラエルを非難するのは、どの口が言うか、とは思うけれど、けれどもロシアとウクライナの関係は、イスラエルとパレスチナの関係と似ているといえばその通りだ。
 そして、欧州は、ロシアからの天然ガスの輸入をやめるかわりに、代替の天然ガスとしてイスラエルのガス田も含めていた。地中海の小さなガス田ではあるけれど。
 そこには、欧米のダブルスタンダードが見えてしまう。でも、このガス田は、あとで述べるけど、けっこう重要。

 ユダヤ系アメリカ人が政治的に一定の力をもつアメリカが、どうしてもイスラエル支持になってしまうとはいえ、有色人種が増えていることもあり、パレスチナを支持する人は少なくない。さすがにバイデン大統領も、イスラエルの侵攻については、止めに入った。でも、武器は供与するのだけど。

 こんな状況で、欧米が停戦協議を行うことは、ほぼ無理なのではないかと思う。日本はまだ、間に入れるのだけれども、そんな能力を持った人はいないからね。
 とは思うのだけれども、それでも停戦協議に持ち込んでほしいとは思う。

 停戦の最低ラインは、オスロ合意に戻ることだ。オスロ合意は、パレスチナにとって圧倒的に不利な内容ではあるし、それではハマスは納得しないだろうが、それでも一度はパレスチナ自治政府と合意したものでもある。そして、イスラエルはこのオスロ合意すら反故にしているのだから。
 欧米が本気で停戦合意をさせようとするなら、ここに立ち戻り、ガザの開放(監獄状態にはしない)と、ヨルダン川西岸からのイスラエルの撤退が必要だし、欧米はイスラエルにそれを強く要求すべきだ。それができない限りは、欧米は本気で停戦を求めていないということでもある。
 そして、パレスチナ国家の樹立を目指せばいい。

 右派政権のイスラエルがそれを受け入れないということは想像できる。とはいえ、受け入れないのであれば、人道的な問題から制裁を加えてもいいはずだ。悪質な政府であり、最近では最高裁判所の判決を政府が覆すことが可能な法律までつくっており、民主国家ですらなくなりつつあるのだから。

 一方、実質的に分裂しているパレスチナに、国家を運営できる政府ができるのかどうかだが、そこでは海外からのサポートが必要だろう。
 そのひとつがガザの再開発だ。そこで重要なのが、天然ガスである。
 イスラエル沖に海底ガス田があるわけだが、実はガザ沖にもある。現在、その開発をイスラエルが認めていないが、パレスチナ国家の主権のおよぶ海域になるはずなので、パレスチナのプロジェクトとしてガス田開発を進めればいいし、ガスの輸出を原資としてガザを開発すればいい。
 この開発に、日本は大きな役割を果たせるはずだし、そこを見越して、日本もまた、停戦協議を進めればいい。

 停戦にあたっては、イスラエルとシリアやレバノンのヒズボラとの関係も無視できない。少なくともイスラエルはゴラン高原をシリアに返却すべきだろう。
 イスラエルは中東に囲まれており、そうした中で軍事的リスクを減らすべきだ。
 今回、ハマスに武器を供与したのはイランだといわれている。イスラエルがサウジアラビアやエジプトと付き合うのであれば、一枚岩ではない中東諸国とどのような関係をつくっていくのか、まじめに考えたほうがいい。

 イスラエルはある意味で軍事国家である。シリコンバレー並みにスタートアップ企業がたくさんあるが、その技術的背景は軍事技術だ。たぶん、そうした国のありかたを変えたほうが、イスラエル人にとってもいいはずなのだが。高い技術力で世界に出ていける小さな国家でいいんじゃないか。
 ESGのSの部分が重くなってくれば、イスラエルと取引することが、企業にとっては評判を落とすことになってくる。

 オスロ合意のあと、当時のイスラエルのラビン首相が右派のゲリラによって暗殺された。長期的にはイスラエル国民のパレスチナ人の割合は増えていく。
 そうした中にあって、確かにエドワード・サイードがかつて述べていた、最終的な帰結はユダヤ人とパレスチナ人による1つの国家だというのは改めて理解できる。そうした融和は、民族と国家が別だという意味でも、あるべき姿なのかもしれない。
 そして、パレスチナ国家を樹立してしまうことは、結局は分断にしかならないのかもしれない。
 そうは思うけれど、今の圧倒的な非対称の中で、融和できるとは思えない。
 

 

 


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