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泰安洋行 〜ヨーロッパの旅〜 5



Being Yourself , Being Myself


マドリードから北へ。
バスク地方の海を目指す。
400km、順調にいけば5時間くらいの長旅。


相変わらず長距離バスの中でロックンロールを聴いて車窓を眺めながら言葉を書いてる。


ざっくりとしたルートを取りながらパリを目指してるわけなんだけど。
スペインもぼちぼち終わりだなあ。


昨日、マドリードのブルースバーで知り合ったマルゴーからメッセージが届いた。



"Thank you for being yourself"
ありのままでいてくれてありがとう


なんてイカした言い回しなんだろう。
そんな常套句があるにしても、
それを自然に言える彼女は、
純粋な心を持っているはずだ。


スペインの北部、バスク地方の街ビルバオは、
メトロが走ってるくらいには都会だった。

夕暮れ時、旧市街の広場でいくつかのピンチョスを取って赤いワインを飲んだ。

タパスやピンチョスみたいな、
ちょっとずついろんなものが食べられるスペインの食文化は一人旅にはありがたい。


美しいと思っていたヨーロッパの街並みもいつからか日常のようになって、なにも感じなくなってる。

それは寂しいことのような気もするけど、
同時に、ヨーロッパの旅をモノにできてきているような気持ち良さもある。

ピンチョスだけじゃ全然足りねえって、
帰りにスーパーマーケットで冷蔵チャーハンを買った。
レジのおばさんに、「スプーンとかってありますか?」を3回も無視されて心折れる。

街並みに慣れてもこういうのは慣れない。
特にスーパーマーケットのレジのおばさんは、
ヨーロッパ全域で態度が悪い。
挨拶はしない、レシートは投げる、みたいな人がほとんど。
なに?そういうマニュアルでもあんの?

他人にきつく当たられるって、なんかすごく悲しいし寂しい気分になる。
そんな気持ちになった人が、
また誰かに冷たくしてしまったりするのかもしれない。

いつだって、
あなたはあなたをやるだけ。
おれはおれをやるだけ。

Being Yourself  and  Being Myself

おばさんに言ってやればよかったな。

「ありのままでいてくれてありがとう」

メトロの駅で歌ってた夫婦らしき人たち
ロンリーチャップリンが聴きてえな



サンセバスティアンの夜


穏やかな波といつぶりかの雨。
ほとんど誰も乗っていなくても
黙って回るメリーゴーラウンド。

本当にビューティフルなものは
言葉にできないことの方が多い。

豊かな心があったら、
少しの固いパンと一杯のエスプレッソ。
それにその店で一番安い煙草があれば、
幸せを感じることができるかもしれない。


真っ白い波が無条件に寄せる。
バスカーが通行人に手を振っている。

旅をしている。
なんて贅沢なんだろう。
この感覚があればおれは死ぬまで手ぶらで暮らしていくことができるはずだ。



ボルドーは今日も雨

ボルドーって街を歩く。この街もまた雨だ。
またフランスに戻ってきたわけだ。

やっぱりフランスは落ち着くんだよなあ。
街に自由な雰囲気の広場がたくさんあること。
コーヒーが美味しく飲める店が多いこと。
煙草を吸う人が多いこと。

パリがだいぶ近くに見えてきたぜ。
気がつけばずいぶんと長い旅になった。


「まあ、若いうちはそうだよねえ。」
とか、
「今のうちだよ。そういう風にやれるのは。」とか、
もうずっと前から、何万人の大人に言われてきた。
若いおれに"若者"として接してくる人が多すぎる。

もちろん、昨日もポテトチップスを一袋食べたら気持ち悪くなったし、
歳をとってはいるんだよ。ちょっとずつ。

ただ、フィジカルじゃなくてソウルの話をすると、
「若いからそういうことが言えるんだよ」みたいな、くそくだらないことを言われる度に、
"じゃあこのまま歳とれるかやってみよう"
と思ってまだ生きている。

おれが崇拝するヒロトが、
自分で投げた"永遠なのか本当か"って問いに、
数十年経って  "永遠です"  って言い切ってたみたいに。

そりゃあ、やりたいことは変わるだろうけど、
"ただおれでいる" というテーマは捨てないだろう。

カタチはいろいろ変わっていくけど、
この感覚は十代の頃からなにも変わってない。
今だってほら、こんな気持ちだ。

そして、その"変わっていく部分"を、
自分という映画を観るみたいに暮らしてる。

人はなにかに所属したり、なにかの一部になろうとしているように感じるけど、
おれは自分の一部になるものを集めていく。


なにかを"推す"ひまがないくらいに、
自分を推し進めていくだけ。

ジミヘンドリックスのファンになるんじゃなくて、
ジミヘンドリックスから受け取ったものを自分の一部にしていく。

旅で感じることも、今日のこの街に降ってる雨だってそうだよ。

全部が、今夜おれがおれでいるためにある。

としをとろう


ボルドー。
何もかもが違ってるはずのにどこかメコンを思わせる川が流れてる。

最新の友達、ボルドー出身のマルゴーに提案されたプランをベースにぶらぶらしたら、
なんとなくこの街の味がした。


ちょうど週末がぶつかったからかどこも満席で、
名産ワインが安く飲める店やマルゴーにおすすめされたバーには入れなかったけど。

友達が育った町を歩くのは独特のタッチがあっておもしろい。

あいつはこの町でどんな風に、どんなものを見て育ったんだろうとかイマジンしたら、
同じにおいを共有できた気がしてちょっと嬉しくなる。

そのうちみんなの地元にいくね。




カフェ・アロンジェ

久しぶりに列車に乗っている。
レンヌという街を目指して。
郊外の町の脇を駆けていく。


日曜日のトゥールはゴーストタウンだった。
街のメインストリートはずっと向こうまでシャッターが並んでるのが見える。
トラムも全然通らないから、休みなのかもしれない。

ヨーロッパ、特にフランスは日曜日になるとスーパーマーケットでもなんでもしっかり休む。

それはきっと素敵なことだし、
生活者はそれを見越して動けばいいんだろうけど、
旅人には辛いフランスの日曜日。



それでもいくつかのバルはやっていて、
街角を眺めながらコーヒーを飲むことができた。

一人コーヒーを飲みながらやることといえば、
こんな風に駄文を連ねてみたり、
本を読んでみたり、音楽を聴いてみたり。
それに人間観察だ。

ビールで乾杯している中年夫婦。
旦那さんはいい髭。
奥さんはイカした革ジャンを着てる。

注文を取りに来た店のお姉さんは焦茶のオーバーオールにボブカット。

「フランス語わかる?
OK。じゃあ得意じゃないけど英語でトライしてみるわね。」

サバサバとした感じで話すんだけど、
その表情や仕草にちゃめっ気がある。
ジブリ映画に出てきそうな感じのお姉さんだ。


地元の人たちが使っているあいさつや注文するときの言い回しをパクって見よう見まねで使ってみる。

フランスに来るまで、
ボンジュールってフランス語だっけ、、?
くらいのレベルだったおれだけど、
今ではやっと、昼と夜のあいさつを使い分け、別れのあいさつ。
ありがとう、ちょっと失礼、お願いします、みたいな言い回しくらいはフランス語で言えるようになった。

それに、"カフェ・アメリカーノ"と注文してもいつもエスプレッソが運ばれてきてたんだけど、
"カフェ・アロンジェ" というマジックワードを覚えてから、
やっと "ただのコーヒー" が飲めるようになったところだ。


フランス語であいさつをすることで、
店の人やホテルのスタッフとの距離がほんの少しだけ縮まった気がする。

そんなことがフランスの旅をもっと気持ちいいものにしていく。


でたらめだったらおもしろい

旅。
周りの光景が変わることで自分が見えるときがある。

香水臭いドミトリー。
ちっとも泡立たないシャンプー。
テラスで女の子が器用に煙草を巻いている。


外に出ることで中があることに気がつく。

おれのベースは生まれ育った東京という街なんだけど、
東京を、日本を出ることで、
日本がどんな国か見えることが多い。

東京から出なければ
あまりにも距離が近すぎてフォーカスが合わないこともあるだろう。

海外では、
「日本人なの?いいなー」とか、
国籍だけで褒められたり羨ましがられたりすることがよくある。

だいたいどんな小さな町でも "SUSHI BAR" とか"MANGA"の文字を目にする。

日本って世界的にみたらそんな感じに見えてるんだなあとかって日本を出ないとわかんないこと。

うちはイタチ


国が違うと、
たとえば道路は逆側通行だし、
外に出ればトイレに行くんでも小銭がいるし、
カフェで煙草吸ったって地面にポイ捨てが当たり前。
みたいに何もかもが違う。

おれが旅ばっかりしてるのは、
その "違うこと" がなによりも面白いからだと思う。

そして日本を基準にしてみたらほとんどの国のほとんどのことはテキトーに感じる。

テキトーが楽しいのが旅だ。




シャワーのお湯が出ない。
鍵も便座もないトイレ。
客が待っている目の前で煙草吸ってるレストランの店員。
バスの乗客が車掌をやらされる。
メトロの定休日。

日本じゃ考えられないようなことが毎日いくつも起こる。
予定通りなんかにいかないことがとにかく多い。

それを面白がることができなくなると、
フラストレーションしか溜まらない辛い旅になっていく。
まあたまにそんな時もあるんだけど。

外国人もまた、そんななにかを求めて日本に感じてるよね。

"金曜日なのにパーティーとかやらないで一人で過ごしてる人がたくさんいる!"

"山手線、人がぎっしり乗ってるのにありえないくらい静かだった!"とか。


旅をしてるとき、いつもリフレインするフレーズ。
これがおれの旅のコピーみたいな気がしてる。

見てきたものや聞いたこと 今まで覚えた全部
でたらめだったら面白い そんな気持ちわかるでしょう

情熱の薔薇/THE BLUE HEARTS



夕暮れのモン・サン・ミシェルで

なんだか江ノ島をワールドワイドにしたような感じだなあ。
久しぶりにアジア人、そして日本人をよく見かける。

モン・サン・ミシェルは小さな島。
頂上に修道院がある。
フランスの大観光地だ。

ホテルがある対岸から木張りの橋をただひたすら歩く。
その美しさに目を奪われながら。


モン・サン・ミシェルの修道院に続く細い参道は観光客でごった返している。
カフェもレストランもどこも順番待ちの大行列だ。

自分の歩幅で歩けないことが注射と同じくらい嫌いなおれは、
人波を掻き分けながらさくっと島内を周って、そそくさと橋を引き返した。

この島の美しさは、外からじゃないとわからない。

夕方8時過ぎ。
昼間あんなにたくさんいた人たちは、ほとんどみんな帰っていったみたいだった。
大行列だったバス停には誰もいない。


果てしない一本道にひとり。
とても強い風が草を揺らす音。
前屈みになってなんとか煙草に火をつける。

真っ白い海鳥の会話と潮のにおい。
あまりにも広すぎる空を見上げてみる。

なぜだか頭の中にToo Much Painが鳴っている。

おれは今この風景の中にいるんだね。



Labor Day


パリはもうすぐそこ。
気がつけば大きな旅になっちゃったもんだなあ。

乗客はアフリカンばかりの
エキゾチックなにおいが充満するバスは、
郊外のハイウェイ、走ってる。



長い旅の疲弊を、旅で癒すような日々だ。
ただ、いつまでも続くわけじゃない。

一日中雨が降っている。
おまけに今日は労働者の日、レイバーデイという祝日。
なので町はゴーストタウンみたいだ。

ル・マンという町からだいぶ離れたプレハブみたいなホテルで引きこもる。


こんなことなら今日のうちにパリに行っちゃえばよかったなあとか思いながらも、
いざやってみるとたまには部屋でだらだらするのも気持ちいいなあ。

最近移動ばっかりだったからちょうどよかった。
また旅と向き合うエネルギーを溜め込めたような気がする。

ホテルの周り
本当になにもない


Come Back to Paris


一ヵ月ぶりに帰ってきたパリ。
今回の拠点は11区の外れ。

近所にはインド系移民が多いのか、
スパイシーな匂い漂う食品屋、
お香やサリーのような布を売ってる店が並んでいる。

出掛けにいきなり雨宿り。
タバコ屋でコーヒーが2.2ユーロで飲めた。
パリの中でもエリアによってだいぶ物価が違うことに気がつく。

フランスもいろいろ周って帰ってきてみると、
パリという街の見え方も、前のそれとはまた違うものになっている。

もっとパリを感じたいと思って、
エトワール凱旋門に登るのとどっちにするか迷った末に、
ゴロワーズという煙草を一箱買った。

結局、人混みを押し分けて凱旋門からパリの街を一望するよりも、おれはこんなのなんだろう。


煙草屋でコーヒーを注文して、
雨で湿ったゴロワーズに火を点ける。
店員の中国人のおばさんがコーヒーを持ってきてくれる。

隣のテーブルで蛍光色のユニフォームを着たままエスプレッソを飲んでいるゴミ収集の黒人の兄ちゃんと雑談をする。

フランス語なんてもちろんわかんないけど、表情とジェスチャーでノンバーバルな会話。

「雨止まねえなあ。困っちゃうよ。」みたいなことを言っている。
おれもそんな表情で返して、
二人して雨を見ている。

タイの田舎なんかでは、
よく地元のおばちゃんとこんな適当な会話したっけなあ。
いろんな人種が混じり合うヨーロッパの街ではこんなことはあまりない。
良くも悪くも、外国人は放っておかれる。

兄ちゃんは咥え煙草のまま仕事に戻っていった。

雨の中、傘も差さずに長いバケットをかじりながら歩くおばさんはイカしたダブルのライダースジャケットを羽織っている。

また、ゴロワーズを吸い込む。
ムッシュかまやつを思い出す。
決して上品でないパリのにおいがした。


ロンドンを目指す。

パリからロンドンへは、
漠然とユーロスターに乗ってドーバー海峡を越えるものかと思っていたんだけど、
チケットがあまりにも高すぎるので格安バスで目指すことにした。

ロンドンまで9時間。
ついにイギリスじゃん。

大陸ヨーロッパは広かった。
イタリアのローマからここまで50日ちょっと。
ヨーロッパの西側を大まかに一周したわけだ。

ロンドンからまた新しい旅がはじまる。
そんなフィーリングだ。
旅のおわりのはじまりのような。

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