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泰安洋行 〜ヨーロッパの旅〜 3




昼下がりのパリはこれでもかってくらい柔らかい風が吹いてるぜ。


ヨーロッパ旅のリベンジ。
ベルギーのブリュッセルで全財産を盗まれて、急遽東京を経由。
それからクレジットカードの再発行なんかで、1ヶ月空いて再開。



パリの片田舎ボーヴェ空港から、
市内までバスで向かってる時、
一ヵ月前に、オランダからブリュッセルに向かうバスに乗ってる時のフィーリングが戻ってきた。

窓の外のだだっ広い菜の花畑をぼーっと眺めてたら、
まるっきり違和感がなく、旅の続きが始まった感じがした。


ヨーロッパに帰ってきた感。
こうなっちゃえばもうヨーロッパもホーム。



Paris Calling



夕方のパリ。
まだまだ明るいなあ。
大都市なはずのパリはとてもスローで、
パリの風は今までのどこのそれよりも優しい。


ローマからのヨーロッパ旅の続きマインドなのか。
それとも、この街のなにかが東京を感じさせるからなのか。

なにがそうさせるのかわからないけど、パリにあまり新鮮さがなくて、
昔ちょっと住んでいた街にふらっと来たみたいな感覚がある。


パリっ子の真似して、公園の芝生に寝っ転がって本でも読んでみる。
薄い雲がすごいスピードで流れていく。

広場を囲む邸宅かなにかの建物の向こうに、
太陽が隠れようとしている。

なんかお尻がひんやりする気がするけど、
あ、さっきまで雨がパラついてたんだったっけなあ。

もうどうでもいいぜ、そんなことは。




ゴロワーズを吸ったことがあるかい


チュイルリー庭園の横をツアー客をかわしながら歩いて、
コンコルド広場からシャンゼリゼ通りを行くと目の前にはエトワール凱旋門。

そこからエッフェル塔を横目にセーヌ川にかかる橋渡って、
サンジェルマン通りからルーブル美術館へ、となかなかの大散歩。

雨が降ってみたり、雲の切れ間から暑いくらいに陽が出てみたり、
風が吹いてみたり、気まぐれなパリ。

ムッシュの歌を思い出して、聴きながら。

君はたとえそれがすごく小さな事でも
何かにこったり狂ったりした事があるかい
たとえばそれがミック・ジャガーでもアンティークの時計でも
どこかの安い バーボンのウィスキーでも

そうさなにかにこらなくてはダメだ
狂ったようにこればこるほど
君は一人の人間として
しあわせな道を歩いているだろう

かまやつひろし/ゴロワーズを吸ったことがあるかい


おれは、ムッシュかまやつというめちゃくちゃにイカしたおじいちゃんが好きだ。

"ゴロワーズ" の歌詞のルートに沿って、
おそらく王道っぽいコースを数時間かけて歩いたみたわけだけど、おれには全く用事がなかった。

ただ気分は悪くないし、表向きのパリの空気を吸えたのでよかった。
ゴロワーズは吸ったことないけど。

サンジェルマン通り



どうやらおれが深呼吸できるパリは3区から4区にまたがる、マレ地区ってエリアみたいだ。

洒落た細い路地が広がっていて、
古書店や古着屋、カフェ。
のんびりとした公園や広場、アートセンターなんかがある。

"ブイヨン"というスタイルの安レストランが近くにいくつかあって、
エスカルゴや牛肉のワイン煮なんかを食べながらサングリアを飲む、なんて夜を過ごすことができた。



マレで真っ白い春のパリの、長い夕方を過ごす。

ちょっと歩道を譲ったとき、
ライダースジャケットを羽織った女の子が
「メルシー」と微笑みかけてくれた。

たったそれだけのコミュニケーションが心地いい。


コルザの花



特急列車はパリから南へ。

昼のリヨン行きの2等車では、
まん丸い顔をした赤ちゃんを抱いたお母さんが車内を歩き回ってあやしているし、
車窓の向こうには真っ黄色の菜の花畑がどこまでも広がっていて、
ああ人間って!って感じだ。



アンルイスじゃないけど、
気分なんてほんの些細なことで変わる。

結局どんなに綺麗な景色をみるか、
どんな素晴らしいイベントに立ち会うかよりも、
それを受け取る自分の感受性と想像力が、旅の一番の貴重品。


感受性がいまいち開かないって時は、
いろいろな勝手の違いがとにかく煩わしいと感じたり、
言葉の通じない一人旅に寂しさを感じたりする。


人間同士としてフラットに関わること。
目の前の出来事をできるだけリアルに受け取ること。

お互いに持ち合わせの言葉がないことも、
名前も国籍もわからないことも、
おれと大した違いはない目の前のあなたの気持ちをわかるには全部必要のないものじゃん。

そんな目線になったその時から、
この街の人たちに、真っ黄色の菜の花に、乾いたサンドウィッチに、
おれの旅が肯定されてる感じがしている。

忘れたくない。

パリのリヨン駅
リヨン方面行きの列車の
発着駅だからリヨン駅
ややこしい


赤いプラリネ


リヨンはソーヌ川とローヌ川という2つの川の合流地点の街。

手前には細い路地が続く旧市街。
カフェやリヨンの郷土料理レストラン、ブションが並んでる。
川の向こうには、ブランドショップや広場が多くある新市街。

パリよりはだいぶ落ち着いた街だけど、ここもやっぱりフランスやってるなあ。



朝、丘の上のホステルのテラスでブレックファースト。
そのままコーヒーをおかわりして、午前中は本を読んで過ごす。

深夜特急のヨーロッパ編を読み返す。
旅行記とかは好きなんだけど、
自分で行ったことがない場所の話は、いまいち身が入ってこないタイプのおれだ。

ヨーロッパを旅をし始めて、自分の中にヨーロッパの地図や感覚ができてくると、
ぐっとリアルになってきてもっと楽しめるようになった。


昼ごろ街に降りる。
今日はしっかり晴れている。

足下に小さな子ども乗っけて、
颯爽と街をスケボーで駆け抜ける母ちゃん。
器用だなあ。

あれ日本でやったらいろんな方向の人からめちゃくちゃに怒られるんだろうなあ。



フランスの街にはとにかくイカした人が多い。

なにがイカしてるんだろう。
他を認めるのもそうだけど、自分を認めている感じ。

たとえばフランス人のお洒落って、
コンサバティブに既成のカタログから選ぶより、
人からどう見られるとかよりも
堂々と、ただ自然に自分をやってる。
それがなによりも美しいと思う。

誰かかなんて言おうと、いつだって自分に正直にいることができれば。
一体どれだけ人生が豊かになるだろう。


もちろんそれは行動とか様式も。
この国が多民族国家だってこともあるだろうけど、
尊重しあって暮らしてる感じがしていいなフランスは。

さっき、白人のおばあちゃんの手を取って歩く黒人のおばさんを見た。
日本人のおれにはその感覚がなかったから最初は気づかなかったけど、
たぶん雰囲気的に、"母娘" なのかもしれない。

旧市街のブション。

顔より大きなアフロヘアのベティデイヴィスそっくりのお姉さんにおすすめを尋ねながら、
オニオングラタンスープやロブスターソースのクネル。
食の都リヨンの郷土料理を味わった。

そしてデザート。
「リヨンに来たならこれよ。」って、
運ばれてきたのは真っ赤なプラリネのタルト。


この街を彩るビビットな差し色が、染み込んでいく気がする。おれの中に。

公園のベンチで隣に座ってたお姉さん
めちゃくちゃお洒落



僕らは薄着で笑っちゃう



マルセイユにいる。
フランス最古の街、そしてヨーロッパ最古の港町。

たくさんの船がぎっちりと停泊してる旧港を見渡せる夕方の公園の芝生でごろごろしている。

これこそがフランスで覚えちゃった有意義な時間の使い方。

芝生に寝そべって本を読むみたいなことは、
"ヨーロッパの歩き方ってこんなの!"
ってイメージの一つだったんだけど、
意外にフランスに来るまでこんなのはなかった。
まあそれまではずっと寒かったっていうのもあるけどね。


旅も耳かきと同じ要領で気持ちいいところを探るように。
この芝生に、フランスに、少しずつゆっくりと身を委ねるように。

日曜日の中心街では、アラブにルーツのある人たちがたくさん集まってパレスチナの解放運動をやっていた。


横断幕を掲げて、
「ガザ!!ガザ!!」と叫ぶ彼らの声。
内情はよくわからないけど、
とにかくもうこれは、ただごとでは済まないんだなあ。そんな感じがした。


実際に彼ら目を見て声を聞いたら、
ほんの少しだけ、その気持ちをわかってあげられた気がした。

どんな時だって "市民" は真剣だったはずだ。

世界はみしみしと音をたててカタチを変えようとしている。





マルセイユの駅に続く美しい大階段。

紙袋をたくさん肩にかけてスーツケースを引っ張ったおばさんが今まさに階段に差し掛かるところ。

おれは手を貸そうと立ちあがろうとしたんだけど、
それよりほんの一瞬早く、近くに座ってたドレッドヘアの兄ちゃんが、
さっとおばさんの元に駆け寄っていったんだ。

彼はスマートにおばさんのスーツケースを拾い上げると、おばさんと一緒に階段を登っていった。

こんな街ならすぐにエレベーターを作る必要はないかもね。


夕方の公園では、天使みたいな子供たちが遊具で遊んでいる。

芝生に寝っ転がった若いカップルがキスをしている。

大きな犬を連れたおじいちゃんはベンチに座ってぼーっと港を見下ろしている。

そしたらおれはジュースの缶をゴミ箱に投げ入れて、
もう一本、深く煙草を吸い込もう。


なんで数十億の人が、みんなで愛し合って暮らすことができていないんだろう。


僕らは薄着で笑っちゃう。ああ笑っちゃう。



The Mediterranean

たとえば、この街を歩く人がタンクトップ一枚だったり、ダウンにマフラーを巻いてたりする。
それだけで自由な気分になる。


一杯の真っ黒いエスプレッソを飲み干して、
苦い煙草を吸い終えるまでにどのくらいのことがイマジンできる?


ハッピーエンドだろうがそうじゃなかろうが、別にどっちだっていいよ。
そんなことより、いつだって正直に生きるってなんて美しいことだろう。



これが地中海か。
潮の匂いのしない海だった。

町はずれの小さなビーチ。
浜辺では小さな子どもが素っ裸で遊んでいる。あまりにも強い風の中で。

海沿いの通りをしばらく歩いて、
おれを追い越そうと走ってきた真っ赤なバスに乗った。

バスの中で、おれの知らない綺麗な花の鉢植えを抱えて立っていた彼女は、
とても純粋な目をしてた。
純粋な目をしてた。




愛すべき僕の街にくちづけがしたくなったぜ

"モンペリエ"

この町に寄り道してみようと思ったわけは、
なんとなくこの地名の響きに惹かれた、それだけ。

何やら歴史のありそうだった小さな町、アヴィニョンからローカルな列車に乗ってモンペリエに来た。

街の中心コメディー広場は、
真っ白くて大きな建物が周りを囲んでいる。
そしてフランスの街の広場にはお決まりのメリーゴーラウンドと噴水。
そのすぐ横をサイケデリックな花柄のトラムが横切る。

モンペリエは気分がいい街だ。
だいたいおれが行き先を決めるのに必要なのはイメージだけ。
あまりその街について事前に調べたりはしない。

実際にそこに着いて、イメージとのギャップがあることがおもしろい。


モンペリエはけっこう気に入ったなあ。
今夜のホステルも居心地がいいし。

ホステルのスタッフが気さくでいい人だったとか、
居心地のいいカフェがあったとか。
そんな小さなことが街の印象を決めるような気がする。



海外の人と地元の話をすると、

「おれの地元はこんなのが有名で、これがめちゃ美味くて、こんな綺麗な景色で、、、
とにかくサイコーなんだよ!遊びに来いよ!もちろん案内するぜ!!」

とか自信たっぷりにプレゼンされることが多い。

逆に、
「へえ〜東京から!?いいなあ、いつか行ってみたい!!」
とか言ってもらうことがよくあるけど、

「いや〜物価は高いし、とにかく人は多いしさあ。。。」
とかあんまりなにも考えずにネガティヴなことを言ってしまうことがよくある。

日本人的な謙遜文化が身に染み付いているのかもしれないけど。
おれは地元、トーキョーという街が好きだ。

でも自分の生まれた町、自分の育った国に誇りを持ってるやつってなんかクールでいいよなあ。


愛すべき僕の街にくちづけがしたくなったぜ。

モンペリエのオペラハウスの前でマクドナルド食べてた地元のギャル。
溢れ出すハイスクールドラマ感。



バルセロナの歩き方


列車で爆睡してたらゴテゴテネイルのギャルポリスに揺り起こされた。

パスポートを見せる。
どうやらスペインに入ったぽいな。


列車はバルセロナの中央駅に着いた。

南フランスから来たおれには、
バルセロナはなんとなくあまり隙間のない、
ただのヨーロッパの都会って感じだ。


イメージと違うなあ。
じゃあおれの頭の中にあったバルセロナはどこにいっちゃうんだろう。
世界のどこかにあるんだろうか。


なんでもポジティヴに考えなきゃ、みたいなものはわりとクソだと思ってる。

感じることにポジティヴもネガティヴもないんだ。
悲しいのに「悲しくなんてない」とか感情に蓋をするほうがよっぽどネガティヴなことのような気がする。


なんとなくコツが掴めないバルセロナ。

それでもランブラス通りを一本入ると、
スパッカナポリよろしく、味のある路地が広がっているし、
住宅街を抜けるとローカルなビーチがあって、
地中海とサシでスローな時間を過ごすことができた。

ビーチバレーに熱中する若者たちを眺めながら、夕暮れ前のロックンロールを聴いた。


朝のブケリア市場では自分の都合のいいものだけをちょこちょこつまむ。
そんな粋なブレックファーストもできたし、
なによりシーフードのパエリアはめちゃくちゃ美味しいし。
バルでタパス(小皿)でいろいろな料理をちょこちょこつまめるのは、一人旅のおれにはとてもありがたかった。

それに、生で観るサグラダファミリア。
その大きさに、崇高なヴィジュアルに、
圧倒されて笑っちゃった。

バルセロナの歩き方を掴んできたところで、また旅に戻る。
ヨーロッパの旅はだいたいいつもこんな調子。

いつかもっと歳を取ったら、
好きな町めがけて直で飛行機で飛んできちゃうような旅をしたいよなあ。
今回はそのためのリハってことで。

フランスの都市みたいに振り切った街ではないけど、
バルセロナはたくさんの小さな皿を器用に回す大道芸みたいなバランス感覚のある街のような感じがする。



イタリアのローマから陸路でコツコツと移動してきてスペイン、バルセロナまで。

ここまでにちょうど1ヵ月くらいの時間がかかった。
それが早いのか遅いのかはわからないけど、
印をつけていったマップをみたら、
なんとなく達成感みたいなものもある。

いやいや、旅はまだまだ続くんだけど。


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