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なにもかもすべて

8月いっぱいで、私はまだ勤めだして半年にしかならない製造業での事務を無理矢理に終え、全く経験のない業界へ行く。これまた事務ではあるのだけど、久しぶりに大所帯の会社で、久しぶりのフルタイム勤務になる。あまりにも久しぶりすぎて自信がないため、朝6:00前に起床する練習をはじめている。起床することよりも、昼飯後にいねむりをしないことのほうが私にとってはむずかしい。少なく食べる、それしか眠気を遮る方法はない気がする。
島内だし、移動距離にすればさほど遠くないのだけれど、住まいも変わる。思えば長く住みすぎた感はある。一人暮らしをはじめて以来、同じ家にこんなに長く住んだことはこれまでになかった。風通しよく、おひさまがたくさんはいる、とてもいいおうちだった。暮らしているあいだにまわりがすっかり変わってしまい、静かだった通りがささくれだっていくように感じていた。もっと早く移動してもよかったけれど、数年前にやってきた島バブル、バカみたいな家賃の高騰でそれどころじゃなかった。
春先に、隣のおうちにシニアのご夫妻が越してきた。奥さんは外国の方で、いつも身なりがきちんとしていて、髪をきれいにまとめていて、おうちにいるときもアクセサリーを欠かさないひと。ごみの出し方がわからなくてこまっているとのことで、不燃物の分別方法をこまかく伝えたことがあります。長く暮らしていても少々めんどくさいよね、よそから来られたならなおさらでしょう。それにしてもこのお部屋には入れ替わり立ち替わりたくさんの人が入居しては短いスパンで出ていく。そして外国の方が多い。なぜなんだろう。

夏に入るころ、老朽化したこの建物の排水に関するトラブルが発生。原因は何十年も前に隣の敷地に誰かが植えた『竹』だったよう。植えるときは何の気なしにだったろうけれど、自生しているものではないからね。
隣の家主も次々と変わり、定期的に手入れされていた植木も伸ばしっぱなしになり、私たちの暮らすアパートへ侵出してきていた。そこらじゅうに毛虫が出没し、すっかり日陰になっていた。
初夏の排水トラブルのあと、突如としてやかましくなった。チェーンソーを持った人が何人も来てそんなに伐らんでもと思うぐらい木を伐り、ユンボを投入して竹を取り除き(言うても竹なので…数年後にどうなっているかは不明ですが)、へぇ、こんなに明るかったんだねと思うぐらい明るくなった北側の窓。実は日陰になっていたのは島ではキャーギと呼ぶ、成長が遅く貴重なイヌマキ。防風林にもなる木で、これのおかげで数々の台風にみまわれても被害がなくてすんだのだった。なんでそんな勢いで伐っちゃったんだろうな、たぶん地元の人じゃないな、と思いつつ。

引越しをしょっちゅうしていた頃には何でもなかったあれこれの手続きや何やかやが、こんなに大変だったかなと思う。思い立ってから最短で2週間、スッキリ引越し完了というのをやったことがあるけど、なにしろ馬力が要る。とはいえまだ準備段階で、実際の移動はこれからになる。いちばんの心配だったポポと堂々と暮らせる環境になることがなにより嬉しく、新しいおうちをポポが気に入ってくれますようにと願う。なんですかそのカッコウは。

10年経って、20年経って、あの時こんなことがあってですね~アハハ。なんて話せる日が来るような話じゃないけど、それでもそのおかげで、同じところにとどまり続けるという、お尻に生えていた根っこをぶち抜き、移動するという決断に至ったことは感謝以外のなにものでもない。明るい希望に満ち溢れた船出とはちがうけれど、船を出してみてはじめて見えるものがある気がする。やがて50歳を迎えようとする新人が、目からウロコをぽろぽろとはがしまくるであろう毎日。
楽しみにしています。



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