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寺カフェで集い語り合う 「墓友」というつながり

(*この原稿は、毎日新聞WEB「医療プレミア」で筆者が連載する「百年人生を生きる」2019年2月6日公開の記事です)

家族関係が大きく変わる中で、私たちが迎えた多死時代。少子化で後継ぎがいない、地方から都市に出てきたので菩提寺(ぼだいじ)がないといった事情を背景に、従来の「家墓」「先祖代々墓」とは異なる墓を選ぶ人が増えている。墓石を使わない「樹木葬墓地」や、都会で次々と販売されている納骨堂だ。「家」に縛られず、最後に眠る場所を自分が選ぶ時代になった。その選択が新たな「つながり」も生んでいる。自分の墓や葬儀を準備するなどの「終活」にとどまらず、死を考えることをきっかけに家族や友人と集まったり、人との関係を見直したりする「集活」につながる動きもある。「死」や「墓」が、生きている人同士を結びつける新たな役割を持ち始めたようだ。

社会が変化し寺や墓のあり方が変わる

大分市の中心部から車で20分ほどにある妙瑞寺(みょうずいじ・日蓮宗)。目を引くのは、山門の前にある土饅頭(まんじゅう)のような円墳だ。直径12m、外周には61面の垂直面がある。各面には御影石(みかげいし)の銘板が組み込まれ、一区画の墓となっている。これが、1998年に住職・菊池泰啓さんの思いを形にした、永代供養墓「安穏廟(あんのんびょう)」だ。血縁や家族同士以外でも、継承者がいなくても利用できる。寺が続く限り、供養する。

妙瑞寺では月1回、「なんじゃもんじゃカフェ」を開いている。今年1月10日昼過ぎ、安穏廟を契約した人とその知人や檀家(だんか)ら10人ほどが集まって、新年最初のカフェが開かれた。お茶菓子に手を伸ばしながら、日々の暮らしのこと、病気のこと、家族のことで話に花を咲かせた。

菊池さんの思いを最初に形にした「安穏廟」

核家族化や少子化で家族の形態、ライフスタイルが変わった。安穏廟の利用者を募り始めた当時、寺の多くは檀家制度を前提にした「家墓」しか提供していなかった。菊池さんは「社会変化に応じた墓を提供し、同時に家族だけでは支えきれなくなった死後供養や、老後の暮らしに寄り添えないかと考えたのです。寺は安心(あんじん)の場ですから」と話す。

寺が本来持っている地域での役割を見直して「寄り添い」の活動を始めた。その一つとして、2013年からカフェを始めた。お茶を出し、参加者同士が気軽に話ができるよう気を配る、いわばカフェの「店長」役をしている坂井幸子さん(67)の夫は同寺の永代供養墓に眠る。墓はもともと、佐賀県神埼市にあり、大分市内から墓参りに行くのが遠くて大変だった。「子どもにそんな負担はかけたくない」という気持ちと、菊池さんの考えに共感して永代供養墓を選んだ。「合同供養の場などを通じて、ここでお墓を選んだ人たちとは通じ合えるものを感じました。身内を亡くすと、意外と出かける場がない。そんなときでも気持ちが分かり合える人がいる」と坂井さんは言う。

同じように夫が永代供養墓に眠る宗美代さん(71)も「夫を亡くして3カ月ほどは家にこもっていました。でも、知人に誘われてカフェで話をしているうちにモヤモヤした気持ちがなくなっていった。今は毎回楽しい」と笑う。

妙瑞寺で開かれている「なんじゃもんじゃカフェ」の案内=大分市内(筆者撮影)

参加者も話題も毎回変わる。希望者が集まりフラワーアレンジメント講習会などイベントが行われるようになり、新規の参加者も集いやすく、人の輪が広がっている。

同じ墓地に入ることで生まれた人の縁

このような墓を通じて人をつなげる活動を推進しているNPO法人がある。東京の認定NPO法人「エンディングセンター」だ。エンディングセンターは、墓を選んだことをきっかけに生まれた交流や縁、緩やかなコミュニティーを「墓友(はかとも)」と名付けている。血縁や宗教にこだわらず、後継ぎがいなくても誰でも利用できる、桜をシンボルツリーにした樹木葬墓地「桜葬」の企画・会員運営をしている。同時に、会員向けに入院や施設入所の際に必要な身元保証や付き添い、亡くなった後の葬儀や死後事務など、従来は「家族がすることが当たり前」とされていたサポートを必要に応じて提供している。

エンディングセンターの桜葬墓地=東京都町田市で、筆者撮影

家族以外の人たちと縁を結ぶ「結縁」

理事長で元東洋大学教授(社会学)の井上治代さんは「高齢単身世帯の増加など家族の形が変わり、家族だけでは介護やみとり、死者祭祀(さいし)は担いきれなくなっています。家族以外の人たちとも縁を結ぶ必要性を感じ、『結縁(けつえん)』という理念のもとに90年代から葬送分野で活動してきました。結縁の一つの形が墓友です」と話す。

 従来の地縁・血縁による共同体のような、法律や慣習による権利・義務に縛られた強固な関係ではなく、「お互いさま」という理念に基づく緩やかなつながりが墓友の特徴だという。エンディングセンターが、そんな墓友たちが集う居場所として15年4月に開いたのが、その名も「もう一つの我が家」だ。

エンディングセンターの桜葬墓地=東京都町田市で(筆者撮影)

東京都町田市の住宅街にある「もう一つの我が家」は、木造2階建ての民家。利用者は、料理もすれば、ご飯を共に食べたり、おしゃべりしたりもできる。集まって一緒に学習会やイベントを開くこともある。ヨガと太極拳による呼吸法を学ぶ会や小物づくり、読書会など会員による自発的な催しが次々と生まれている。「先生役」も会員の中にいて、自分の特技を生かして担い合う。

呼吸法を学ぶ会では「これ以上元気になったら、お墓に当分入れなくなる」と冗談も飛び出し、和気あいあいとしていた。

この会に参加していた増坪宮子さん(76)は、町田に移り住んで40年以上たつ。今は81歳の夫との2人暮らしだ。

「もう一つの我が家」=東京都町田市(筆者撮影)

墓を通じて探せた見えを張らない関係

桜葬との出合いは13年。夫の退職を機に、一緒に眠るための墓を探し始めた。たまたま友人の兄が桜葬墓地に眠っていると知り訪ねた。山あいの地形を生かして敷地内には水が流れ、あちこちに花が咲いている。そんな環境が気に入り、夫婦で会の理念に共感したこともあって、訪れた日の翌日には契約した。娘は結婚して、夫婦とは別居している。「墓守」として頼る気はなかった一人息子は「自分たち家族の墓は自分たちでなんとかするから」と賛成してくれた。

その後、増坪さんは「もう一つの我が家」の存在を知って訪ねてみると、持ち寄った食材を調理して、参加者が一緒に食事をする催しが行われていた。みんなでワイワイと食べて最高に楽しいと感じた。他の催しにも参加するようになり、月に3回は訪れる。

「いろいろな人に出会え、勉強もいろいろさせてもらっています。いつかは同じ場所に眠る同士だから、隠しごとをしないで本音で話せます。死んだら遊びにおいでよね、なんて。見えを張らない関係と言ったらいいかな。素のままでいられる。それが墓友ではないかしら」と増坪さんは語る。

「もう一つの我が家」での活動に参加する増坪宮子さん(右手前)=東京都町田市(筆者撮影)

以前、自分も通う「写経の会」に参加していた墓友の一人が亡くなった。亡くなってから最初に行われた会では、参加者同士で自然とその人の思い出を語り、しのぶ会になったという。増坪さんは「ああ、こうして自分も思い出してもらえる。しのんでもらえる。なんだか安心します」と話す。

墓の無縁化に不安を抱える人が増えている

人生の最後に眠る場をどこにするのかは、「終活」を意識する世代にとっては、おのずと課題になる。以前のように、墓の継承や管理について家族に頼り切ることができないからだ。これまで墓は継承者がいることを前提に作られ、守られてきた。だが、少子化で子どもが減ることは、墓を守る人が減ることを意味する。例えば、従来の家族に頼るという考えのままなら、一人っ子同士が結婚すれば、自分の先祖の墓と配偶者の先祖の墓の面倒をみなくてはならない。お互いの故郷が遠ければ墓参りは疎遠になって無縁化する可能性がある。子どもがいない夫婦や、生涯を通じて結婚しない人の多くは、先祖の墓ばかりか、自分の墓を誰に委ねるかを考えておく必要がある。

「もう一つの我が家オープニングセレモニー」で講演する井上治代さん=2015年5月、東京都町田市で(筆者撮影)

実際に、無縁化の不安を抱えている人は少なくない。09年に第一生命経済研究所が実施した調査では、自分の墓が「近いうちに無縁墓になる」と「いつかは無縁墓になる」と考えている人が合計54.4%と半数を占めた。子どもがいる人でも52.7%が無縁化する可能性があると回答している。一方「無縁にならない」と考えている人の14.2%が「養子をとってでも、子孫が代々継承し、管理していく」のが好ましいと考えており、こうした手段を講じてでも「無縁にしない」と考えているとも推測できる。現実には、回答数以上に多くの人が無縁墓になる可能性を感じているのではないだろうか。

厚生労働省の「衛生行政報告例」によると、墓を閉じて遺骨を取り出し、別の墓などに引っ越しする「改葬」の届け出件数は16年度だけでも10万件近くあり、この15年ほど、増加傾向にある。従来の墓の維持が難しくなっていることの表れとも読める。墓のことを意識する人は年々増えている。それだけに、単に墓を物理的にとらえるのではなく、「墓友」のような緩やかなつながりを生み出すきっかけにもなることを意識してみたい。「人とつながりたい」という意思さえあれば、年齢に関係なく、人の縁は最後まで結ぶことができる。

(*この原稿は、毎日新聞WEB「医療プレミア」で筆者が連載する「百年人生を生きる」2019年2月6日公開の記事です。無断転載を禁じます)

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