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「よい戦争」を読んで、やれやれとスパゲッティを使って文章を書く

        前書き
村上春樹先生の51冊に入っていた、スタッズ・ターケルの「よい戦争」というブ厚い本に没頭していました。日系人収容所や、ヒロシマ、ナガサキの事がかなり書かれていて、なかなか興味深いですが、やはり、ドレスデンへの無差別爆撃の話は、まるでカート・ボネガットが書いているんじゃないかと思うほどでした。後は、えーと、えーと・・(なにも出てこない)。いえ、ホントに読んだんですよ。ホントに(あの量を)・・。クイズでも出してくれればたぶん・・・。

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(この話は、正真正銘明らかなるフィクションです。)
               ✳︎

ドーン!キュルキュルーガーンガンッー。

敵の存在する方角・・射距離から判断するに500m余だが、我が軍の前線と敵の正確な位置関係は分からない。

例えば、2個の棒グラフを横にした様な形で、その長い棒何本かが、相手の陣地に互い違いに侵入している。それだ。俺は今、その侵犯したグラフの先頭にいるらしい。くそ暑い。満遍なくジリジリ照射しやがる太陽が数千年前まで川底に眠っていた滑らかな土を埃にして空へ巻き上げ、腹ペコの山羊も遠慮しそうな硬い赤緑の草がボコボコと生えた、河岸段丘だ。

バズーカ胞の空圧と残骸が時おり土砂降りの様にバラバラ降ってくる。乾いた土煙りがパッと舞い上がり目に入りやがる。やれやれ、アメリカ兵には、あい変わらず豊富な砲弾があるのだろう・・数個の軽機関銃じゃ、こちらイタリア軍側は戦いたくても勝負にならない。

(イタリア人ジョーク)やれやれ、俺らは、ではスパゲッティでも食べるとするか・・。(冗談)

我々イタリア軍に与えられている命令は連合国アンツォへの上陸を、ローマ前方で食い止めること。「グスタフ・ライン」の完全死守である。

そして我々は、今、ガリヤーノ川とラーピド川の河岸段丘に陣地をはり釘付けになっている。
ラッキーなことに、片方を山脈に塞がれているため、空爆がないのが戦線を消耗戦へと長引かせている。

川や川岸の交通可能な場所には、俺たちの手で、あらんかぎり大量の地雷と機雷とブービートラップを埋めまくったため、「誰も通れない」し、したがって何人たりともここから「前進も後退もできない」のだ。

やれやれ。
ふと横目で見ると、司令官用の塹壕の中で、赤いベレー帽に将校バッチをつけた部隊長殿は、セモリナ粉の麻袋と板をどこからかだし、今にもスパゲッティを手打ちし出しそうだ。

斥候役の少年兵が、斥候用の塹壕をせむし馬みたいな格好で走り寄ってきた。

「報告します。至急、水が必要です。クリアなウォーター、新鮮な井戸水・・」
「どうせスパゲッティのためだろう?」
「はい!私たちは、それを夕食にいただく予定です!」

やれやれ、ホントにスパゲッティ・・。
勘弁してくれよ。

せめて4日前なら、まだ状況はましだった。
敵前線は、川沿いの傾斜部に釘付けだった。
敵と味方がミルフィーユ状に入り乱れ、歩行可能な道には、我が軍の地雷・・これが、現在の状況だ。

「あの、それから・・部隊長殿が、友軍136部隊長所有のナベを返却してもらうようにとの事であります。」
「あの、シェパードが行水できそうなナベを、隣の部隊長に貸したんだ。へぇー。」

やれやれ、きっと隣でも、スパゲッティでも茹でていたんだろう・・。

何度も、言う。4日前なら良かった。
「ねぇナベを貸してよ。」「はいどうぞ!今度返してね。」
心温まるストーリーではないか。戦争の本ができたら、戦友と食べ物という章にでも載せると良いだろう。

今、その部隊長のお友達たちの部隊にたどり着くには、1小師団ほどのアメリカ軍のミルフィーユのなかをかいくぐって行かねばなるまい。

人間より大きなパスタナベを抱えている兵士は、太陽に反射されるアルマイトでとてもキラキラと目立つし、歩くのはのろいし、なにしろ、すぐにイタリア人と分かる。戦争中に、パスタのことを考えているのは、イタリア人以外にいない。

でも、行くしかない。これが・・
たぶん、夕飯には、俺以外の全部は、部隊長お手製のなんとかして茹でたスパゲッティを食べているだろう。

俺は、耳に挟んだ手巻きタバコの紙を広げ、人差し指と親指を使って最後の刻み葉片を紙に乗せ指で広げ、指を舌で舐め両端をピッチリ巻いた。

臭い腐った泥と蒸れたズックの帆布、土埃と重油と汗とか分泌物やなにかが混然とした中で、その指は、まるで空調の効いた重厚なマホガニー材のカウンターバーの様な、清廉なあの街を憶いだす、薫香のある渋い味がした。

あーあ。やれやれ。スパゲッティかぁ。
ニホンジンにでも、生まれりゃ良かったよ。まったく・・。










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