質問076:速いショットを速いショットで打ち返すには?
回答
▶「ポジションを下げる」のが手っ取り早い
最も即効性が高いのは、「ポジションを下げる」です。
ポジションを下げてしまいさえすれば、対戦相手との距離が長くなるから、そのぶん、時間的な余裕が生まれます。
ポジションを下げ切って、飛んでくる対戦相手のボールが2バウンドする直前にもなると、球威球速が衰えていますので、そのボールを強打し返す(速いショットで打ち返す)のに、高度な技術力は要しません(ただしこの世に「速いボール」というのは存在しない話は後述します)。
多くのアマチュアプレーヤーが、ベースライン上に立ち位置を定めますが、これが問題になりやすいのです。
ベースライン付近に構えていたら、ベースライン上にオンラインで飛んできたボールの対応に苦慮します。
「ほとんど捕れない」といってもいいでしょう。
そして対戦相手がまだあまり技術レベルの高くない初中級者であったとしても、ベースライン上にオンラインで飛んでくるボールというのは、深さを出す意図がなくマグレ当たりだったとしても、結構頻繁にあるのです。
立ち位置をベースライン上に定めず、飛び交うボールに合わせて、変化させてください。
これが、対応力を高めるポイントです。
▶運動能力の高い人がテニスをやったからといって、必ずしも上手くいかない理由
ただしポジションを下げてコート後方に構えると、当然「足(フットワーク)」が必要になります。
広角に振られやすいですし、それから特に、前に落とされる浅いボールに応じるのが苦しくなってきます。
ここが、ストローカーとしてのフットワークの見せどころです。
ラファエル・ナダルよろしく強いストローカーは例外なく、フットワークがよい。
特にポジションを上げたり下げたりは、単に「速さ」だけではなくて、ボールと同調しながら動ける「間合いの計り方」が、フットワークの巧拙に関わります。
逆に言うとフットワークは、「速さ」だけではダメ。
どんなに速くても、ボールとの同調が途切れた「猛ダッシュ」では、突っ込みすぎてしまうからです。
運動能力の高い人が、テニスをやったからといって必ずしも上手くいかない最大の原因はここにある。
左右に振られたボールに関しては、どんなに遠くても、イメージのズレは起こりにくいですから、さほど問題になりません。
前後に揺さぶられたボールに関して、イメージのズレが生じやすく、その場合は足が速くても問題になるから、ボールに追いついても結局ミスするのです。
逆に「足は遅いはず」なのに、なぜかボールに上手く追いつく人は周りにいませんか?
それは、フィジカルの優劣とは関係なく、ボールとの同調が巧みであり、現実に対するイメージのズレがないから、そのようなプレーが実現している人なわけですね。
▶頭では理解してもやっぱり見誤る「ミュラーリヤー錯視」
「ポジションを下げる」手っ取り早いご提案をしました。
ただし現実に対するイメージのズレがあると、「そうか、ポジションを下げればいいんだ!」と頭で理解しても、どうしても体は、ポジションを上げたくなってしまいます。
実は、ここがいちばんのポイントです。
私たちは、イメージにはあらがえません。
「ミュラーリヤー錯視」のようなもの、とも言い換えられます(イリュージョン・フォーラムより)。
頭では「同じ長さだ」と理解しても、どうしても人の目には、下のほうが長く見えてしまうのです。
これは断言しますけれども、テニスで現実に対するイメージのズレがある人は、イメージを書き換えるしか、上手くプレーする手立てはほかにありません。
考えてみれば、大きな網の目のついたラケットで、アマチュアプレーヤー同士であればさほど速くもないボールを、相手コート側の広いエリアへ打ち返せばいいだけの競技です。
面積を形容するのに「テニスコート2面分」などとたとえられるくらいの「広さの象徴」(テニスコートというのは本来、ラインの外側まで含めないとプレーできないですから、このたとえも怪しいですけどね)。
どう考えても、そこへ上手く打ち返せないほうがむしろ、おかしくないですか?
なのになぜか、上手く打ち返せないという不思議。
その理由は、先述した「ズレ」があるからです。
例の、足が速い運動能力の高い人を思い出してください。
「運動能力はそこそこ高いはずなのに、自分はなぜ、テニスに限って上手くできないんだろう?」
思い当たるフシはありませんか?
逆に「運動能力は高くないはずなのに、あの人はなぜ、テニスに限って上手いんだろう?」とも。
▶現実に対するイメージのズレが改まると、ライジングショットも打てる
飛び交うボールに応じたポジション取りができず、ベースライン付近に貼りついているプレーヤーは、速いボールや深いボールが飛んできたら、どうしても対応に苦慮します。
もちろん、速くて深いボールに対しても、バウンドの上がり際を捉えるライジングショットで打ち返せる技術力があれば、話は別。
ポジションを上げてベースライン内に進入したからといって、対戦相手のボールが速かろうとも深かろうとも、打球タイミングさえ合わせて打てば、ミスはしません。
とはいえ攻守はバランスしだいです。
特に現代テニスではスピード感が極まり、ベースライン内にポジションを上げて、速いタイミングで仕掛ける「攻撃性」ばかりがフィーチャーされがちです。
しかし、そればかりでは、逆に通用しません。
いつもポジションを上げて構えていたら、ベースライン上に飛んできたボールの対応に苦慮するからです。
これはプロも同じです。
ポジションを上げて攻撃するには、「ここぞ!」という機会を見計らう試合勘がモノをいう。
ちなみに、先述した現実に対するイメージのズレが改まると、ポジションを上げてバウンドの上がり際を捉えるライジングショットも、打球タイミングが合うようになります。
▶並行陣は後ろ目のポジションからボレーを、つないで、つないで、つないで、つなぐ
それからご質問いただいているボレーについても、考え方は同じでよいでしょう。
下がって構えて、とにかくミスをなくす(ゆっくりでもいいから、浮き球を打たない)というやり方は、一見すると守備的すぎるように思われるかもしれませんけれども、これこそ攻撃的な布陣である並行陣のベースとなる展開作り。
並行陣というのは、一見するだけだと攻撃的な側面ばかりがフィーチャーされがちです。
しかしそのオフェンスを下支えするのが、確かなディフェンスです。
後ろ目のポジションでボレーを、粘り強くつないで、つないで、つないで、つないで、対戦相手のボールが浮いてくるなりしたら、ポジションを一気に上げるなりして攻撃に転じます。
それから、ボールが浮いてしまうのはなぜか?
「グリップが厚いから」
「ラケット面が上を向いて打っているから」
「ボールを切りすぎてしまっているから」
そういうフォームや打ち方を意識し出すと、ますます上手くいきません。
「打球タイミングが合っていない」が唯一の原因です。
ボレーでは、ストロークのような現実に対するイメージのズレは、起こりにくいでしょう。
ですから、一にも二にも、ボールに集中することが大切です。
▶この世に「速いボール」は存在しない
最後に、この世の中に絶対的な「速いボール」というのは、存在しない話をします。
そう感じるのは、主観であり、 相対的だからです。
時速100キロメートルが「速いボール」といっても、その倍の時速200キロメートルに比べれば、「遅いボール」という位置づけになります。
たとえば近年、東京の夏は、約37度の体温に迫る酷暑日が少なくありません。
そんな酷暑日が連続した後のある日、気温が30度程度に下がると、かなり「涼しい」と感じますね。
25度程度になると、「うすら寒い」かもしれません。
しかし服装の違いはあるにせよ、25度といえば、春先だと「かなり暑い」はずです。
「暑い日」など、ありません。
「暑く感じる日」があるだけです。
それと同じように「速いボール」はありません。
「速く感じるボール」があるだけです。
さてここから導かれるのは、感じ方は人それぞれなので、同じ時速100キロメートルのボールを「速く感じる」こともできれば、「遅く感じる」こともできるという結論。
それが、『新・ボールの見方~怖れのメガネを外して、ありのままに見る技術~』によって叶います。
こちらでもご説明しているとおり、ハッキリ見えないから、怖くて速く感じます。
ハッキリ見えると、お化け屋敷は怖くないし、ジェットコースターも速く感じません。
具体的なテニスのシーンに当てはめれば、同じ相手と打ち合うボールのはずなのに、練習だと「ゆっくりに感じられる」のに対し、試合になると「急に速く感じられたりする」といったご経験は、今までなかったでしょうか?
相手は、練習では手を抜いて、試合では急にギアを上げたのでしょうか?
いえ「客観的に見る」と、むしろ練習では速いボールをバカ打ちしていたのに対し、試合ではむしろ丁寧になって、相対的に球速は遅くなっているケースが散見されるのです。
それからもちろん、練習ではガスが抜けて内圧の下がった「ペコ球」を使い、試合では「ニューボール」を使うことによる球速の違いは認められるかもしれません。
ただしそれこそ、最も問題となる「現実に対するイメージのズレ」を増長する原因になる。
空気の抜けたペコ球でプレーするテニスと、ニューボールでプレーするテニスとは、「別競技」といってもいいくらいです。
ですからプロの試合では、最初はウォーミングアップを含む7ゲーム経過後、その次からは9ゲーム経過後にボールチェンジしますね。
老婆心ながら、ラケットでもストリングでもなく、テニスではボールにこそ最もランニングコストを費やすべきで、練習でも(なるべく)内圧の保たれたフレッシュな状態のボールを使うことが望まれます。
内圧の抜けたペコ球に慣れれば慣れるほど、「ずいぶん上手くなったぞ!」と思いきや、ニューボールとの感覚的な乖離が大きくなっているだけだったりします。
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