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シャボット スペース&サイエンスセンター(旧称オークランド天文台) 速報レポート (天文アウトリーチで巡る米国天文台調査の旅(2))

※注意※ 天文アウトリーチに関わる方の目線で書いています。

天文アウトリーチの文脈から見て、一言で表すと…《幾多の危機を乗り越えて生まれ変わり続ける、100年続く公開天文台》

1883年の創設時からある20cm屈折望遠鏡、現役の一般公開用の鏡筒。ブラスが渋い…!!


シャボット スペース&サイエンスセンター(旧称オークランド天文台) って?

・カリフォルニア中心部から車で30分、オークランド郊外の山中にある天文の一般公開を専門とする科学館(リサーチ活動は行っていない)
・19世紀末より公開天文台として活動してきた天文台が母体。2度の移転を経験しつつ、現在も天文教育に尽力する。非営利団体として運営。
・日本における公開天文台と天文系科学博物館の要素を「じっくり融合させ熟成させたような完成度を感じる」施設
・2つの天文台ドーム、1つのスライディングルーフ、1つの250席ハイブリッドプラネタリウム(Zeiss投影機)、1つの250席ドーム型ホール(後述)、2つの実験室、5つ以上の多目的小会議室、企画展示室、カフェ、ほか常設展示多数。
・体感的に、家族で十分1日楽しめるくらいの科学館
・ちなみに[Shabot]の発音は「シャボ」で、t は発音しないそうだ

2F通路、このまま進むと天文台へ行ける

・オークランド市中にあったオークランド天文台(1883年開台)が、2度の移転を経て、2000年に現在の形に落ち着いた。
・20世紀後半までオークランド天文台という名称だったので、アメリカの往年の天文ファンからは今もその名で呼ばれる。
・展示・体験ともに宇宙・天文に特化した内容で、子どもから大人まで楽しめる雰囲気
・館内のクリエティブは「子ども目線」で統一されている。館の強いこだわりを感じる。
・訪れた土曜日は家族連れも多く、2つの企画展、ボランティア20名程度によるいくつもの体験アクティビティを実施中だった
・毎週末9ヶ月かけて鏡を研磨し、自分の望遠鏡を作るクラブ活動が人気とのこと

実際に使用されたソユーズ帰還船の展示、焦げ跡が生々しい。後方では子ども達が衛星データを可視化する展示に夢中だった。
カリフォルニア州では多様な人種間トラブルが根深い問題となっている。この壁画は、ここ1-2年で子ども達と描いたもの。「祈りを込めて描いた」との言葉が耳に残る。

調査の様子

・プログラムマネージャーのリサさんの案内で、天文アウトリーチに関する質問を投げかけながら館内を巡る3時間のツアー
・リサさんは1996年からシャボットに勤める最古参のスタッフのひとり。
・調査日は土曜日で家族連れが多かったが、「今日は天気が良いのでみんなトレッキングに行ってるみたい。今日の来館者は少ないけど、雨の日はこの倍以上になる」とのこと。
・流星群や日食の日は相当な来館があるとのこと。「大きな天文イベントだと3000名以上になる。館への道中で見ている人も含めるともっと多い!キャパを超えているから、その時は交通問題が深刻なの」。
・カフェで食べたサラダが美味しかった。カリフォルニアの野菜は美味しい!

左の女性がLisa Hooverさん。1883年製造の20cm屈折望遠鏡の前で撮影


8インチ(20cm)Leah屈折望遠鏡 & 20インチ(51cm)Rachell 屈折望遠鏡 

・1883年製造の20cm屈折望遠鏡が、今も現役で公開中
・白昼の空に浮かぶアルクトゥールスを実際に拝見、にじみなどもなく綺麗に見えた
・周囲には歴史資料が展示してあり、倉敷天文台のような「歴史の中にいる」雰囲気で観望が楽しめる工夫があった

20cm屈折望遠鏡、恒星時追尾機能こそあれ、他はすべて手動操作。他の米国内の歴史的な望遠鏡と同様に、座標を知るためのエンコーダーのみ設置されていた。


赤道儀台座の手書きのホワイトボード。見える天体の情報が書き込まれている、良い雰囲気。


・1915年製造の510mm屈折望遠鏡はさすがの威容で、これも週末に観望会を実施中
・自動追尾装置のみ20世紀後半(それでも半世紀以上前だが)にモーターを取り付けたそうだが、それ以外は基本オリジナル。
・製造当時は合金技術が未熟であるため、真鍮と鉛で鏡筒は作られているそうだ。
・製造当時のおもりを使った恒星時追尾装置が、赤道儀内に静態保存されている。
・観測室にはディスプレイもあり、望遠鏡にまつわる番組が放映されていた
・土曜日だからか、20cm屈折、51cm屈折ともに専門のスタッフが配され、熱心に解説を展開していた
・他に2000年の移転時に設置された91cm反射望遠鏡もあり、3本の望遠鏡で観望会を実施中

1915年製造、51cm屈折望遠鏡。これも一般公開用の鏡筒。室内に入ると、望遠鏡を見上げて思わず「おお!」と声を出してしまった。
1916年製造の(当時は)観測用の梯子。21世紀にレストアし、現在も使用中。中央のイスは、重りで昇降する手動エレベーターだ。

・天文台の公開は日没から22時まで
・眼視観望が基本で、電視観望はない
・パンデミック期に試しにライブ配信をしたことがあったが、今はよほど特別なイベントでないかぎり配信することはない(そもそもイベントの配信であり、電視観望ではない)
・一晩泊まり込みで体験できる子ども向けのツアーや、天文の講演+ネイチャーゲーム+カリフォルニアワインをからめたイベントなど、すそ野を広げる活動が多く展開されている
・天文台ドーム前の広場に、テントを広げて宿泊する人もいるとか…(さすがアメリカ)

天文台ドーム前にある、今日見える主要な天体リスト。すぐ側が森なので、鳥類などの案内もあった。
CarlZeiss製投影機。傾斜式のドームで、奥にステージが見える。絵画や音楽などアートx天文企画に積極的に取り組む。

プラネタリウムと、ドーム型ホール

・プラネタリウムはZeissの投影機で約250席
・投映を見た限り現在最高性能の投影機ではないものの、必要十分な光学+プロジェクタのハイブリッド構成
・プロジェクタはドームスライス6台+講演等に使う正面投映用の1台の計7台構成
・プラネタリウムは1日5投映ほど
・季節の星座解説も館独自に番組化しており、誰でも投映を行えるようにしていた

コンソールの様子。私はプラネタリム機材にはそれほど詳しくないが、日本で見たものとよく似ていると感じた。

・他にもう一つ250席のドームがあり、これはIMAX規格の360°フィルムを投映していたもの。金銭的な要因でフィルムの供給が絶たれた今も、講演会の会場として使っている。
・館で保存されている1970年代に製造されたフィルムが、現在は展示に利用されている

250席のドーム型ホール。現在も360°投映はできるらしいが「使っていない」とのこと。講演スライドを映すプロジェクタのみ使用中。中央やや右の上面が黒いBOXにプロジェクタがある。
IMAX規格スライドフィルムの展示。1970年代以前の製造とのこと。


エピソード

・100年を越える歴史の中で、施設は幾度も存続の危機があった。
・2000年に移転したときは、施設直下にあった活断層が原因。
・そして現在のパンデミックが、大きな危機を引き起こしている。

・施設は、San Francisco Astronomical Society(SFAS)という市民団体との繋がりが強く、1915年以来の強固な関係があった。
・しかしパンデミックで、(理由は語られなかったが)SFASが空中分解、グループは深刻な状況に陥り、施設運営に支障をきたす事態に。
・さらに施設側も来館者が激減し、75%の職員を解雇せざるを得なかった。ボランティアも大部分が去った。
・加えて、もともと施設の土地は、市やSFAS等が出資して権利を保有していたが、SFASの空中分解で存続が危ぶまれる事態になった
・そこで、施設を運営する非営利団体が土地を買い取るという大きな決断を去年行った。

・パンデミックがある程度落ち着き、2021年11月から開館再開(調査時は、ちょうど再開館から1年)
・しかしスタッフもボランティアも以前の水準にはほど遠い
・科学館やスタッフを支援する複数の制度を活用し、スタッフの教育や施設間の情報交換、新しい展示の獲得を急ピッチで行った。
・基金から予算を獲得できたことが大きい。
・現在も難しい状況にはあるが、「すべてを新しい仕組みとして刷新することで切り拓いていくつもりだ」とのこと。

手前が51cm望遠鏡、奥が20cm望遠鏡のドーム。この広場でテントを広げてキャンプすることも出来るらしい。(さすがアメリカ)


「日本の公開天文台は歴史が浅い施設が多いが、シャボット スペース&サイエンスセンターのように100年以上続く天文台になるにはどうすべきか?」

天文学という学問の体では一般の人に受け入れられることは難しい。アートやエンターテイメントを取り入れ、時代に合った展示や企画を行わなければ、すそ野は広がらない。
また、特に重要なのは子ども達。彼らが大人になって宇宙や天文を志す人(それは仕事という意味に留まらない)になり、またこの施設を支えてくれる存在になり、地域や社会に還元されるループを生み出す。これをサポートしなくてはならない。(要約)

助成 公益財団法人カメイ社会教育振興財団(仙台市)
助成 全国科学博物館協議会(東京都)

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