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突然ざわめきが【第四回】:『遠藤ミチロウ』

最近の輝輔はPRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS を見ていた。夢に向かって全力で生きる少女たちの姿を目撃してはその眩しさにくらくらしていた。俺と殆ど年の変わらない、あまりにも輝かしく突き進んで行く姿が己と乖離しすぎていて驚く。生命を使って懸命に生きること、素晴らしすぎる・・・になっていたため、完全に「ロックンロールとは?」って感じ。

だったんだけど、新年から両親の間に挟まれ母からブチギレられたり説教されたりして思い出しました。ロックンロールを・・・。(ほんとに?)


おかあさん 
雨の信号はいつも横断歩道のわきでぱっくり口を開けているあなたの卵巣が真紅に腫れあがった 太陽の記憶をゴミ箱から引きずり出し
そしてそこから一匹の虫がこそこそと逃げ出そうと
28万5120時間の暗闇をめぐりながら
今すぐ夕食の食卓に頻繁に出された玉ネギの味噌汁を頭からかぶり
ずぶ濡れになった幸福の思い出を今か今かと待ち侘びる自閉症の子供の通知欄に
ぼくのおとうさんは公務員ですと一人で書き込む恥ずかしさを誰かに教えたくて
放課後に来るのも待ちきれず教室を飛び出して 一目散に家を目指したけれど
漏れそうになるおしっこを我慢して 教えられた通りに緑色に変わったら渡ろうとしていた
信号が 実は壊れていたんだと気付いた時には既に終わっていたんです
お元気ですか?

(お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました/THE STALIN)


あなたの顔は忘れてしまいました、なんて歌いながら決して忘れられていない。というか、忘れたくてもどうしても忘れられない。怒涛の文字数に圧倒されるような詩が、脳内に流れるままに途切れることなく繰り出される詩が、たったひとつ母のことだけを思っている。


母と手を繋いで歩くときに香ってくる匂いは化粧品の匂いだと15歳の時に気づいた。メイクして出かけた日に自分から同じ匂いがしたから。ひょんなことで40年前の母の動画がYouTubeにアップされていることを知った。母が、私を産む以前の人生があったということに真剣に驚き続けた。そんな母の顔を私は忘れられるはずがない。もう信じられないぐらい家族を憎んで、毎晩泣き続けても、絶対に私は何一つ忘れることができない。母親にはそうさせる力があるというか、あまりにも大きすぎる存在で、子にとっては揺るぐことのないたった一つの世界で根源だから。

それから目を逸せるようになって、自分が自分の中心になって初めて、母に対して涙を流せるというか・・・、なんというか・・・。

THE STALINの楽曲に漂う血生臭い空気の中でも一際血みどろで、一等輝く曲に思えてならない。音源のラジオみたいな声質も相まって俺の昭和のアングラは遠藤ミチロウと丸尾末広で構成されている。



父よ、あなたは偉かった
ボクにはもう、一片のユートピアも残されてはいないのです
憎しみ合うことにしか、生きている実感を感じられない、この貧相な体を、ネズミの餌にだけしておくのは、勿体無いと、チヤホヤされるたびに手を合わせて神頼み、神経質な潔癖症の女子高生の真紅なトサカのような陰部に、何度も何度も頭を突っ込んで、惜しげもなく絞り出した精液を、結婚式のウェディングケーキの生クリームの中に塗り込んで、あなたの夢みた人生の幸福を、参列者全員で祝福するのは白々しいと、今にしてボクは思うのです

(父よ、あなたは偉かった/遠藤ミチロウ)


性的な描写を作品に含ませること、それを題材として扱うことがなんかカッコイイ気がするのはこういった詩があった上なのでは?と思う。ただ、この詩におけるボクの語るべきものは、父を語る上で大抵は引っ張り出されるはずのない両親の性行為(自身の根源となる行為)を冷めた顔で空想している部分にある。しかも父の加害性をわざわざ詳細に語る。その冷淡さがカッコイイ、思春期過ぎ成人し20歳過ぎた今も僕はこれをカッコイイと思っているわけです。


遠藤ミチロウは、もう後がないから消えてしまおう・・・という歌詞か、ロマンチストに代表される過激なパンクロックの歌詞か、という中で先に述べた二つの楽曲はどちらにも寄らない雰囲気がある。THE STALINを知り、遠藤ミチロウを知った時に、何よりもグロテスクで何よりも目を逸らしたいと思ったのがこの二つの楽曲だった。父と母が作り上げてきた家庭や子を産むという行為そのもの、何もかも祝福されるべきもので、特に遠藤ミチロウが過ごしてきた昭和を思えば、何もかもが幸福とされるものだったはず。それこそが幸福であると疑わない人々の幻想を剥がし、いかに何かを犠牲にしたもので、いかに気持ち悪いもので、ということを事細かに説明されている気がしてならない。

父や母が齎してくれた幸福と、同時に与えられることになった呪いを考えずにいられない時に歌われる歌はこういう曲であるんだろうな。


執筆者:輝輔(@gv_vn8



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