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突然ざわめきが【第二回】:『椎名林檎』

俺の人生は、小林賢太郎プロデュース作品『LENS』、椎名林檎 短編キネマ『百色眼鏡』を見た時に確定してしまった。自分自身に嘘をつけれないように、逃げられないようにそう宣言しておく。

椎名林檎の楽曲を認識したのは、「茎」が最初だった。「茎」は『LENS』の挿入歌である。そもそも『LENS』は『百色眼鏡』で2人が共演した際に決定した講演であり、どちらも設定が地続きでつながっている。気になる方はDVDなどを購入して視聴してください。
『加爾基 精液 栗ノ花』のレコ発ライブ、「賣笑エクスタシー」には小林賢太郎がゲスト出演していたりするので両方のヲタクの方は是非・・



椎名林檎といえば、女心を代弁するような歌手という感じなんだろうか。かつて彼女はインタビューで「殿方は黙ってて!!」と発言していた。女の子のために曲を書いている、とも。俺はちょっとキモイ視点で椎名林檎という存在を信仰しているために、ちょっとキモイ語りしかできません。男性目線でもなければ女性目線でもない視点で・・・。俺は椎名林檎が好きだ、何から語っていいのか分からないほど。

主に椎名林檎に惚れ込むことになったのは女の感情としての共感の部分ではなく、彼女の存在そのもの。完成されている、?のとはまた違うかもしれない、世界に完璧で正しいものがあるのならば、きっとそれにものすごく近い、パフォーマンスの揺らがない強さにいつの間にか惹かれた。椎名林檎の自身のアイデンティティに肉薄していくような歌詞たちが好きだ。
この音楽に触れているとき、夢を見ている感覚と似ている。世界に浸ることを許される、許されている時間。僕は彼女から提示される物語が本当に好きだ。

ねえどうして りんごかじったの?
You must know
りんごはだれなの
We should know
Who the hell is an apple ?
Apple for me
Apple for you

(APPLE/TOWA TEI with Ringo Sheena)


わたしがあこがれているのはにんげんなのです
ないたりわらったりできることがすてき
たったいまわたしのながわかりました
あなたがおっしゃるとおりの「りんご」です

(りんごのうた)

椎名林檎という作り物の頑丈さ。

98年にデビューしてから子を成し活動休止するまで、アルバムで言うと『無罪モラトリアム』から『加爾基 精液 栗ノ花』まで、彼女は脆さを演じているように思う。歴史上の若く死して伝説となったアーティストやバンドマンには共通の脆さが漂っている。私生活もパフォーマンスも過激で荒れているような、俺の薄い知識で言うとシド・ヴィシャスとか、カート・コバーン…とか!(多分もっといる)の、生き様、死に様。
椎名林檎はそれらに名を連ねそうな雰囲気はあるが、きっと意識的に模倣しているだけで、崩れていく気はさらさらない。彼女の中には確立した何かがあり、それに従って真っ直ぐに歩き続けている。俺たちに晒される、目の当たりにする彼女の姿は何もかもが嘘で、しかしそれは椎名林檎としての真実そのもの。
『百色眼鏡』や『りんごのうた』などで彼女はわたしたちが抱く全ての椎名林檎という偶像を肯定している。1人ずつ、それはファンであったりファンでなかった人たちが積み上げた、塗り固めた虚構を彼女は決して怖そうとはしない。与えたままでいる。
細い体にギターをかけて、虚な瞳をしているが、実は全く煌々と輝いている。その、偽りの中に見え隠れする彼女の支柱のようなものから目が離せない。
ライブ映像『下剋上エクスタシー』みてくれ!俺のロックはこれや・・・(そういうものがたくさんある、豊かな人生)


命が容れ物である感覚を持って生きていく。

逆さに数えて残りを測ってるの
確と最後から指折たった今まで
使い果たすのさ 今生のすべて
さまよえる心よ 振り返るなかれ

(逆さに数えて)


借りものゞ命がひとつ 厚かましく使ひ込むで返せ
さあ貪れ笑ひ飛ばすのさ誰も通れぬ程狭き道をゆけ

(獣ゆく細道)

常に死の雰囲気を纏っていて、でもそれは決して嘘なんかでは無いから。
xでバズってたツイートにデビュー当時の椎名林檎はメンヘラで・・・的なことが書かれており、俺は椎名林檎のデビュー後に生まれているために、当時の空気感を知る術はなく・・・涙 
過去のテレビ歌唱の映像を見ること、ファンや本人のブログや日記を読むことで情報を得ることはできるけれど、椎名林檎がテレビで歌っている時のお茶の間の空気は俺はずっと知ることができない。世間の評価なんかも分からない。
でも俺は、彼女のことを知って好きになっていく過程で、死を見据えている人だなと思っていた。真っ直ぐ、例外なく死んでいく生き物として。人の肌を表現するときに下地に赤色や青色を重ねるように、音楽の、表現の根源に同じものがある。

執筆者:輝輔(@gv_vn8



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