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製品改善を生むかもしれない「クチコミ集め」への違和感

「利用者の声を聞き、改善に活かす」

製品などのモノであれ、Webやアプリなどのサービスであれ、利用者の声=フィードバックは質の向上のために欠かせないことだと言われる。
もちろん僕も「フィードバックが製品やサービスの向上につながる」ということには賛成だ。

ただ、この利用者の”フィードバックの集め方”が最近気になっている。


フィードバックは「誰」のため?

利用者のフィードバックにはいくつもの種類がある。

・クチコミ(SNS、レビュー、リアルでの紹介)
・意見
・クレーム
・問い合わせ
・言語化されないフィードバック(行動)
etc.

少し逸れるが、言語化されないフィードバックは、小売店の販売スペースなどにカメラを設置して来店客(潜在的な利用者)がどこを見て、どこを触るかなどを集めるもの。Webやアプリにヒートマップなどの解析ツールを導入して行動をトラッキングするものなどを想定している。


ハイアングル

で、僕が気になっているのは無意識で発生する「言語化されないフィードバック」ではなく、意識的に生まれるクチコミ・意見・クレーム・問い合わせによるフィードバックだ。
そもそも利用者は何のためにフィードバックを行うのだろう。

フィードバックによって得られるメリットが「自分」なのか「他者」なのかで分けるとわかりやすくなる。

自分のため:クレームや問い合わせ
他者のため:クチコミや意見

となると思う。

提供者にクレームを入れることで、自分の困り事や感情が解決でき、問い合わせにより疑問が解消する。これらはつまるところ「自分」に対してメリットを生む行為だ。
一方で、「ここが良かった」「でもこれはだめ」などのクチコミは今後その製品を買ったり、サービスを利用する可能性のある「他者」に対しての行為だ。「××を〇〇に変更した方がいい」など直接提供者側に対しての意見もまた「他者」に対してだ。


金銭的なメリットのために行われる「クチコミ」


メーカーやサービス提供者としては、クチコミは非常に重要だ。良いクチコミが生まれれば購入率や利用率の向上にもつながるかもしれない。もちろん、逆に作用(購入率・利用率などの低下)する場合もある。
ただ、共通しているのは、クチコミは今後の製品やサービスの改善に役に立つということ
しかし、クチコミはそうは生まれない。僕自身の行動を振り返っても、ものすごく期待を超えていた(もしくは下回っていた)場合ぐらいしかクチコミはしない。

クチコミが欲しい、でも集まらない。じゃあどうする?から生まれたのが、「ポイントプレゼント」や「〇%OFF」のような利用者に金銭的なメリットを与えてクチコミ(レビュー)をしてもらう手法。最近増えている、インフルエンサーへの商品提供なども金銭的(物質的)メリットである点では共通だ。これは強力で、僕が前職のECモールでECコンサルタントとして働いていたときには、多くの担当店舗に上記のようなクチコミキャンペーンを実施してもらったし、これによって多くのクチコミが確かに集まった。

ただ、今考えると、金銭的なメリットで集めたクチコミは本当に意味のあるフィードバックだったのだろうか?と懐疑的だ。モール内の検索上位に来るなどの効果はもちろんあったが……。


金銭的なメリットによって生まれる弊害


唐突だが、一つたとえ話をしたい。

Aさんは1軒屋に住んでいて、お隣も同じく一軒家でBさんが住んでいる。
お隣に住むBさんは気持ちのいい人で、毎朝Bさんの家の前の道路を掃除している。Bさんは掃除の際に”ついでに”Aさんの家の前も掃除してくれていた。
Bさんに感謝の気持ちを示したかったAさんはある時、「いつも掃除ありがとうございます」と感謝の気持ちを込めてお金を渡した。そうしたら、それ以降Bさんは掃除に対してお金を要求してくるようになった。

もちろん、こんなに極端な例はないだろうが、善意から行っていた”ついで”の掃除に対して金銭的な報酬が支払われてしまうことで、善意が対価を伴う労働になってしまったのだ。

同じ要素を金銭的なメリットを与えるクチコミキャンペーンもはらんでいると思う。つまり、たとえすごく良いと思っても金銭的なメリットがないとクチコミをしたくない人を生む可能性があるのだ。

金銭的なメリット以外を考える

では、金銭的なメリット以外にクチコミをしたくなるものはないのか?

そのヒントは信用経済の考え方にあると思う。「アンバサダー制度」の様に特別な立ち位置として、クチコミをしてくれた人を評価することはできるかもしれない。多くのサービスで、利用金額の高い利用者をロイヤルカスタマーに位置づけているが、それを利用金額ではなくクチコミの貢献度で判断することもできるかもしれない。

クチコミの貢献度の測定は、技術的な難易度が下がれが実現はできるはずだ。

もう一つの方法がブランディングによる利用者の「ファン化」だろう。ファン化は口でいうほど容易ではないが、ファンであれば応援している製品やサービスを応援するし、積極的に広げてくれる。今すぐに取り組める金銭メリット以外でのクチコミを集める方法はブランディングなのかもしれない。

製品やサービスのコモディティ化が叫ばれる今だからこそ、クチコミなどのフィードバックを集めることがもっと容易になり、有益なものになってほしい。

そして、僕はそこで生まれた「とびきりいいモノ」が買いたい。


text: Takehiro Nagi

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