登校
正樹「あの線を越えたら天国だとして、お前は行く?」
優也「行くかな。どうだろう。」
正樹「俺は行く。」
優也「どうして?」
正樹「天国っていいとこらしい。」
優也「僕もそう聞いてるけど、わざわざ行くようなとこかな。」
正樹「例えば、ソーダとコーラがあって、お前はどっちを選ぶ?」
優也「ソーダ。」
正樹「わざわざ選ぶようなものかな。」
優也「ほほう。」
正樹「例えば、お母さんとお父さんがいて、お前はどっちが好きか。」
優也「お母さんかな。」
正樹「俺もだ。でもわざわざ好くようなものかな。」
優也「なるほど。あそこには白と黄色があるけれど、どっちのことを指したの?」
正樹「黄色だな。あの太さを線とするのは少し気が引けるけど。」
優也「白を超えるけど、黄色は超えない。この場合はどうなる?」
正樹「うーんと、天国と現実の中間でもがくってどう。ラーメン屋の地縛霊とか、図書館
の座敷童とか、そういう中途半端なものと場所にしか在れないとしたら。」
優也「それは嫌だな。」
正樹「だろう。黄色を越えるか、越えないかを判断せよ。」
優也「もうちょっと粘らせて。」
正樹「許す。」
優也「黄色の幅の話、さっきしたでしょ?」
正樹「うん。」
優也「黄色の5割しか越えないとしたらどうなる。」
正樹「ほぼ天国いけるけど、来世は馬決定。」
優也「絶妙に嫌だな。じゃあ6割。」
正樹「そこはもうほとんど天国と言っていい領域だけど、今世の恥ずかしい思い出フラッ
シュバック付き。」
優也「ギリ耐えられないラインだな。じゃあ8割なら。」
正樹「そこは休日午後の銀座。」
優也「歩行者天国か。いいな。」
正樹「さあどうする。」
優也「越える。」
正樹「おお!!一緒に越えるか!」
優也「もしこのまま越えて天国に行くとして、帰ってこれるの?」
正樹「そらこれるだろ。」
優也「どうして言い切れるの?」
正樹「俺たち毎日ここを越えて、また戻ってきているじゃないか。昨日も一昨日も。」
優也「そっか、それもそうだね。」
正樹「行こう。」
優也「うん。」
写真は荒木経惟さんのものです。