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ゲーム理論で談合を暴く 〜リニエンシー制度〜

 「ゲーム理論ですか?聞いたことはある、だが自分の人生との接点ゼロ、よって興味ゼロ」という方に「ゲーム理論の考え方は現実社会でも使われてるんです」というお話をお伝えしてみたいと思います。

談合は見つけにくい

 談合は独占禁止法第3条で禁止されている行為、立派な犯罪です。しかし「秘密裏に事が進むので証拠収集が難しい」ことから、内部通報でも無いと摘発は非常に困難です。しかし実際内部通報をする人は少なく、闇に埋れがちでした。

 そこで考えられたのがリニエンシー制度ゲーム理論の考え方を使って、内部通報する動機を作ることで摘発件数を増やそうという試みです。

 以下、2社で談合を行った場合を例に説明します。

リニエンシー制度以前の状況

 両社黙っていれば発覚する確率は0.1%と非常に小さいが、もし発覚すると両社に課徴金1億円が課せられると仮定します。

ナッシュ Before

 この状況だと両者とも黙すという選択が利得の面で最適です。内部通報は「利得抜きの強靭な正義感」を持つ英雄の登場を期待するしか無く、英雄不在で闇に葬り去られてしまうケースが多い状況でした。

A社,B社の利得
黙る

発覚したら1億取られるけどほぼ発覚しない(0.1%) 
- 期待効用 : 1億 x 0.1% = 10万
通報
1億円取られる

リニエンシー制度

 この状況を打破するため作られたのがリニエンシー制度です。リニエンシー制度は通報してきた会社に、課徴金免除と言う形でその順番によって一定の褒賞を与えることで、通報のインセンティブを作ります。

リニエンシー制度による課徴金免除の例
- 1番目に通報 : 全額免除
- 2番目に通報 : 50%免除

 下記の図はリニエンシー制度下での利得を表にしたものです。

ナッシュ After

 この利得表で見るとわかるように、両社の利得は、相手がどちらの選択をしたとしても通報する方が上になっています。

 結果として、正義感や人情のかけらも無く、利得だけで動く会社でも、利得の観点から通報という選択をとるため、談合の発覚が増えることになります。

 しかし、よーく見ると本当はA社、B社とも黙すを選択すれば-10万円で済むのでそっちの方が両者とも有り難いはずです。でもこのルール下ではそこは均衡点にならないのです。

これはゲーム理論の教科書には必ず出てくる囚人のジレンマと呼ばれる状況と同じです。 

日本での適用

 この制度は日本でも2006年に導入され、それ以降談合の摘発数が増加するという効果を上げています。

こむずかしそうに書いてきましたが、簡単にいうと「早く告げ口したら許しちゃる」制度です。

 

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