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#31『Chime』ネタバレトーク(の進行台本)

各ポッドキャストに『Chime』のレビューをアップしました。

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黒沢清、今年2本目の公開作品は中編ホラー。
純度100%の黒沢印が詰まった傑作をネタバレありで語ります。

○Summary○

  • 料理教室での恐怖演出、アプローチの違い

  • Jホラーのアイコンは、いまも生きている

  • すべてを語ると、魔法が解ける

進行台本

収録に使った台本を掲載します。
自分用なので誤字脱字などはご愛敬。

これだよ!これこれ!
天下御免の映画バナシ

改めましてご機嫌いかがですか
このポッドキャストは
私カシマが、毎週新作映画を取り上げ
ざっくばらんに、忖度なしにネタバレ全開で語るプログラムです。

番組のフォロー、お忘れなく。

ということで本日の映画は「チャイム」です

現代の巨匠と名高い黒沢清監督の新作短編映画。
全部で45分ですね。まぁ中編と言っていい尺ですね。
本作はもともと動画流通の新しい形として、デジタルデータをDVDなどのように保有する
目的で作られた枠組みのプラットフォーム「ロードステッド」で配信されたものなんですね
それが8月から劇場公開ということで、東京を皮切りに全国で公開予定
ということなんですが

監督は先ほども申し上げました黒沢清。
出演は吉岡睦夫、こひなたせいいち、田畑智子、渡辺一兄、などなど

これ、東京を皮切りに上映が開始されたということなんですが、
東京ですらミニシアターで今現在4館で、全国的にもポツポツと公開していますが
そもそもこの「チャイム」が新しい動画配信販売で制作されるニュースがでたときに
結構話題になってたのを記憶しています。
黒沢清ですしね、いまの日本映画の代表監督みたいなひとですから

その人の新作ということで、これは見にいかない手はないなと思いまして
先週東京は下北沢のエキマエシネマK2に行ってまいりました

いま自分は福岡県の限界集落に住んでいまして
近くでやってないもんですから
一番近くで宮崎ですから、困ったもんなんですが

で東京でも4館ですからね
行ってみてまぁびっくりしましたね
当日だとチケットが取れない。お客さんいっぱいでしたね。
取れても一番前の端っことか、結構干渉状況がよくないので
大変でしたがね。

僕も一番前の端っこで見てきました。

いやぁ、面白かったですね。
これだよ!あんたに求めているのは!とほくほくしてしまいました。

黒沢清といえば、今年は「蛇の道」がありました。
これがほんとにつまらない映画で、どうしようもないんですが
「蛇の道」のレビューも依然この番組でやっていますので
詳しくはそちらを聞いていただくとして

で、「蛇の道」見たときに「黒沢清も耄碌したのかしら」
なんて思ったんですけどもね
それはもう杞憂に終わりましたね。

なんだか、なんだかよくわからない
なにが起きているのか、なにが映っているのか
いや、もしかして何も映っていないのかもしれない
それなのに、怖い
恐ろしい

そのような映画で最高でした。
この映画のあらすじ、言えますか?
僕はねえ、言えないんですよ
なにが起きたか、は言えますよ。

料理教室で生徒が自殺とか、面接に落ちるとか、息子が金をせびるとかですね
でもそれが、いったいなんのか
よくわからないんですね
でもめちゃくちゃ面白いんですよ
だからね、いわゆるストーリーですね
そんなものがなくても、筋立ててなくても、演出と撮影と編集で
映画は面白くなるんですね。

まぁそんなことを今からお話ししようと思うんですが
ちなみにこのポッドキャストでは「ラスト、彼はなにを追っていたのか」「チャイムとはなにか」徹底解説みたいなことはやりませんからね
そういうのが聞きたい人は、岡田斗司夫とかをね聞いてください

まずこの映画は、ダクトが映るカットから始まります
そこから、カメラが下へ降られると料理教室になっていると
ここでですね、まず「おっ」と思うポイントは
ノイズですね。
ダクトとノイズというのは密接な関係にあると日常生活の経験から
すんなり受け入れられますね
そこで油断させといて、要所要所でノイズが支配してくるんですね
とてもノイズが発生しないような場所でなったり
急に無音になったりですね
ノイズ周りの音の演出が面白いんですが
ちゃんとファーストシーンから、演出されていますね。

で、料理教室で主人公の松岡が、島になっているキッチンを回って生徒を見ています
そこにたった一人で料理をしている田中
松岡が声掛けをするんですが、全然いうことを聞かないんですね

で、この一連の田中のシーン、2つくらいだったと思うんですが
松岡との会話をカットバックで撮っていますね
で、ここのね、環境音、ノイズが全然つながってないんですよ
カットによって流れるノイズがちがうんですね
普通はこんなことしません。
環境音だけを長時間録音して、それを編集のときに
うすくかぶせて、音のつながりがスムースになるようにするもんなんですが
そういう風にしてないんですね
面白いもんで、これが不気味さを増してるんですね
これがね、学生の自主映画とかだったらば
音が、ノイズがつながっていないというのは、稚拙な編集、政策だ
と言えるんですよ
黒沢清作品だというブランド意識もあるのかもしれませんが、
カットごとの環境音、ノイズのつながってなさが明確になるにつれて
不気味さが増していくというね
これはすごいですね

で、その不気味さが増して、なにか起こりそうな雰囲気になると
窓の外から電車の反射光がさしてきて、田中にチカチカっと当たるんですね
絵的にもノイズが入ってくるんですね

そして田中は首に包丁を突き刺して、死んでしまうと

びっくりしましたね
怖かったですよ

でね、怖いシーンというのはたくさんあるんですが
一番怖かったのってどこだろうと考えたときにですね
松岡が、女性の死体を埋めた後、料理教室に来てますよと
言われるあそこじゃないかなと思うんですよ

椅子に座ってますよと事務員に言われて教室へ行く
カメラは横移動のドリー撮影、松岡を捕らえる
入口から左へ流れて、椅子に急にカメラがふられると、いない

ここで面白いなぁと思ったのはですね
横移動のときに、どんどん怖くなるんですね
ここはね、さっきの田中との一連のシーンとは怖さの作り方が違うんですね

田中は「頭の中に機械があって、チャイムがうるさくて」と言ったり
料理教室で不気味な行動をしたり、最後には自殺したり
となにか明確なアクションをお起こしてるんですね

でも、この椅子へ向かうシーンは、
女性が何かをしているわけではないんですよ
結局いませんでしたし
霊が映るわけでもないですから

だからここは「怖いことが起きるシーン」ではなくて「怖いことが起こりそうなシーン」なんですね
で不思議なことに、怖いシーンよりも、怖そうなシーンのほうが怖いんですね

で、これってね経験あるんじゃないかなと思うんですよ
なにかがありそうな方が、いざあった時よりも感情として増幅される
例えば、旅行の前の日のわくわくを、実際の旅行が超えられるのか
そかね
いざ服を脱がせようとする、脱がせる直前のほうが、
いざ真っ裸になったときより、エロイ
とかですね

だからなにか起きそうだ、という気持ちは、いざなにかが起きるより強く印象にのこる
ってのはあるんじゃないかなと

だから、松岡は女性の生徒をめった刺しにしますけど
それは怖いというよりは、驚きに近いですね。うわぁびっくりって感じですね。
行動としてはは、人を殺す方が怖いというカテゴリにある気がするのに
実際は、椅子に向かって歩く方がよっぽど怖いんですね
怖そうなことが起きそうだからなんですね

このね、料理教室で起きる2つの事件を見ても
黒沢清の恐怖演出の幅広さ素晴らしさが堪能できますね。

でね、素晴らしい恐怖演出は他にもあるんですが
もう一つだけ挙げたいのが、松岡の家のインターホンですね
あそこで、何が映っているのかわからないが
非常にノイズの多い映像が流れます
強いて言えば光、が映ってるんですがね
ま、とにかくあの映像

これはJホラーのアイコンを思い出させますよね
皆さんご存じ貞子が筆頭ですが
VHS特有の恐ろしさってのは、まさに90年代Jホラーのアイコンでした
で、いま、テレビも高画質化し、ブルーレイも出て、スマートフォンできれいな映像が見れる中
身近にあるノイズがのった荒い映像
それがインターホンの映像なんですね
で、ここに何がうつっているのか
それはよくわかりません
ただ一つ言えるのは、映っているのは光だということです
光が映るというのは、まさに根源的な映画、映像体験ですね

ノイジーな映像をこんな形で出してくるってのが
にくいなあと思いましたね
で、松岡が外にでて、街を歩きます

その映像もかなりノイズがのっていますね
で、結局彼が何を追っていたのか、
何を見たのか
わからない

わからないままに映画は終わるんですが
この終わり方もいいですね

これね、すべてを明らかにしたら、魔法が解けてしまうんですね
物語的な理屈ではなくて、感情的な起伏を重視して
すべてを語らずに終える

これですよ!
「蛇の道」になかったものは
「蛇の道」を語る回のときに「オリジナル版のよくわからんけどおもしろいところが、リメイク版ではわかりやすくてつまらなくなってる」と言いましたが
この「チャイム」では、ちゃんと、よくわからんけどおもしろい
になってるんですね
怖さ、という感情に寄り添ってますね
これが真骨頂よねと
改めて脱帽しました

とね、強風演出について語っていますが
他にもね、面白いところはたくさんありますね

田畑智子が感をつぶすところとか、渡辺いっけいが聞き込みをしているところ、ここで電車がくるのがまたいいんですね
あと息子が金をせびってきて、そのあとに部屋に行くとにやりと笑って振り返るとか

このにやりと笑うのは、序盤に田中がやってましたね
あそこもぞっとしますね
あれは編集のタイミングが完璧でした
「あっ」と思わせてくれましたね

面接とかも面白いんですが
まあこの映画のいいところは、たくさんあるんでね
また何度も見てみたいなと思いました

はい、それでは今週はこの辺で
面白いと思ったら高評価、コメントよろしくね
ということで、それではみなさん、また来週


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