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住宅営業マン、9棟目はずっと残る後悔。

住宅営業のキャリアも10年を超え、最近は商談をあまり上司に事細かく言われることなく自由に組んでいくことができるようになってきました。

色々と責任を感じることも多いですが、上司にあーだこーだ言われていた時期よりはるかに楽しく仕事ができています。

自分なりに、こうやって話を進めたらお客様に伝わるかな、こうやって商談を組んだらお客様のためになるんじゃないかなと考えて、うまくいったときは快感です。

今回は、まだ自分で商談を組むことができないで上司の言いなりだったとても後悔している過去のお話です。


展示場の初回接客がばっちりだったI様

3年目、私が接客をしたのはI様。

奥様一人でいらっしゃって、ゆっくりと展示場をご見学されていきました。

ダイニングテーブルに座ってお話をしていると、建替えをご検討で、一番気になった当社に真っ先にご来場いただいたとのことでした。

当社のデザインだけでなく、会社の体制などもご評価いただき、ぜひ進めたいとおっしゃっていただきました。

次の週に、ご家族を連れて再度ご来場いただき、改めてご計画の内容を詳しく聞いていきました。

お子様が4人いらっしゃって、部屋数をどうとっていくのかがポイントだったり、太陽光発電などの環境機器にご関心があることなど、一通りお伺いし、ご予算や進め方などをご案内しました。

その中で、土地が分筆されたのがかなり古く、測量図などもないことがわかり、設計と同時に早めに測量をさせていただくことになりました。


敷地調査当日に隣人が。。。

敷地調査をすぐに手配し、当日は私が立ち会いをしました。

測量会社の担当者と一緒に、境界の指示や、地盤調査のポイントを指示していると、隣人の女性に話しかけられました。

「何をしていらっしゃるんですか。」

「こちらのお宅の敷地を測っています。」

私が測っていると伝えたとたん、隣人の表情が一気にこわばり、急に人が変わってしまいました。

「なんであなたたちは私に断りもなくくぁwせdrftgyふじこlp!!!」

一気にまくしたてられましたが、正直何を言っているかわかりません。

恐らくは自分の立ち会いもなく、測量をし、境界を勝手に決められてしまうんではないかという不安からわーっとおっしゃっているようなのですが、感情に脳みそが追いついていないご様子で、聞き取れませんでした。

「これは建築の測量で、境界を決めるものではないんですよ」

と伝えたところで、全く通じません。

絶対に認めません、の一点張りで、わーわーと大きな声で騒がれてしまい、とても調査をできる状況ではなかったので、撤退をせざるを得ませんでした。


建築できない気配がプンプンしてきました。。。

撤退した後で、あわててお客様に電話をしました。

「やっぱり言われてしまったんですね。。。」

夜に再度訪問し、お客様からお話を伺うと、敷地の境界については不明瞭で、なおかつ隣人はおそらく精神疾患を抱えていて、まともに話ができない相手とのことでした。

付け加えて、この境界線は複雑で、隣人の一族が複数絡んでいるとのことでした。

これは。。。もしかすると。。。簡単に建たないやつでは。。。

笑顔で「それでは頑張りましょう!」と話を終えたものの、心中は穏やかではなく、不安で帰路についた記憶があります。


いやいや、やるんだよ!!

会社に戻ってから、すぐに当時の店長に相談をしました。

経緯を説明すると、「それは契約してもらってから、着工までに解決すればいいだろう」と言われました。

かなり複雑な敷地概況なので、建築できない可能性も十分ある中で、「とりあえず契約」をしてしまうことにかなり不安を覚えた私でしたが、成績もあがっておらず、強く主張できない私は、「いやいや、やるんだよ!!」と言われたら「頑張ります。。。」としか言えませんでした。


店長同席で契約のお願いをする

お客様と間取りの打合せを2,3回して、ついに見積提示をして契約のお願いをする段階まできました。

ここまで境界について、隣人親族にもアプローチをするものの、解決の糸口は見えていませんでした。

焦る私に対して、店長は特に心配している様子もなく、私の進捗報告を聞いても、「それは大変だなー、解決してあげなきゃなー」といった感じでした。

「見積出すの来週でしょ?一緒に行くわ。」

店長が大事な打ち合わせに同席されることが決まってしまいました。。。

見積出しの日、私は嫌な予感しかしていませんでした。

お客様とはすっかり本音でしゃべれる間柄になれたものの、境界の件もあるし、店長が同席することへの不安でいっぱいです。

いざ、設計が最終プレゼンをご案内し、営業が見積の説明を進めます。

標準仕様の話からオプションの説明をし、最後に値引きのご案内まで行い、「こちらの内容で進めていただけますでしょうか。」とクロージング。

これまで間取りにもプランにもご満足いただけたお客様でしたが、ここで表情が曇ります。

「おたくで建てたいという気持ちは変わらないので、今更他社を見るとかそういったことはありません。値引きに関しても、素晴らしい金額をご用意してもらったと思います。ただ、境界の件はどうなるでしょう。」

やっぱり聞かれました。

動いてはいるものの、うまく進展させることができない状況を、ご家族が心配していらっしゃるのも無理はありません。

ここで今まで黙っていた店長が口を開きます。

「ご安心ください。これからも変わらず、みのがお住まいが建つまで、必死にサポートさせていただきます。」

「わかりました。みのさんは本当によくしてくれているので、これからもお願いしますね。」

こうして、I様は当社でお住まいづくりをお任せいただくことになりました。


その後の顛末

このあと、私はI様のお住まいを建築できるように、必死に駆け回りました。

境界の確定に関わる人たちのところに出向いて話を確認したり、確定までに何が必要なのかを測量事務所と打ち合わせをしたりしました。

しかし、突き詰めれば突き詰めるほど、隣人の協力が得られない時点で何もできないことがわかりました。

行き詰まってしまい、契約から半年。

「いいよ、隣人は簡単じゃないから、待ちましょう。」

I様の言葉をもらい、長期戦になることになりました。

この辺りから、契約をしてよかったのか、私は悶々とし始めました。

二年の歳月が過ぎ、隣人と関係者の間に変化が起きます。

関係者の一人が、境界確定の裁判を起こしてくれたんです。

これは私も最後の手段として裁判があることは知っていたのですが、I様では裁判が起こせないような土地の所有関係になっていたために、関係者の方々に頼るしかありませんでしたので、神の救いの手でした。

「電話をもらえば、進捗ご報告しますよ!」

担当弁護士さんは、我々とは関係ないのに、快く進捗の状況を教えてくれる、優しい方でした。

「そんな簡単なものではないので、年単位は覚悟してください。ただ、裁判ですから、いずれ決着はつきます。」

とても嬉しかったです。

もちろん、I様からすると少しでも早く建てられるにこしたことはないと思いますが、「いつか建築ができる」というのは希望の光だったと思います。

一年後

「そろそろ終わりが見えてきたところです。」

二年後

「相手が担当弁護士を変えたので、話を聞かないといけないから延びてるんです。」

三年後

「相手が主張を変えたので、話を聞かないといけないから」

四年後

「相手がまた担当弁護士を変えたので」

隣人は、ありとあらゆる手を使って、主張を変えてきました。

裁判所はその度に話を聞かないといけないらしく、膠着状態が続きます。

契約から8年後

「みのさん、もういいんじゃないかな。」

I様からの電話での一言でした。

ご夫妻も定年を迎え、お子様は続々と巣立ってしまい、お住まいを建てるモチベーションも下がり、住み返される結論を出されたとのことです。

つい先月、解約の手続きをお手伝いしてきました。

心なしか、皆様には疲労の表情を感じました。

あのとき、我々が契約しようといわなければ、I様ご家族はすぐにあきらめて、新居で平和に暮らせていたかもしれません。

我々が、結局は隣人の承認がなければ何もできないのに、「できるかもしれない」という期待を持たせてしまったのかもしれない。

そう思うと、後悔しかありません。

これからお住まいを建てられる方につたえたいのは、「リスクが残ったまま契約するときは、そのリスクが解消できないとなったときに、ハウスメーカーと自分たちはどんな対応をとっていくのかを明確にすること」です。

住宅営業マンに伝えたいのは、「自分が売れてなかろうが、若かろうが、お客様に対してその時のベストを尽くしているかを胸に聞いてほしいです。もし、少しでも違和感を感じたら、お客様と本音でしゃべっていいと思います。」です。

あのとき、どこかで「店長の指示だし。」と思って契約に進んでしまった自分を後悔しています。

「頑張る情熱があっても、解決できないかもしれない」とはっきりお客様に伝えておけばよかった。

私たちは「建築できる」と約束はしていませんし、I様も「だまされた」どころか、「みのさんには本当によくしていただいた」と言って別れたけれど、私はこの後悔を胸に、お客様に本音でしゃべる営業を心掛けています。



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