CIDPで妊娠出産
2021年11月に子供を出産しました。
CIDPをもちながら出産した人の情報があまりなかったので、もし今後同じような方がいればと思い、記事を書くことにしました。もしかするとCIDP以外の難病でも参考になる部分があるかもしれません。
これを書くにあたり、というか妊娠・出産にあたり、あらゆるつながりのあらゆる皆さんに大変お世話になりました。近くでサポートしてくれた夫、家族、職場のみなさん、主治医や支援者のみなさんはもちろん、同じ病気をもち、産前に情報をいただいた方(日本だけでなく海外の患者さんにもお世話になりました)、同じ病気でなくても妊娠出産の話をしてくださった方、ずっと見守ってくださった方、直接は言葉を交わさなくても、SNSなどで気にしてみてくださっていた方もいたと思います。本当にみなさんのおかげです。ありがとうございました。
書いている人のプロフィール
・アラサー
・2008年発症し、プレドニゾロンと免疫グロブリンの点滴(大体3~4週に1度)で治療
・上肢、下肢の脱力 握力は1~15㎏を推移 悪化すると立ち上がりや長距離歩行が困難
・年1入院して免疫グロブリンの点滴治療
(個人が特定されそう(笑))
そもそもCIDPの妊娠への影響について
これまでCIDPに対する妊娠の影響については症例報告レベルで、システマティックレビューはありませんでしたが、2021年に下記のシステマティックレビューが上がっています。
Kohle F, Kuwabara S, Lehmann HC. Chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy and pregnancy: systematic review. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2021 May;92(5):473-478. doi: 10.1136/jnnp-2020-325321. Epub 2021 Feb 9. PMID: 33563801.
概要だけ簡単に書くと、
とのこと(訳の正確性は保証しません笑)。主治医からも、妊娠後期に悪化する人が多いとは聞いていました。
結果、私は妊娠5か月で筋力低下(握力が10キロ切ったため)のため免疫グロブリンの点滴入院1週間、出産後2週間で急激に悪化(立ち上がり、歩行不可、なんとか支えを使ってトイレは自立、食事も自助具でなんとか食べられる程度)しました。産後の入院もグロブリンの点滴。
どちらも胎児への影響等を考慮し、ステロイドの増量は行いませんでした。
あと些細な変化としては、妊娠発覚した2か月くらいから筋肉のぴくつきが明らかに増えました。これは後期に差し掛かるにあたって消えました。
とにかく、上のレビューにもある通り、妊娠はCIDPの悪化要因ではあるので、入院するつもりで生活を考えておいた方がいいと思います。また私のように、出産自体は悪化せずに乗り切ったけれど、その直後に一気に悪化するパターンもありますので油断大敵。
ちなみに産後5か月が経過した今は、握力15キロ程度に回復し、歩行も2キロ程度なら問題なく行えています。
妊娠まで
①治療法の確認
妊娠を考え始めてから、服用している薬が胎児に影響がないかどうか確認してもらいました。
この確認にあたっては、主治医の勧めで国立成育医療センターの「妊娠と薬外来」を受診しました。
リンク:https://www.ncchd.go.jp/kusuri/process/index.html
こちらの外来は、成育医療研究センター以外に、全国各地の病院でも外来を行っています。詳しくはリンクをご覧ください。
私はセンターに現在飲んでいる薬の情報を提供し、最寄りの総合病院で外来予約をして、受診してきました。病院によって価格設定は異なりますが、保険適応外なので、30分1万円だったと思います。
日本では、多くの薬が有益性投与となっていて、授乳や胎児への影響がどの程度あり、何をもって薬の「有益性が上回る場合」と言えるのか、患者側が判断するのが非常に難しいです。このセンターでは、動物実験を含めた様々な臨床研究の結果を情報提供してくれるので、そのデータを基に主治医や薬剤師、産婦人科医と相談して薬の方向性を検討することができました。
②使える社会資源の確認
私は実家も義両親も飛行機の距離に住んでいるため、妊娠中~産後のサポートはヘルパーや自治体が実施している産後ケアなどを使う必要がありました。事前登録が必要なものもあるので、元気なうちに調べて登録しておくとよいです。
そして、自分が難病をもっていて、こうした支援をスムーズに受けたいと思う場合、各窓口にバラバラに行くのではなく、地域担当の保健師さんなり、自分が使っているサービスの相談員さんなりに相談して、担当者をつなぐ面談をしてもらうのがいいのではと思います。
普通の地域担当の保健師さんは、難病の人がどんなサービスが必要か分からないですし、保育園の方ももちろん分かりません。障害福祉サービスの方では産前産後に特化したサービスに詳しいわけでもないので、自分からどんどんこんな支援が出来ないか?と提案していくとスムーズです。
そして、そんなエネルギーは産後には絶対ないので、産前から顔見知りになっておくこと、サービスの組み合わせでこんな生活がしたいと伝えてみることが大事だと思います。
私は8月に、保育園の担当の方と、自分が使っている障害福祉サービスの相談員さん、ヘルパーさん、地域担当の保健師さん(母子・難病のそれぞれ1名ずつ)、障害福祉サービスの担当者さんみんなで面談して、産前産後にどのような生活・支援が可能か話し合う場をもちました。
私が調べて実際に使ったのは下記のサービスです。
①保育園(生後5か月から利用)
②産後ケア(産後~4カ月未満で使える宿泊/訪問のサービス)
③障害福祉サービス(掃除・調理などの家事支援)
④訪問看護、訪問リハビリ(体調の確認と筋力維持)
⑤障害者手帳の取得(今のところ特にメリットなし)
⑥陣痛タクシー
登録だけして、使ってないのは下記。
①産後ヘルパー(使わなかった)
②ファミリーサポート(まだ使ってない)
それぞれについてはまた詳しく書こうと思いますが、
①保育園はうちの自治体は10月~11月が翌4月入園の申し込み締め切りだったので、逆算して7~8月ごろに近くの保育園見学に夫婦で回りました。
入園が決まってからは、上述の保健師さんに保育園に私の病気のことを事前に情報共有してもらい、
②産後ケアに関しては、産院が出産後4日目退院で、そんな体調で退院したら家で瀕死になりそうだったので、産後1週間、別の病院で母子の体調を見てもらうために利用しました。
結果的に、授乳や抱っこの体勢や母乳育児の支援もしてもらえて、利用してすごくよかったです。自己負担は4万弱だったと思う。
妊娠中
最初に書いたので若干割愛しますが、通常のつわりや後期の動けなさに加え、ステロイド服用による逆流性食道炎がかなり悪化してそれがずーっと大変でした。つわりが終わったらと思ったら逆流性食道炎で、結局生む直前までずっと胃液の逆流があって食べられるものが限られていました。
あと、後期になると本当に動けなくなるので、体調不良がCIDPの悪化なのか、動けなさによる筋力不足なのかの見極めが難しくなります。ぜひ握力計かなにか、自分の筋力を定点観測できるツールを持っておくといいかと思います。
また、医学的な問題として、脱力がある状態で経腟分娩ができるかどうかの問題がありました。これは産科の先生に、どっちがいい?と聞かれてとりあえず普通分娩で頑張って、難しければ吸引や緊急の帝王切開を検討ということになりました。
ただ、帝王切開の可能性がある場合、陣痛中も水を飲めないらしく、そうなるとかなりつらいので私はできれば避けたかったです。
結果的には、産科の先生に火事場の馬鹿力と言われたように、ハンドルを握ったりする力は残っていて、いきみも十分にできましたので普通分娩で産むことができました。
しかし、その後急激に悪化したことなどを考えると、できれば体力を温存できる可能性の高い無痛分娩や和通分娩も選択肢に入ってくると思います。うちの病院は高すぎて私は無理でしたが…(ある種の脳血管疾患などだと保険適応になるらしいですが、CIDPは今のところ無痛は保険適応ではありません)
出産後
無事に(全く気持ち的に無事ではないが)出産した後は、母子同室の病院でしたが産後の体力回復を優先して母子同室は行わず、預かってもらいました。
ここで助産師さんやプロに確認しておきたいポイントとしては下記かと思います。
①授乳姿勢の確認
②抱っこの姿勢の確認
③沐浴・おむつ替えの確認
①母乳、ミルクの如何に関わらず、授乳の姿勢は我々CIDP民とは切って離せない問題です。
母乳の場合でもミルクでも、一番腕に負担のない姿勢や、そのために必要な器具(高さを出すための枕、ハイローチェアなど)を助産師さんと一緒に検討したほうがいいと思います。
私の場合、母乳だと寝たまま赤ちゃんに授乳するリクライニング授乳(laid-back授乳)、または添い乳が出来たのがとても楽だったので(ミルクだと寝たままあげるわけにいかない)、結果的に母乳でよかったです。
ただ、出産後2週間で1週間ほど治療入院する羽目になり、その時でも3時間おきに搾乳をしなければならず、それは休めずにとてもつらかったです。一長一短…
また、母乳育児をしたい場合、産後直後からどれだけ赤ちゃんに吸ってもらうかが勝負になりますので、産後の体力がない人間にはちょっと辛いところがあります。
助産師さんに言われましたが、母乳の場合免疫を赤ちゃんに与えられるという点では、赤ちゃんが病気になって病院に連れていく…という肉体的負担が若干減る可能性もあるとのこと。ただこれは個体差が大きいので、そこまで期待しない方がいいかもしれません。
ちょっと話はそれますが、世の中、母乳・ミルクについては正しい情報を探す方が難しいくらい、あらゆる雑多な情報が氾濫しています。少しでも母乳育児に興味がある方は、ラレーチェリーグさんのウェブサイト、ちょっと理系な育児さんのウェブサイト、国際ラクテーションコンサルタント協会のウェブサイト、メデラのウェブサイトが、しっかり医師の監修のもと、エビデンスに基づいた情報が掲載されていますのでおすすめです。
②抱っこの姿勢の確認、③沐浴やおむつ替えの確認は、授乳姿勢と近いですが、いかに腕に負担のない抱っこをするかを助産師さん、OTさんと一緒に考えました。
文章では伝えづらいのですが、出来るだけCIDP民が弱い手首から先を使わず、手のひらを下向きにしたまま赤ちゃんの首の下に差し込み、体と腕を出来るだけ離さず、体に赤ちゃんを引き付けるイメージで抱くと最も負担なく抱くことができます。新生児期限定だけども。
また、腱鞘炎や腰痛にならないような抱っこ方法も同時に教えてもらっておくと、無用なトラブルを防ぐことができます。
そして、夫など自宅で一緒にサポートしてくれる人がいる場合、その人に育児手技を覚えてもらう必要があります。私は産後ケアの時におむつ替えの方法を夫にも一緒に教えてもらいました。今はコロナ禍でなかなか難しいかもしれませんが、産院に相談してみたほうがいいと思います。または産後に訪問助産師さんに来てもらって一緒に教えてもらうか…!
色々なサポート先
色々と体験談を書きましたが、他にも頼れる先輩方やサポート先を探して、妊娠前、妊娠中から情報収集をしておくことをおすすめします。
もちろん私の体験談でよければお話できますので、CIDPで妊娠考えている方で不安な方はぜひお気軽に(?)ご連絡ください。
(以下団体名クリックでリンクに飛びます)
”「てくてくぴあねっと」は、闘病しながら子育てをする方々や、その家族を応援する団体です。様々な病気で闘病しながら子育てをしている人たちが暮らしやすく、自分らしく輝ける社会づくりを目指します。”(サイトより)
オープンチャットに参加させていただいています。難病をはじめ、がんや色々な病気の方が参加されていて勇気づけられます。シンポジウムやラインのオープンチャット、オンライン交流会なども実施されています。
CIDPの国際財団です。こちらのシンポジウムで、上記のCIDPと妊娠に関する調査の情報を得ました。ほかにもアップデートがあればこちらのサイトに掲載されると思いますし、問い合わせてみてもいいと思います(英語)。
CIDP Facebookのプライベートグループ
9000人弱が参加する、世界のCIDP患者のグループ。Facebookに実名を出すのに抵抗がある方はニックネームでもなんでもいいのでとりあえずアカウント作って参加するといいかと思います。私はこちらで、出産経験のある方々にアドバイスをいただきました。ただこちらも英語。
日本のCIDP患者会です。今回直接お世話になりませんでしたが、おそらく妊娠に関する情報ももっていらっしゃると思うので、問い合わせてみるといいかと思います。
最初に紹介した国立成育医療センターの妊娠と薬情報センターです。同じサイトに、授乳とくすりに関する情報も掲載されています。
あとTwitterだと色んな経験者がいますので、みなさん優しく教えてくださると思います。また、疾患特異的なことは必ずありますが、脱力がある状態での育児などは他の神経疾患、筋疾患でも共通のポイントがありますので、CIDPの情報がないからといって絶望せず、他の病気を持つ方の体験談なども見てみるといいかと思います。私は重症筋無力症の方のブログや多発性硬化症の方のブログなどを見て、先輩の育児を色々と勉強させていただきました。
母乳に興味がある方向け
ラレーチェリーグさんのウェブサイト
オンライン交流会に参加させてもらい、楽な授乳について相談しました。出産後の入院中の搾乳についても相談に乗っていただきました。
(タイトルクリックでリンクに飛びます)
ちょっと理系な育児さんのウェブサイト
国際ラクテーションコンサルタント協会のウェブサイト、
メデラのウェブサイト
私の場合の体験談なので当てはまらない部分も色々あるかとは思いますが、CIDPを持っていて、妊娠や育児に不安を抱えている方が、少しでも安心できる情報になればと思います。次は実際につかってよかったツールなどを紹介できればと思います。
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