暖冬

 外の音が聞こえなくて、会場の客席の話し声が響かず、一つの音として存在する空間は久しぶりだった。ナマのエンタメに会いにきた、そんな感じがした。
 
 初めて学内公演を見た。舞台芸術学科、演技演出コースの公演。同期のみんなの公演だからな、そんな気持ちで3限の出席だけを済ませてホールに来たのだ。題名は『親守り子守り歌』 1970年代に起きた、コインロッカーベイビーなどの子殺し事件をテーマにした作品と聞いていたから、結構暗い雰囲気の公演なのだと思っていた。でも、それは違った。会場が爆笑に包まれるシーンもあり、ナマモノならではのアドリブを含んだシュールな面白さがあった。ポップな歌やダンスもあって、楽しい空気たっぷりのシーンもあった。

 僕はライブエンターテイメントを見るとき、始まった瞬間に感情が昂る人で、コンサートの一曲目と二曲目で涙を使い果たしてしまったことがある。感動するというよりも、感慨深いという感情に近いのかもしれない。それは今日も同じだった。オープニングでみんながステージに集まって歌った時、同じ志を持って芸大に来た仲間たちがエンタメのド真ん中にいるのを見て、涙腺が緩んだ。みんな主役でみんなカッコよかった。今後一生尊敬できる仲間がいるのを感じて嬉しくなった。

 とても大事な仲間が、一人でステージに立って、歌って、踊ってパフォーマンスするシーンがあった。どうしようもなく強くて、でも冷たい切なさも同時に抱えていた。敵わないなって思った。
 クライマックス、息はしていなかったような気がする。目の前にある全部に飲み込まれたようで。歌うみんなが衣装のズボンの裾を、強く握っていた。その拳が忘れられない。気づけば、後を引く寂しさが客席を撫でて消えていた。その優しい感触を余韻と呼ぶんだろう。外には静かな雨が降っていた。


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