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【感想・考察】著書『世論』(上) W.リップマン

今から約100年前に刊行された本。
彼はハーバード大学卒。卒業後は雑誌の編集に携わり、その過程でジャーナリズムの精神を学ぶ。
第一次世界大戦へ米国が参戦する時、和平準備の専門家委員会の中心人物に抜擢され、大統領と委員会の間をつなぐ主任連絡官となる。
リップマンは和平に関する「十四ヶ条」の原案作成のグループに加わり、そのうち八ヶ条はリップマンが執筆した。
…と、彼の紹介はざっとこんな感じです。

この本は大衆心理の形成をイメージの概念から論じています。
人間は現実の世界とそのイメージ(擬似環境とも言います)と人間の行動の三角関係が成り立っていると言います。
真ん中にあるイメージが、固定観念によって左右される事を「ステレオタイプ」と呼びます。

この本の感想については2、3回に分けて投稿しようと思いますが、今回は「ステレオタイプ」について。

まず、前提として誰しもステレオタイプを持っているということです。
永遠と流れるこの現実の世界がベルトコンベアーに乗って流れてると想像してみてください。
そこから私たちは、1つの事物を選び取り意見を持ちます。その選び取った事物は、それまで起きた出来事や色んな人の観念や思想などが複雑に絡み合ってできたものです。
もし、その事物を純粋無垢な心で見ようとするなら、そうした要素を1つずつ精査し、起きた事物をありのままに見ないといけません。

しかし、それは現実的に不可能ですよね。
そんな骨の折れる作業はとてもじゃないけどできません。人が類型やパターンを持つ事には経済性があるということです。
少なくとも、その意見は受け取った人やそれを伝えた人から作られる「合作」です。

また、ステレオタイプには理解不能なものを知覚できるようする効果もあります。
初めて聞く外国語を聞いても、個々の単語は聞き取れません。それくらい混沌とした状態を見るときに私たちは既に定義されてるものを拾い上げて、そのステレオタイプ化された状態で知覚をしがちなのです。

"見てから定義するのでなく、定義してから見る"

理解不能なものに理解できるよう断片的に捉え他とは区別し、一貫性の取れた自分なりの解釈がそこに出来上がります。

これは習慣的に私たちは行なっているでしょう。
例えば他人に対して。
現代社会では互いに深く知り仲良くなることもないまま、複雑に絡み合ったネットワーク・関係性ができています。自分が普段着ている服や食べ物がどこの誰が作ってくれたのか、普通目にすることはないでしょうし、同じ会社という組織に居て同じ企業理念を信じ、同じ目標に向かって取り組んでいるのにあまり話したこともない人は少なからずいるでしょう。規模が大きくなれば尚更です。

本来なら、個々人がちゃーんと関わり、話し、相手を知るわけで、個々人に対してそれぞれの「その人」のイメージや概念がきちんと出来上がるわけです。
しかし、上述したように現代社会ではそんな構図になっていないので、どうしても「その人」に対してイメージが先行して付き纏うのです。
私たちは錯綜とした文明に慣れておらず、お互いに隣人を知らないまま住んでいるのです。

一応言っておきますが、これが悪い事だと言っていません。リップマンもステレオタイプが悪だとは一言も言ってないし、批判的に論じてもいない。ただ、そうだと説明しているだけです。

先ほども言ったように、ステレオタイプや先入観には経済性があるわけですから、何か事物や人物などを捉えるときにあなたが持つ類型を示す特徴をその人の残りの部分に埋め合わせることで、労力の節約になるわけです。

1番大切なのは、私たちがステレオタイプ用いて物事を理解しようとしていると認識することでしょう。単なるステレオタイプに過ぎないことをです。
そうすれば、自分が持つステレオタイプが何故出来上がったのかを知ることもできるし、新しいステレオタイプに修正することも可能です。

こうしたことを勉強する意味ってなんでしょう。
私は、世界を良くしたいと思うなら自分自身の内側を変えるしかないと思っています。
究極の方法はこれです。
何か慈善団体を作るのでもなく、
平和活動を行い、戦争反対のデモを起こすのでもない。
政治家になって世界を変えようとするのでもない。
どれも無意味だとは言いません。素晴らしい事だと思います。
が、1番大事なところが抜けてるのではないかと。

ここまでざっとステレオタイプについて話してきましたが、これだけでも、
世界って人それぞれが自分の内側にあるイメージや観念を外側に投影してるのだな、ということが何となく分かりますよね?
この辺のことは今回の内容とズレてしまうのでもう終わりにしますが、

内側が変われば外側の世界で起きることも感じる事も見えるものも、全て変わるのです。
良い方向に向かうか悪い方向に向かうか、それは人によってばらばらです。

大衆心理について勉強するのも、こうした前提が私の考えにあるからです。
こうした技術的で専門性のあることも知っておかないと、世界の構造について正しく理解できないと思うので。

今回も最後まで見ていただきありがとうございます。

次回はもう少し中身に突っ込んで書いていきたいと思います。

また、宜しくお願いします♪
 


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