見出し画像

4/48.深い井戸の中で不安な心の揺れをおさめる_小説『ダンス・ダンス・ダンス|村上春樹』

不安、悲しみ、寂しさ、そんな感情に支配されてしまった時、
私はいつもこの本を手に取ります

村上春樹の紡ぐ文章は、読み始めた途端まるで自分が真空空間にいるように
周囲の音が吸い込まれて消えていく、、そんな感覚になるのです

そして周りから音が消えるのと同時に
自分の感情の不穏な揺れにもなめらかにブレーキがかかり
気がつくと不安や悲しさといったざわつきもおさまっている

そうやってこの本は何度も何度も私を救ってくれたのでした


村上春樹の小説には「井戸」がよく出てくる

そしてこの「井戸」は心理学者フロイトの言葉を意図しているのではないか、
という論文を読んだことがある

フロイトは人間のこころを「イド(id)」「自我(ego)」「超自我(super-ego)」の3領域に分け、そのid(自分の心の中にある無意識の意識)のメタファーなのだ、と

些細なことで移りゆく今の感情に振り回されず、その根底にある無意識へと身を任せよう…そんな井戸(id)が心の揺れをおさめてくれるのです

村上春樹の小説はどれにもこの効果があるのだけど
いつも手に取るのは『ダンス・ダンス・ダンス』

「踊るんだよ」羊男は言った。「音楽の鳴っている間はとにかく踊り続けるんだ。おいらの言ってることはわかるかい? 踊るんだ。踊り続けるんだ。何故踊るかなんて考えちゃいけない。意味なんてことは考えちゃいけない。意味なんてもともとないんだ。そんなことを考えたら足が止まる」

『ダンス・ダンス・ダンス』

そしてこの一節が、
心を沈める小説の中の心を動かした一節なのです

いいなと思ったら応援しよう!