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『出不精』~無駄な時間~子供たちに贈るやさしいエッセイ 卒業生 長谷川尚哉(はせがわ なおや)

梅雨が終われば夏はすぐそこです。激しく照らす太陽の下、外で過ごすもよし。冷房の効いた室内で過ごすのもいいですね。

青空の下から、そして同時に屋根の下からお贈りするエッセイ。
ぜひ、ご覧ください。

リテラ「考える」ことばの教室 卒業生 長谷川尚哉


 私は、休日にはあまり家から出ない。外出は好きではないのだ。そして不思議なことだが、外に出るのが好きではないからといって、屋内にいるのが好きというわけでもない。いったい私はどこにいるのが好きなのだろう。私は優柔不断なので、世間の風潮的に優勢らしい立場をとることにする。

 節分になると世の子供たちは、
「鬼は外!」
と叫びながら、鬼のお面をかぶった保護者や監督者たちに炒った豆を投げつける。この豆は節分が近くなるとスーパーで売られるのだが、今年の一月下旬に見に行ったら、なんと川崎大師で清めたものが売られていた。川崎大師というのは関東三大師の一つにも数えられるすごいお寺であり、そんなすごいお寺で清めた豆は、ものすごくありがたいし、ものすごく強いに決まっている。
 人間側がこのように強力な武器である豆を持っていることを知りながら(豆まきの風習は千年以上の歴史があるそうなので、知らなかったとは言わせない)、それでも鬼が民家に押し入ってくることになっているのは、それだけ屋内で過ごすのが「いいこと」だということを表しているのかもしれない。

 節分といえば、対鬼最強兵器である豆を、「福は内!」
と言いながら家中にばらまいたり、食べてしまったりするのはどういうわけなのだろう、と今ふと疑問に思ったが、この文章の本題には関係ないので気にしないことにする。

 節分の鬼のことを考えた私は、内にいる方がいいことだという風に決めようかと思ったが、そこで大切なことを見落としていたのを思い出した。
 グーグルマップの混雑度表示である。
 グーグルマップには混雑しているエリアが黄色く光って表示される機能があり、混雑度が高ければ高いほどその黄色が鮮やかになるのだが、浅草寺や錦糸町駅周辺、そして我らが北千住駅西口などは、平日よりも休日の方が鮮やかに黄色く光る。仕事をしなくてもいい日、つまり外に出なくてもいい日に自らの意思で外出している人々がこんなにもたくさんいるのだ。
 決まった。外にいる方がいい。これはもう民衆の総意だ。

 そういうことに決まったので昨日少し遠くまで外出してきたが、驚くほど何もなかった。楽しいとかつまらないとか、いいとか悪いとかの話ではなかった。何もなかった。どうやら何をするかが大切であって、外にいるか内にいるかはあまり大切なことではないらしい。


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