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【超絶神作】『鬼太郎誕生ゲゲゲの謎』【目玉の親父】


はじめに

 4/29からprime videoで独占見放題配信が始まった昨年の大ヒットアニメ映画『鬼太郎誕生ゲゲゲの謎』視聴完了いたしました。昨年映画館で一回だけ観て内容は把握していたのですが、じっくり鑑賞および考察したいと思っていました。

 コアなファンの方々は劇場に何回も足を運ばれたようで、特に年齢層に関係なく女性の心を強く捉えて離さなかった作品に感じていました。

 ゲゲゲの鬼太郎というと、2015年に亡くなった漫画家・妖怪研究家の水木しげる先生の最高傑作であると認識しています。
 鬼太郎は妖怪にもかかわらず人間の味方をするということは、子供の頃に触れて知っていたのですが、ここまで深い背景を描いた作品だとは知りませんでした…。。是が非でも記録したいと思いました。

個人的な評価

ストーリー  S+
脚本     S
構成・演出  S+
思想     S++
作画        S
キャラ    S
声優・歌   S
バランス   S
総合     S+

S→人生に深く刻まれる満足
A→大変に感動した
B→よかった
C→個人的にイマイチ

内容のあらすじ(ネタバレなし)

 ”お主、死相が出ておるぞ。この先、地獄が待っておるー”

 廃刊間近となっている雑誌の記者・山田は、廃村となった哭倉村(なぐらむら)へやってきました。山田は同じく村へやってきた鬼太郎、猫娘、目玉の親父と遭遇しますが、”引き返すように”という警告を無視して、鬼太郎たちに取材しようと付き纏います。

 時は遡り、昭和31年(1956年)。当時の日本で政財界を牛耳っていた龍賀一族の当主、龍賀時貞が死去します。東京で帝国血液銀行に勤める水木は龍賀一族の経営する製薬会社「龍賀製薬」担当者であり、時貞の娘婿である社長の龍賀克典とは懇意にしていました。水木は次期当主と目される克典にアピールし出世の足掛かりとすべく、一族が暮らす哭倉村へと向かいます。

 哭倉村で、水木は東京に憧れている龍賀沙代と彼女の従弟の長田時弥に出会います。龍賀家の邸宅では、克典や夫人の乙米をはじめ一族が集まり、水木も同席します。
 しかし、そこで発表された時貞の遺言は、水木の思惑に反し、引きこもりだった時貞の長男・時麿を当主に指名する内容で、その場は混乱します。

 翌朝、時麿が何者かに惨殺されます。村長の長田幻治が犯人候補として捕らえたのは、行方不明の妻を探すため村に現れた謎の男(後の鬼太郎の父)でした。
 男は時麿殺害の容疑をかけられ、殺されそうになりますが、水木の説得により阻止され、龍賀家の指示により水木の監視下に置かれます。男は水木に名を問われても名乗らず、水木は仕方なくゲゲ郎というあだ名を付けました。

 初めはゲゲ郎を訝しがる水木でしたが、彼の奔放な振る舞いに振り回されるうち、ゲゲ郎がかつて地球を支配していた先住民・幽霊族の末裔であると知ります。
 彼の影響で水木は妖怪を見る力に目覚め、村を彷徨う様々な怪異に出くわします。ゲゲ郎の一件以降も龍賀家の者が次々と惨殺される事件は続き、人々には不安が広がっていきます。

 そんな中、水木は村にやってきたもう一つの理由をゲゲ郎に明かします。実は龍賀製薬は、使用した者に多くの生命力を与えて数日間不眠不休で働き続けることを可能にする血液製剤M」を密かに開発して特定の顧客にのみ販売していました。
 Mはその効能により日清戦争以降の日本が行ってきた戦争で勝利に貢献したとも噂されており、これにより一族は政財界をも牛耳るほどの権勢を誇っていました。水木はMの利益を得んとする会社の密命により、その秘密を暴くため哭倉村にやってきたのでした。

 ゲゲ郎の妻の所在、Mの秘密、龍賀一族惨殺の真相。怪奇な事件を調べていくうちに、二人は龍賀家と哭倉村が長きにわたり隠し続けてきたおぞましい真実を知ることになるのでした。 

感想(ネタバレあり)

 昨年劇場で鑑賞した際には、ゲゲゲの鬼太郎を年齢制限なしで描くと、因習村モノ・怪奇モノの名作アダルトゲームに近い感じになるのだな…という感想を抱きました。
 具体的に私が連想したのは、CLOCK UPの『Erewhon』、美遊の『幽明境を異にする』、大熊猫の『初夜献上』などでした。

 戦争に勝つため、国のため村のため、など大義名分は微妙に異なるものの、体制維持のために女性の尊厳や人権、感情を無視して徹底して酷い目に遭わせる犠牲を強制し、よそからやってきた主人公がその精神文化に異常を感じて、一緒に逃亡あるいは救出を試みる内容のゲームです。

 しかし、prime videoで改めて視聴すると、本作のあまりの奥深さに2回目の鑑賞にも関わらず、しばらく放心状態になりました。

 自分が心に受けた衝撃の要素を自己分析してみると、

人のためにするように見せて実は自分の利益を図っているだけの人々の醜さ(所謂、”おためごかし”

②ゲゲ郎の、妻に対する本物の純愛

③人間に傷つけられ、絶滅の危機に瀕しながらも人間を愛し信じ続けたゲゲ郎の妻の真心

④経済的繁栄と引換えに理不尽に虐げられ死んでいった人々の恨みが、妖怪狂骨となって厄災を呼び込んでいる

⑤ゲゲ郎は犠牲となってすべての怨念を引き受けるも浄化しきれず、我が子・鬼太郎に思いを託した

…の5点に集約される気がしました。泣きました。Blu-ray買います!

 本当の地獄と絶望を知っている水木しげる先生が真に伝えたかったこと。物質的な豊かさにばかり目を奪われ、何が本当に大切なものなのか見失いつつある心の貧しい現代人に対して、痛烈に何かを訴えかける啓蒙的で比類なき名作でした。


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