見出し画像

最後のネオン。


そう言えば家族水入らずで食事をしたことがなかった事を思い出す。

家族だけでって思い出すと、一度だけレストランって所へ連れて行ってもらったのが幼少の頃の思い出に強烈に焼きついている。
人から見れば貧乏だったんだろうね。
大人になると理解できる事。

他の人から見れば土地も家もあるから裕福に見えただろうな、俺の家は養子に入った家族で俺とおじいさん、おばあさんは血がかなり薄い続柄だった。 
親族から見放され身寄りのない年寄り夫婦の家へ入った。

父ちゃん、母ちゃんに本当は甘えたい・・本当はね。
凄く甘えたかった。

しかし子供ながら必死に心の内を隠した、今思うと体裁構わず甘えられる自分がいたらこんなに
「人生攻撃するんじゃ~~~~~~!」なんて自分じゃなかったと思うw

その時には悲しいなんて思いはないけど、今考えると本当切ない。

あの家がなかったら、あの養子の話しがなかったら。今でも定義のわからぬ普通の家族って言葉に憧れる。赤の他人に労を費やしてきた親父とお袋。

たった一度だけのレストランの想い出、初めての家族水入らず。
あの時間には淡くて甘い思い出が詰まってる。
俺と母ちゃんと父ちゃんと弟だけのたった一度きりの食事。

いつになく朝から化粧してお洒落して、照れくさそうなお袋、親父の防腐剤臭い背広、日曜日に付けるヘヤートニックの匂い。
いつもと違う日曜日の光景も脳裏に焼き付いている。
4人でバスに乗って街に向かう、バスなんか滅多に乗れないから弟も俺も嬉しくてはしゃいでバスを待ったな。カーブから顔を覗かせたバスはなんて表現したら良いかわからない高揚感。 
それから電車にも乗らせてもらった。

駅に着けば沢山の人だ、迷子にならない様に母ちゃんと父ちゃんと手を繋いで歩いた。 
レストランの階段を登る母ちゃんの靴の乾いた音・・俺と弟のはしゃぐ声が狭い階段に響いた。

これがレストランか~!と思った・・そうでなくても良い・・ハンバーグにカレーライス・・

フォークにスプーン、グラスの水。一度きりの贅沢だった。

そしてこの時間も。あの日あの時間照れくさそうに笑っていた母はその後他界した。

俺にとっての家族の思い出だ。
たった一度だけ連れてってもらったレストランは。
俺の中で絶対にレストランだった。

弟がモグモグ食べている・・みんなは見守り笑っている・・それだけで良かった。

帰り道、親父は俺の手を強く握り締めた親父と見たネオンが今でも忘れられない。 
帰りがとても寂しく思えた冬の帰り道
俺は親父の背中で同じ夢を繰り返し見ていた。

あの寒い冬に見たネオン、あのホームの端に立つと見えるコカコーラのネオン。
今はもう無くなったあのネオン。

貧乏だったかもしれないけど、ささやかな幸せは他の何にも変えられないもの。 
この思い出があるから自分は何があっても、とても幸せです。 

ありがとう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?